東京電力が発表した「原子炉建屋からの追加的放出量の評価結果(2015年7月)」について若干の解説を加えます。
一番左の棒グラフが先月7月についての評価です。「<3.0E+05」という数値は、1時間あたり「300,000ベクレル未満」の放射性物質が大気中に放出されているとの「東京電力の評価」を示しています。
事故から4年以上が経過した今でも、原子炉建屋から放射性物質の放出が続いていることに驚かれる方も多いかもしれません。事故以来、建屋の破損箇所や開口部、ガス管理システムから放射性物質の大気への放出が続いているは事実です。しかし、その濃度は大きなトレンドで見れば減少しているのも確かなようで、今回発表された評価では、事故原発の敷地と外部の境界での被曝線量は、年間でも「0.00092ミリシーベルト未満(92マイクロシーベルト)とのことです。
逆に、今月の数値が前月までと比べて大きく減少しているように感じる方もあるかもしれません。この件については、東京電力は次の通り評価を総括しています。
1号機について,建屋カバー解放に伴う放出量評価を追加した。建屋カバー解放後の放出量は,前回カバー解放時(2014年11月)とほぼ同等であった。6月と比較して,建屋カバー解放前の1号機は,連続ダストモニタ値の期間平均が低下したこと及び連続ダストモニタ値のばらつきにより,月一回の空気中放射性物質濃度測定値と連続ダストモニタ値の比が減少したため,放出量が減少した。
2号機は,ブローアウトパネルの隙間における月一回の空気中放射性物質濃度測定値が減少したこと及び当該箇所の月間漏洩率が減少したため,放出量が減少した。
3号機及び4号機は,先月の放出量評価結果と同等であった。
放射性物質は時間の経過とともに減衰していくものです。その減り方は放射性核種によって異なりますが必ず減っていきます(半減期という言葉は半分に減るまでの期間で、セシウム137やストロンチウム90は30年ほどで半分に減る)。
東京電力の発表は、放射性物質そのものが前月比で約30%に減ったと評価しているのではなく、数値の変動には1号機での建屋カバーの開放や、評価基準となる測定値によるばらつきが大きいことを示しています。つまり、放射性物質は時間とともに減っていくけれど、突然減少するものではないという「事実」と、測定・評価の困難さ、あるいは事故原発建屋がおかれている環境に、測定値のばらつきを生じさせる変動が生じている可能性をも示すもの。増えてはほしくないものの、急激に減ったら減ったでそれもまた心配の種になるという種類のものだということです。
いまも続く事故原発建屋からの大気中への放出。線量が高い過酷な環境下で東京電力はどのように測定し、評価しているのか簡単に紹介します。
連続性を考慮した評価「手法」が取り入れられたのは今年の4月以降
上に引用したグラフの2015年4月のところに大きな破線で示されている「連続性を考慮した評価手法に変更」したことを示すライン。これ以前は、月に一度の測定で評価を行っていたとのことです。
では「連続性を考慮した評価手法」とはどんな手法なのでしょう。
資料から読み取れるのは、連続して測定しているベータ核種のデータの変動を、「月に1回」測定しているセシウム134やセシウム137のデータに当てはめて、「同様な変動を示しているだろう」との仮説の元に、評価の元になる空気中放射性物質濃度を推定しているということです。
「連続的なデータ」ではなく「連続性を考慮した評価」と、まわりくどい呼び方なのはそういう訳なのだと納得です。しかし、今年の3月以前の評価は変動も考慮しない、1回の測定によるものだったのですから、評価の価値は高まったといえるでしょう。
(厳しく見れば、3月以前の評価は参考程度のものに過ぎないとも言えます)
もちろん、間接的な評価ではなくダイレクトに測定可能な機器の導入(あるいは開発)が待たれるのは言うまでもありません。
1号機(カバー設置時)
建屋全体にカバーが設置されていた1号機については、カバー開放前と後とで異なる評価方法が採られました。
カバー設置中の評価対象は、建屋カバーの隙間から漏洩する放射性物質と、ガス管理システムから放出する放射性物質の2通りでした。
1日に建屋カバーから漏れ出す空気の量は、建屋カバー内に流入する空気と流出する空気の量を風向、風圧、隙間の形状などから計算し、そこから求められた東西南北16方位ごとの漏洩率によって算出されています。これに測定された全ベータ核種の平均値に「実測値/全ベータ」の相対比を乗じて建屋カバーの隙間からの漏洩量は求められています。(まわりくどい言い方で恐縮です)
つまり、「風」によって大きく変動するということです。
ちなみに、原発から約10kmの地点に設置されている気象庁のアメダス「浪江」のデータを見ると、月平均風速、最大風速、瞬間最大風速のいずれも7月は他の月に比べて大きく低下していることが分かります。
ガス管理システムからの放出量は、外気の風とは関わりなく、放射能の実測値と全ベータの連続測定値の相対比から割り出された平均値に、ガス管理システムの流量を乗じて算出されたようです。
その計算から導き出された結果は、セシウム134と137の合計値は、毎時「170,000ベクレル」未満との評価でした。
1号機(カバー開放後)
建屋を覆っていたカバーの撤去作業が始まった7月28日からは、建屋のオペレーションフロアの原子炉のすぐ上からの漏洩、機器ハッチと呼ばれる核燃料や大型機器の積み下ろしを行うために建屋内部に設置された大型開口部からの漏洩、さらにガス管理システムからの漏洩を計算によって評価しています。
ガス管理システムについての計算方法はカバーがあった頃と同様です。また建屋の隙間として計算の対象とされている機器ハッチ付近からの空気漏洩率も、カバーがあった頃と同じ計算方法で算出されています。
非常に興味深いのは、原子炉直上部からのダスト放出の元となる気体の量が、燃料から発生する崩壊熱による蒸気発生量によって求められている点です。カバーが外された1号機のオペレーションフロアでは、1時間あたり216立方メートルの蒸気が発生し、それによって放射性物質の大気中への放出が続いていると評価されているのです。この蒸気が原子炉内部から出ているものなのか、使用済み核燃料プールからの蒸気発生量との総計なのかどうかは、この資料では触れられていません。
1号機は建屋の屋根部分が倒壊し、オペレーションフロアが露出している状況ですが、風などによってガレキ中の放射性物質が拡散する可能性についても言及されませんでした。ガレキ中の細かな粒子の飛散を防ぐ薬剤の散布が念入りに行われたことと関係があるのかもしれません。
セシウム134と137の合計値は、毎時「5,700ベクレル」未満と、カバーがあった頃に比べて2ケタ低い評価でした。不思議ですね。
2号機
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