東京電力は8月20日から、福島第一原子力発電所に関する全放射線データを公開すると発表した。これにより、公開される放射線データは年間5万件(2015年4月30日以降の公開分)から、年間7万件相当に増大するという。
東電のプレス発表のほか、福島民報も下のように伝えている。
全放射線データ公表
東京電力は20日、福島第一原発構内で測定した全放射線データの公表を始めた。公開総件数は年間約7万件になる見通し。
(中略)
データの全量公開は、東電が港湾外の海に通じる「K排水路」と呼ばれる排水路から法定基準を超える放射性物質を含む雨水が検出されたが、すぐに情報を公開しなかったことが発端となった。
福島民報 2015年8月21日紙面
地元紙の記事にもかかわらず、内容があまりにあっさりしているのは、東京電力による発表そのもののせいかもしれない。その発表内容は後段で紹介することにして、記事内容を若干補足してみる。
記事中にあるK排水路は、第一原発でシビアアクシデントを起こした1号機~4号機の原子炉建屋西側を北から南に伸びる排水路。原発事故以前からあった暗渠の排水路で、汚染された雨水などの流入が十分考えられる排水路だった。この排水路は原発の主要施設の南側から太平洋に直接排水されるように設置されており、その出口付近には、昨年から運用されている地下水バイパスの排水口も設置されている。
長期間にわたり汚染された水が流され続けた可能性があるのに加え、今年2月には、2号機原子炉建屋に付随する建屋屋上から、高濃度に汚染された水がK排水路に流れ込んでいることが発覚。しかも、この事実を東電が少なくとも2014年4月から把握していたことが明らかになり批判されていた。建屋近傍の地下水を浄化して海に流す計画も、この出来事がきっかけで地元漁協が態度を硬化させ、棚上げとなったいきさつもある。
問題のプレスリリースの内容は?
非常に大きな問題であるにも関わらず、東京電力の発表は肩透かしなものだ。上記のような事情や経緯はいっさい示されていない。ただ、公開する情報が増えることと、公開ページの使い方が紹介されるにとどまっている。
公開されるデータの精度やサンプリング方法については、従来どおり外部の目による注視を続けていかなければならない。公開される情報が増えるのはいいことだが、情報の質(精度)は別の問題である。
全データ公開が始まったとは言え、トップページの項目はリンクが切れているものが多い上、カレンダー式のページにリンクされているデータはZIP圧縮されたもので非常に使い勝手が悪い。せっかく公開するのなら、使いやすさ、わかりやすさを考慮してもらわなければ、ただ「公開してますから」と外形的に体裁を整えているに過ぎないのではないか。実質的に「知らしむべからず」な姿勢を改めていただけるよう希望する。
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※たとえば「K排水路」、たとえば「地下水バイパス」といったキーワードについて、事故原発でいつどのような対応が取られてきたのか、以下のサイトでページ内検索していただくと、昨年2月4日以降の東京電力の発表(日報)の新規記載内容から調べることができます。
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