東京電力福島第一原発1号機では、燃料取出しを急ぐため、建屋全体を覆っているカバーの解体工事を今年の9月末から開始する予定でしたが、10月15日、工事開始を来年3月まで延期すると発表しました。2015年度から開始される予定だった1号機オペレーションフロア(原子炉上部の蓋や使用済み燃料プールがあるフロア)でのガレキ撤去作業は、2016年度までずれ込むことになります。
建屋カバーとは、爆発で壊れた1号機建屋から放射性物質が飛散するのを防ぐために、建屋全体を覆うように造られたカバーです。鉄骨の枠組みに特殊な取り付け金物でパネルを固定して組み立てられています。組み立て当時の様子を紹介する東京電力の写真を見ると、その構造や大きさが分かります。
9月25日公開の資料でも「準備が整い次第着手」とされていたが
9月25日に「廃炉・汚染水対策チーム会合 事務局会議」の資料として経産省が公開したペーパーには次のように記されていました。
1号機については、オペレーティングフロア上部のガレキ撤去を実施するため、原子炉建屋カバーの解体を計画している。建屋カバーの解体に先立ち、建屋カバーの排気設備を停止(2013/9/17)。
準備が整い次第解体に着手。建屋カバーの解体及びガレキ撤去の際には、放射性物質の十分な飛散防止対策、モニタリングを実施する。
1号機建屋カバー解体
使用済燃料プール燃料・燃料デブリ取り出しの早期化に向け、原子炉建屋カバーを解体し、オペフロ上のガレキ撤去を進める。建屋カバー解体後の敷地境界線量は、解体前に比べ増加するものの、放出抑制への取り組みにより、1~3号機からの放出による敷地境界線量(0.03mSv/年)への影響は少ない。
9月17日に「排気設備を停止」という言葉からは、解体作業が秒読み段階に入っていたことが伺えます。東京電力のホームページには、解体作業の作業実績を毎日更新予定の特設ページ「1号機原子炉建屋カバー解体作業」まで開設されていました。それが、どういう経緯かは分かりませんが作業は始まらず、10月15日になってスケジュールの変更を発表したのです。
▼2014年10月:屋根パネルに穴をあけて飛散防止剤を散布
▼2014年10月末:6枚ある屋根パネルのうち2枚を外す
→ 一定期間ダストの状況を傾向監視
→ ガレキ状況調査やダスト濃度調査等を実施
▼2014年12月:屋根パネルをもどす
▼2015年3月まで:カバー解体の作業エリアで凍土遮水壁工事
凍土遮水壁の工事期間中には、
凍土遮水壁工事期間中は,調査結果に基づき建屋カバー解体時の飛散抑制対策の有効性を確認するとともに,散水設備やガレキ撤去方法等,ガレキ撤去計画の策定を進め,『凍土遮水壁工事』終了後,建屋カバー解体工事に着手する予定です。
福島第一原子力発電所1号機 建屋カバー解体に向けた飛散防止剤散布と調査の事前実施について|東京電力 平成26年10月15日
と、その後の作業内容について検討するということです。
昨年の夏に行われた3号機のガレキ撤去で飛散した放射性物質が、20キロ離れた南相馬市の田んぼのイネを汚染した可能性が高いと、今年の7月に報道されてから、地元の自治体から汚染物質の飛散防止を求める声があがっていました。それでも東京電力は解体作業の準備を進めていたのに、「なぜ?」という疑問は消えません。
放射性物質を飛散させない工事を!
しかし兎も角も、凍土遮水壁工事を優先する約半年の着工延長で、ガレキ撤去の着手予定が約1年延期されたのです。これが廃炉作業を慎重に行うという姿勢の表れだとしたら大歓迎です。
東京電力も、経産省も、原子力規制委員会も「速やかな廃炉」という表現を頻発しますが、廃炉は急いで行うものではなく、慎重に安全第一で行うべきものです。なぜなら、放射能は現在の科学の力で減らすことはできないからです。放射性物質そのものが有する半減期に従って崩壊してくれる以外には、放射能が減っていくことはないからです。つまり、廃炉を急げば作業にともなう危険は増すということになります。そもそも、せっかく飛散防止のために造ったカバーを、事故から3年半程度で外してしまう理由が解りません。
1号機のガレキ撤去方法が検討された時、3つの工法が検討されたようです。カバーで覆った中で小型重機を使って撤去する。カバーごと建屋を覆うカバー(コンテナという表現でした)を造って、その中で現在のカバーを解体、建屋のガレキ撤去作業を行う。そして最後のプランが現在計画が進められているカバーを撤去するというものでした。
第一のプランは、狭い場所での困難な作業になるので、きっとプールにガレキを落としてしまうという理由で却下。第二のプランは外部への放射性物質の飛散を抑える機能は高いが、巨大な建造物(オペフロ付近で34メートルほどなのにコンテナは高さ90メートルという設定でした)で技術面・施工面での課題があるということで「△」。これに対してカバーを解体する工法は技術・施工面では問題なし。放射性物質の飛散については「放射性物質を含むガレキ等が風雨により飛散する状態となる」として「△」。ただし、「先行号機においてガレキ撤去作業中の放出量に有意な変化は確認されていない」ということと、プールの燃料取出し時期が第二のプランより早いということから、カバー解体の方針が決まったようです。
高線量箇所の調査に多種多様な新開発ロボットを使ったり、4号機の燃料取出しでは建屋に荷重をかけない逆L型構造のカバーを設置したり、そもそも1号機建屋全体を短工期で覆ってしまうカバーを採用したりとチャレンジングな東京電力が、放射性物質飛散のリスクを冒して最もシンプルな工法(しかも、安全確実にガレキ撤去が行える保証はありません)を採用したのは本当に残念なことです。
最高の安全性を追究することにこそ、東京電力の、そして日本の技術力を注いでいただきたい。強く希望します。
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