いわき市の漁協が海洋排出を拒否した報道に見る苦渋

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いわき市久之浜漁港。港の施設は改修が進んでいるが
いわき市久之浜漁港。港の施設は改修が進んでいるが

福島県を代表する2つの新聞でその扱いが大きく異なることになっている――。ここに福島の苦渋が表れている。東京電力福島第一原発の「増え続ける汚染水」問題で、昨年から東電側が地元の漁協に協力を要請してきた「サブドレン水」のことだ。

福島民報の13日付の記事は2面で、反対が大勢を占めたと伝えた。しかし記事のタイトルは「いわき市漁協 結論見送り」だった。

福島民報 2015年6月13日 2面
福島民報 2015年6月13日 2面

一方、福島県の地元紙として部数を分ける福島民友は「いわき市漁協、サブドレン容認せず 全7支所が反対意見」と伝えている。

いわき市漁協、サブドレン容認せず 全7支所が反対意見

 いわき市漁協は12日、同市で理事会を開き、東京電力福島第1原発の建屋周辺の井戸「サブドレン」などから汚染水をくみ上げ浄化し、海に放出する「サブドレン計画」について支所ごとの意見を集約、全7支所が「現時点では容認できない」とする反対意見を提出した。
 理事会は冒頭以外非公開で行われた。汚染された雨水が海に流出していた問題や、雨水を移送するホースから汚染水が漏れていた問題などを受け、「(東電を)信用できない」ことを理由に反対する意見などが出た。矢吹正一組合長は「一から出直し。一歩でも状況を前に進めるために協議を続けていきたい」と話した。
(2015年6月13日 福島民友ニュース)

いわき市漁協、サブドレン容認せず 全7支所が反対意見(福島民友ニュース)

伝えている事実は同じなのに、記事が読者に与える印象は大きく異なる。

片や「見送り」、片や「反対意見」。ここに、福島の事故原発が、地元で生きる人たちとの間に根ざしている深い関わりや、だからこその苦渋が見えてくる。

さらに根深いのは、この重要なニュースが全国的にはあまり報道されていないということだ。Googleのニュースサイトでは、上記の地方紙2紙の他には、東北のブロック紙である河北新報と、日テレNEWS24の合計4媒体しか取り上げられていない。(2015年6月17日時点)

それぞれタイトルは、河北が「<福島第1>いわき市漁協、サブドレン反対多数」。日テレNEWS24は「いわき市漁協 サブドレン計画容認せず」だった。

東京電力は福島の事故原発で目下の最大の問題とも言える「地下水」の増加問題に対処する目的で、昨年から高台の井戸でくみ上げた水(トリチウム濃度は高いもののその他の放射性核種の濃度は低い)の太平洋への排出を実施している。

しかし、それでも汚染された建屋に流入する地下水の量が思うように減らないため、建屋周辺にある井戸(サブドレン)からくみ上げた水を浄化した上で太平洋へ排出する計画を立案し、地元漁協に打診してきた、ところが、話し合いが纏まりつつあった矢先に2号機建屋屋根付近から流れ出た高濃度汚染水がそのまま太平洋に流出する事態や、敷地内の側溝に設置されたホースから漏れ出た高濃度汚染水がやはり太平洋に流出する事態が発生し、地元は態度を硬化させていた。

地元漁協としては、増え続ける汚染水や地下水の問題が解決しない限り、事故原発の処置が進まないとの理解を示していたものの、立て続けに発生する汚染水流出に「信頼関係が損なわれた」と話しているという。

深刻な事故の被害を受け続けている沿岸部ではあるが、事故前から東京電力の発電所で働いてきた親族や知人、地元の仲間たちがいる。事故によって蒙った被害は計り知れない。事故を恨む気持ちは地元のほとんどの人に共通している。しかし、事故を起こした当事者を悪く言う人は必ずしも大多数ではない。むしろ、「東電で働いているのはいい人たち」という声が少なくないのだ。

生きる糧を得るための漁場をこれ以上、汚染してほしくないという切実な思いと、頑な対応をとり続けることで、「地元」である福島原発の事故収束を妨げたくないという思い。2つの思いが織り交ぜられた苦渋が漁協の対応からは感じられる。

さらには、海は漁業者だけのものではなく、市民のものという指摘もあるし、その旨に沿った訴訟も提起されている。

事故原発の地元の実情を無視した「再稼働」や「住民帰還」を打ち出す前に、東京電力と、そして政府は信頼の回復に最大限の力を注ぐべきなのは間違いない。

いわき市四倉漁港の朝焼け
いわき市四倉漁港の朝焼け

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  • I

    iRyota25

    東電への怒りは並大抵のものではないと感じます。でも、家族や親戚、ご近所さん、小学校の頃からの友達が東電に勤めているって人は大勢いるそうです。東電でなくても、その下請けとかも含めたら、たいへんな割合だと思います。それだけ、地域経済を支えてきたということも確かなのでしょう。
    「小学校で学級委員→大人になったら東電社員」というパターンがあったって言いますから。
    だけど、事故の後の東電の対応には憤りしかない。地元の言葉が理解できない人が補償担当者としてやってきて(名刺には部長とか書かれている)、町内で開催する説明会で言うことは、「持ち帰って検討します」というばかり。その上、人事異動も多くて、せっかく話が進みはじめても御破算で、またゼロからの交渉やり直し。
    同胞に関係者がたくさんいる。それ以前に、この化け物がなんとかなってくれないと故郷は戻らない。だから、苦渋の上に協力すべきはしようと思って歩み寄ろうとしてきた――。それなのにという「引き裂かれ感」は、外側の人間にはきっと全部を理解することはできないだろうと思うくらいの地獄だと思います。はい、地獄です。

  • 5

    51mister

    東電で働く「人」ではなく、東電という「組織」に対する不信感が拭えないのでしょうね。そこに信頼がない以上、何を言われても信用するわけには行かないと思います。原発や東電の本社などで、「サブドレンから汲み上げ、浄化した水を使って水槽で飼っている魚はこんなに元気です」ぐらい位のアピールを実践すべきです。魚や金魚だけでなく、浄化した水が張られた水槽が東電の各事務所に置いてあっても、そこで働いている人も安心!でなければね。自分たちの職場には置けない水を漁師さんの職場に流してはいけませんよね。その水槽で育てた魚も原発関係者、推進派の人たちに食べてもらわないと。管さんは、かいわれ大根食べましたっけね。