2014年10月28日の「福島第一原子力発電所の状況について(日報)」で、1号機建屋カバーが約1m×約2mの大きさで破損したという事故が発表されました。あわせて、破損した箇所の写真も公開されています。
1号機建屋カバーの屋根は6枚のパネルで構成されていて、それぞれのパネルに8カ所、合計で48カ所の穴をあけて、屋根から建屋上部に飛散防止剤を散布する計画で作業は進められていました。
大きく破れた穴の他にも3カ所穴が見えますが、これが予定していたサイズの穴ということでしょう。ところが予期せぬ突風が吹いて、クレーンが煽られ、先端のノズルが動いて屋根パネルに大きなカギ裂きを作ってしまったという説明です。
※10月28日午前8時23分頃、1号機原子炉建屋カバー解体工事において、屋根パネル孔部(南2屋根パネルNo.36)より飛散防止剤を散布中に、先端ノズル部が風により動き、孔の開口が目測で約1m×約2mの三角型に拡大。
このため、本日の作業を中断。各ダストモニタおよびモニタリングポストの指示値に有意な変動はない。
なお、当該作業時の風速は秒速2m程度であったことから、突風によりクレーンがあおられ、先端ノズル部が動いたものと推定。
福島第一原子力発電所は太平洋の沿岸部にある
まるで当たり前の言葉を見出しにしてしまいましたが、福島第一原子力発電所が太平洋に面した海沿いの高台にあることは誰もが知っていることです。そして、内陸部と比べて海上では強い風が吹くことも常識です。「浜辺を散歩していて、突然の風に麦わら帽子が飛ばされてしまう」ことも、多くの日本人が海辺によくある出来事として共有している情景でしょう。
そんな場所で、高さ50メートル以上のクレーンに飛散防止剤の機材を吊り下げて行う作業だったのです。「作業時の風速は秒速2m程度」だったという記載は、風速10mを超えるとクレーン作業を中止する決まりがあるからでしょう。しかし、わずか2mの微風状態だったのに、突然の突風に煽られてしまいましたと言わんがばかりの記載には驚かされるばかりです。なぜなら、現場は強風や突風を前提とした作業計画が求められる場所だからです。当然何らかの対策が取られていると思っていましたが。残念です。
東京電力が発表している計画によると、天井パネルの穴からの飛散防止剤散布に続き、当初予定では10月30日から6枚ある天井パネルのうち2枚を取り外して、カバーの中の様子や放射性物質の飛散状況を確認するそうです。その確認作業中に、「風速はわずか秒速2mだったけど、たぶん突風で」ということが繰り返されないよう対策を取ることが求められます。
また、いったん取り外した屋根パネルは再度戻された後、来年3月からいよいよ建屋カバーの撤去が予定されています。その作業中にも、「風速は秒速2mだったけど、たぶん突風で」ということが繰り返されないよう対策を取ることが求められます。
2016年度には建屋のガレキ撤去作業着手が予定されていますが、もちろんその作業中にも、「風速は秒速2mだったけど、たぶん突風で」ということが繰り返されないよう対策を取ることが求められます。
責任の見える化を進めてほしい
この作業を開始した日の「福島第一原子力発電所の状況について(日報)」で、東京電力は次のように発表しました。
当該カバーを解体しても、1~3号機からの放射性物質の放出による敷地境界線量(0.03mSv/y)への影響は少ないものと評価。
この評価は東京電力が自前で行っているものです。「影響は少ないもの」という表現は具体的に何を意味するのでしょうか。また、同じ発表の中には次の記述もあります。
作業にあたっては、ダストモニタおよびモニタリングポストのダスト濃度等の監視を十分に行いながら着実に作業を進める。
つなげると、「影響は少ないと東京電力は評価しているから、ダスト濃度等の監視を十分に行いながら東京電力は着実に作業を進める」と読めます。要するに着実に作業を進めると言っているだけです。どれくらいの影響が出たら計画を再検討するという基準も示していませんし、責任の所在も明示されていません。
もしも何か重大な事故が起こった場合に「影響は少ないと評価していたのだが、たぶん突風で(たぶん降雨の影響で、たぶん降下物の影響で、想定外の出来事でetc.)」は許されません。
誰が評価し、誰の責任のもと作業を進めるのかが明らかでなければ、今回のように何か起きた時に「ダストモニタおよびモニタリングポストの指示値に有意な変動はない」といった評価まで信じられなくなってしまいます。
注:10月29日付「福島第一原子力発電所の状況について(日報)」で、作業中に風速が強まったため、作業を中断しようとノズルを引き抜いている際に強風に煽られたのが原因と発表されました。
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