2015年8月27日、海上自衛隊の新しいヘリコプター搭載護衛艦がジャパンマリンユナイテッド磯子工場で進水した。全通型の飛行甲板を持ち、外見上は空母のように見えるこの護衛艦は2013年に進水し、今年3月に就役した護衛艦いずもの二番艦。驚きだったのはその名称。なんと大日本帝国海軍の大型空母「加賀」をひら仮名表記にした「かが」と命名されたのだった。
旧日本海軍の「加賀」は日本で三番目に建造された航空母艦。世界で初めて空母として完成した小型空母「鳳翔」に続き、天城型巡洋戦艦(高速戦艦)2隻(天城と赤城)を空母に改造していたところ、天城が関東大震災で破損したため、長門型戦艦の改良型として進水していたもののワシントン軍縮会議で廃棄方針が決まっていた加賀が、急遽航空母艦に改造された。
完成当時は三段の飛行甲板を有する特異な構造の空母だったが、のちに全通甲板に改造され、90機もの航空機を搭載できる大型空母となった。
太平洋戦争では真珠湾攻撃の主力として参加したこと、ミッドウェー海戦で沈没したことがよく知られるが、加賀は世界ではじめて実戦に参加した空母でもある。
加賀搭載の航空部隊による初の実戦は1932(昭和7)年の第一次上海事変で、2月5日に中国軍のアメリカ製戦闘機と空中戦を行い、2月22日にはアメリカ人義勇兵ロバート・ショート機を撃墜している。その後も、日中戦争で機動部隊の中核として戦闘に参加。加賀は日米戦争のみならず、日中戦争にも深く関わった航空母艦だった。
ひるがえって、いずも型護衛艦の2番艦である「かが」。こちらは形状こそ航空母艦のように見えるが、固定翼機を運用することを空母の要件だと考えれば、着艦装置を備えていない「かが」は明らかに空母ではない。海上自衛隊はヘリコプター9機を同時運用可能なヘリコプター護衛艦として運用するとしている。
しかし、「かが」や「いずも」の艦種記号「DDH」(ヘリコプター搭載護衛艦)は、アメリカ式の艦種分類ではヘリコプター搭載「駆逐艦」を意味する。駆逐艦とは水雷艇や潜水艦を駆逐(追い払う)する小型艦のことで、旧海軍で最大の駆逐艦「秋月型」でも満載排水量は3,900トン弱(それでも大戦中では世界最大級)。戦後駆逐艦の大型化が進んだとはいえ、現役の米駆逐艦「アーレイ・バーク級」でも9,650トンほど。
いくら海自が言い張っても、2万トン級の「かが」は世界から見れば明らかに護衛艦=駆逐艦ではない。いまのところ空母としては使わないものの、将来的には垂直離着陸可能なF-35Bを運用する可能性がある「準空母」と見なされても仕方がないだろう。
「かが」と同型の「いずも」のスペックを海上自衛隊のホームページから引用する。
基準排水量:19,500t
主機械:ガスタービン4基2軸(ジェットエンジン4機でスクリュー2つを回す)
馬力:112,000PS
速力:30kt(約55.6km/h)
乗員:約470名
寸法:248x38.0x7.3(長さ、幅、深さ)
主要兵装:
高性能20ミリ機関砲 2基
対艦ミサイル防御装置 2基
魚雷防御装置 1式
対水空レーダー 1基
対水上レーダー 1基
水上艦用ソーナーシステム 1式
EW装置 1式
情報処理装置 1式
空母ではないといっても空母に見なされかねない「かが」。護衛艦の名称は必ずしも旧国名から取らなければならないと決まっているわけではない。山、川、地名、気象・天象などから取ると決まっているだけだ。
海自は「ひゅうが型」「いずも型」と全通型甲板のDDHを2種類保有しているが、艦の名前は「ひゅうが」「いせ」「いずも」。日向と伊勢は太平洋戦争後期に航空戦艦(艦の後ろ3分の1ほどで水上機などを運用する構想)に改造された戦艦の名前に、出雲は日露戦争時の装甲巡洋艦(1945年沈没するまで現役)の名に通ずる。しかし、旧海軍の空母の名前をずばり踏襲したDDHは「かが」が初めてだ。
そして、ここに到って空母的艦船に対する海自の命名の選択肢もほとんど潰えたのも事実だ。飛竜、翔鶴、瑞鶴、大鳳のように最初から空母として作られたフネの名を命名することは困難だろう。と言って、他の艦種から改造された空母の名も「赤城」(パールハーバーを攻撃した機動部隊の旗艦)、「信濃」(当時世界最大級の大和型戦艦からの改造空母)、あとは客船・出雲丸や橿原丸を改造した飛鷹・隼鷹くらい、それ以外は実質的な戦闘に参加していない小型改造空母しかない。
「かが」は、その名をもって海軍としての威信を世界に示す最後のもの、だったのかもしれない。しかし――
つらつら思うに「かが」よ、もう少し近隣諸国を刺激しない穏当な名称でも良かったのではなかろうか。
君の名は、「ゆきかぜ」でも「かげろう」でもよかったのではないか。
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