東京電力は11月6日、福島の事故原発の海側遮水壁を閉合したことについて、福島県漁業協同組合連合会(県漁連)の視察を行ったことを発表した。
東電・広瀬社長が直接ご案内
東電の写真・動画集のページには視察風景の写真が3点、また「海側遮水壁の閉合作業完了について」と「海側遮水壁閉合前後の海水モニタリング状況」を県漁連への説明資料として公開している。
写真から読み取れる情報はそう多くない。ひとつは遮水壁の閉合が完了した後も、現時点では遮水壁の陸側に大量の水が溜まっていること。そして4メートル盤とかタービン建屋東側と呼ばれる最も海に近いエリアの視察で、放射能が高い場所で使われるピンク色のフィルター付きの全面マスクを着用していること。
6月24日に行われたいわき市漁業共同組合の視察の時には、複数のマイクロバスの中から事故原発の海側エリアを見て回るスタイルだった。漁協の人たちはタイベックスーツも全面マスクもせずに、ふつうの白いマスク姿だった。車中と車外で線量が大きく異なるということなのか、釈然としない。たとえば国道6号線から原発への入口である「中央台」の交差点付近をバスで走行していても、線量計のアラームが鳴り続ける。線量計の数値は10マイクロシーベルトを超え、20マイクロシーベルトに迫るほどだ。しかも車内外で線量に大きな違いはない。国道6号線は原子炉建屋から3kmほど離れている。原子炉から数百メートルの距離での視察で、方や風邪用のマスクだけ、方やフル装備というのは、少し納得出来ないのだが。
また、いわき市漁協の視察で説明に当たったのは、福島第一廃炉推進カンパニープレジデントの増田尚宏氏(常務執行役)だったが、県漁連の視察では広瀬直己社長自身が直々に案内をしている。細かな話かもしれないが、東電のカウンターパートについての意識が表れているのかもしれない。
視察のおかげで実現した分かりやすい説明
そんなことでも、県漁連の視察のおかげで明らかになったことに大きな意義がある。また、県漁連の人たち(おそらく幹部の方々だろう)に説明するための資料が公表されたのも大きい。
東電が公表する通常のプレスリリースは、お世辞にも読みやすいとは言えないが、県漁連向けの資料は、誰が読んでもよく分かる。海側遮水壁という言葉だけで読む気がしなくなるような人でも、すんなり理解できる内容だ。リンクの紹介にあわせて全ページをキャプチャで紹介しよう。
9月22日に鋼管矢板の打設を終え、10月26日には継手の止水処理も完了し、汚染された地下水が海へ流出しないようにする遮水壁が完成したとある。作業工程にある「フェーシング」とは、埋め立て完了後に地表面を舗装するなどして、雨水の浸透を防ぐ工事のことだ。
海側遮水壁の意義や目的について説明している。下線入で強調されているのは「海洋汚染をより一層防止できると考えています」「海洋に流出するリスクが大幅に低減できると考えています」「汚染水対策の3つの基本方針である『汚染水を漏らさない』対策が進み、『汚染源を取り除く』『汚染源に水を近づけない』対策も合わせ汚染水対策が大きく前進ました(ママ)」
また、囲みで示された「サブドレンの運用についても、設備の管理をしっかり行い、運用目標等を厳守していきます」との説明は、今回の視察の最大の目的が何だったのかを如実に物語っている。遮水壁がサブドレンと連動しているということは元より、サブドレンからの海洋排水を「容認」してくれた県漁連にていねいに説明し、「理解」してもらい、「サブドレンの運用を継続」していくことこそが、東京電力にとって現時点で非常に大きな関心事なのである。
継手部分の洗浄工程で、水中カメラによる確認が行われていたことや、洗浄やモルタル注入に二重管が使われたことは、この資料で初めて知った。わかりやすく説明するのみならず、新たな情報も出てくるのは、県漁連の視察があったからこそだ。
海側遮水壁の位置関係のみならず、サブドレンや地下水ドレンの配置も示されている。経産省への報告などの資料をひっくり返せば探し出せる資料ではあるが、わかりやすくまとめて示してくれた意義は大きい。
通常のニュースリリースの「言い切り」口調と異なり、「ご視察」とか「実施してまいります」といった丁寧すぎる表現など、ツッコミどころはあるものの、分かりやすい形で情報が出されたことは高く評価できる。遮水壁だけにとどまらず、県漁連の方には、サブドレンや地下水バイパス、汚染水処理施設や融け落ちた燃料デブリの位置確認、日々の放射能測定など、廃炉に向けて課題となっているさまざまな部分についても、ぜひ視察を継続してもらえたらいいのにと、心底そう思う。
利害が対立する第三者で、しかも事業者に影響力をもつ立場からの監視は不可欠だ。
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