東京電力は8月20日、「海洋汚染をより確実に防止するため」との目的で、汚染された地下水を処理して海に排出するというシステムの検証に入ったと発表した。
今年の5月21日から、東京電力は地下水バイパスの運用を開始しているが、これはあくまでも「放射性物質に接触する前の地下水」との前提で行われている。放射能汚染している地下水を汲み上げて処理した上で海に放出することになれば初めてのことだ。
処理した水を海洋排出することにはもうひとつ大きな意味がある。それは多核種除去設備ALPSで処理した後の水の処分の問題だ。ALPSでは62種類の核種を極めて低い濃度まで処理できるとされているが、トリチウム(三重水素)だけは取り除けない。ALPSでトリチウム以外の放射性物質を取り除いても、トリチウムの問題から海に排水することはできない。処理しても処理しても水が溜まり続けることになる。
今回の検証が行われるシステムの仕組みは、基本的にはALPSと同様のもので、主な放射性核種を沈殿や吸着によって除去するもの。やはりトリチウムを取り除くことはできない。
この処理を行った後の水を海洋排出することは、ゆくゆくはALPSの処理後の水を海に捨てるための伏線、露払いとされるのではないかと懸念されているのだ。
増え続けるタンク。溜まり続ける汚染水の問題から、「苦渋の決断」で地下水バイパスを受け入れた地元にとって、3カ月後に畳み込まれてきたこの展開が非常な苦しみになっているのは間違いない。
名称は「サブドレン他水処理施設」
原子炉建屋やタービン建屋近くの井戸、サブドレンから汲み上げた水を処理して海に排水するのがこの施設の概要だが、名称にはなぜか「他」という文字が加えられている。これはサブドレン以外に由来する水の処理も行うという意味だろう。海側遮水壁の内側で地下水が溢れないように汲み出しを続けている「地下水ドレン」水や、原発爆発時に原子炉周辺に降り積もった汚染物に接触した雨水などの処理も想定しているのかもしれない。
東京電力が公開したのは下記リンクの資料です。
サブドレンとは?
福島第一原発の建屋の下にはかなり大規模な地下水の流れがあり、事故発生以前から、建屋の浮き上がりを防止するための地下水汲み上げが行われていた。サブドレンはそのために掘られた井戸で、震災による津波等で使用が困難な状態だった。
被害を受けたサブドレンを修理し、さらに新たな井戸も掘ることで、建屋内部に流れ込む地下水を少なくしようというのがこの施設の狙い。
●海側に流れ込む地下水は,護岸に設置した井戸(地下水ドレン)でくみ上げます。
●また,地下水ドレンより上流側にある建屋近傍の井戸(サブドレン)も利用することで,海側に流れる地下水の量を低減させます。
●なお,サブドレンで地下水をくみ上げることにより,原子炉建屋へ流入する地下水が大幅に低減するため,発電所構内で保有する高濃度の汚染水の量を減らすことになり,結果として,海洋への汚染拡大リスクの低減に繋がるものと考えています。
ただし、サブドレンから汲み上げられた水のサンプリング検査では、放射性物質が検出されているため、これを除去する装置を新たに建設し、その処理能力についての試験がこれから行われることになる。
設置されるのは冒頭に東電の資料として引用した画像の装置で、多核種処理設備ALPSを簡略化したものであるように見受けられる。
建屋周辺から汲み上げられ、海近くの集水タンクに溜められたサブドレン水は、原子炉敷地内の大熊通りと呼ばれる道沿いに高台に新設されたサブドレン他処理施設に移送される。その場所はちょうど多核種処理施設ALPSの北隣だ。
計画では処理された水は免震重要棟などの来たの通りに設置された配管で海側に移送され、1号機北の物揚場桟橋付近から港湾内に排出される。
汚染水を減らすための壮大な計画がまたひとつ動き出すことになる。しかし、敷地内で汚染された地下水を、たとえ処理を行うとはいえ海に流してしまうことの是非は、まだ議論が尽くされているとはいえない。しかもトリチウムは除去できないのだ。
漁業関係者はもちろん、海を共有する地元の人たちとの真摯な話し合いが行われることを期待する。たとえそれが検証試験と同時進行であったとしても。
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