息子へ。被災地からの手紙「神戸の人たちの津波への危機感」

iRyota25

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避難誘導看板の周りが暗く見えるのは、ライト内蔵の電飾表示が明るいから。この誘導看板が設置されているのは神戸の中心街、元町のアーケードの天井だ。

アーケード街全体が見えるように撮った写真を補正してみたものの、ライト入りの誘導看板は白く飛んでしまった。それだけこの誘導表示が明るいということ。アーケード街自体、写真よりもっと明るい印象だから、この誘導灯がどんだけ明るいのか想像してほしい。看板の明るさは、街行く多くの人に津波の危険と避難場所を周知したいという意図が、それだけ強いということでもある。

直下型地震の被災地で意識される津波の危険

東日本大震災の後、その場所の海抜や避難場所を示すステッカーが日本中のさまざまな場所で見られるようになった。神戸でもたくさん表示されている。

神戸市危機管理センターのSONAE TOU
神戸市危機管理センターのSONAE TOU
メリケンパークそば
メリケンパークそば
新長田と鷹取の中間付近
新長田と鷹取の中間付近

その数は、東海地震が心配されている静岡県よりも多いだろう。さまざまな場所に海抜ステッカーや避難誘導ステッカーが貼り付けられている。電柱はもちろん、ショーウィンドウや自動販売機、歩道橋の橋脚など、目立ちそうな場所で貼れるところならどこにでも貼るといった勢いだ。

海抜ステッカーも貼られている神戸市役所別館、危機管理センター1階にある防災情報普及のための施設「SONAE TOU」(備えとう?)には、南海トラフ地震で想定される津波新水域や土砂災害の被害想定マップが展示されている。それも床面に。

展示を見て回りながら、ふと足下に地図があることに気づいた。見ると神戸の地図だ。それも津波浸水域マップ。自分がいま神戸市内に実際に立っているという実感と床面の地図がシンクロして、ほとんど無意識のうちに自分がいる場所を探してしまった。その場所で想定される浸水と、どの方向に逃げたらいいのかが一瞬のうちに飲み込めた。

靴も一緒に写せばよかった。床面のマップはかなり大きい
靴も一緒に写せばよかった。床面のマップはかなり大きい

ハザードマップのこんな示し方を見たのも初めてだった。

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想像力の違い

電飾看板もステッカーも床面のハザードマップも、神戸の人たちの津波に備える気持ちの現れなのだろう。その危機感がそうとうなものだということが伝わってくる。しかし同時に、神戸と津波というふたつの言葉がうまく結びつかず、当惑している自分がいたことも白状しなければならない。

神戸は阪神淡路大震災でたいへんな被害を受けた。震災後21年たって、外見上は復興したように見えても、誰一人からも復興したという言葉は聞かれない。大都市を襲った直下型地震の傷は深い。その印象の強さが、自分の中で神戸と津波を結びつかせないのかもしれない。

数日前「あざ笑うかのような災害のパターン」に書いた「過去の経験をいかすだけではない工夫や想像力」が欠如していたのは自分自身だったということだ。

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阪神淡路大震災の被害と今日までの歩みを深く学ぶことができる「人と防災未来センター」には、東日本大震災の被災地からのメッセージや、必ず来るとされる南海・東南海・東海地震や首都直下地震への警告や備えの必要性を訴える展示もある。

人と防災未来センターの展示より
人と防災未来センターの展示より
人と防災未来センターの展示より
人と防災未来センターの展示より

阪神淡路大震災の状況を示す現物や写真、パネルなどの展示を見て回った後に、東北の大震災、そして将来起きるべき災害についての展示を見ると、阪神淡路を経験した人たちにとって、それが他人事ではないという感覚がひしひしと伝わってくる。

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私だって、大災害を他人事と思わないようにと訴えたりしているが、ふと思う。

5年3カ月前、真っ黒い水が仙台平野の家々や道路を飲み込んでいくテレビの中継映像や、気仙沼の町を夜通し燃え続けた火災の映像に見入りながら、私はただ呆然とするほかなかった。津波に飲み込まれていく場所、燃え続ける町にはたくさんの人がいたのは間違いないのに、そのことをしっかり理解したり想像したりしていたのだろうかと。

阪神淡路大震災では津波による被害はなかった。東日本大震災とでは被害の様相はまるで違っていた。それでも阪神淡路大震災を経験した人たちは、東北の大震災を伝えるニュース映像に、もっとリアルで切実なものを感じていたのは間違いない。

それがこんな言葉につながるのだと思う。神戸で知り合った人に、東北には何度か足を運んでいるというと返ってくる言葉。「ありがたいわ。私たちも行きたいのだけれど、まだまだ行けるような状況じゃないから」

それが津波避難を周知するための大量のステッカーや電飾看板につながっているのだと思う。

それが床面にハザードマップを展示するというような、伝えるための工夫に力を入れることにつながっているだと思う。

同じ思いが東北の人たちの中にもある。熊本まで2日以上かけて支援物資を直接届けに行った人々。地震翌日には支援活動を立ち上げた南三陸の人たち。行きたくても行けない人たちの気持ちを汲んで石巻で焼かれている「くまモンのほっぺパン」…

想像力なんだと思う。自分と対比して考えれば他人事ということにはならない。

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「くまモンのほっぺパン」は、日和キッチンであの美味し過ぎるパンを焼いていた高橋さんがつくっている。ぜひ一度食べに行こう。

防災情報を伝えるための工夫も

神戸は観光の町でもある。日帰り・宿泊合わせると年間2250万人以上の観光客が訪れる。神戸市は観光客を主な対象にした災害情報の発信にも力を入れている。そのひとつが神戸市津波防災ウェブサービス「ココクル?」

中味をちょっと覗いてみよう。

津波警報が発令された際に、いまいる場所の浸水想定やどこに避難したらいいかを簡単に知ることができる。またフェイスブックなどで現在位置を家族や友人に知らせる機能もある。

神戸の地形の特徴から、避難行動の基本を知ることができる。

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