被災地のゴミと落書き

iRyota25

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岩手県大船渡市にある大津波資料館「潮目」が、何者かによって破壊された。ドアや窓ガラスが割られ、中に展示していた被災時計も壊された。

 津波資料館「潮目」が何者かに破壊された件
potaru.com

津波で集落のほとんどが流されて、酷い被害を受けた場所で、それも小学校の斜向かいの場所で、被災物を材料にして組み立てられた津波資料館。作ったのは国でも市でもなく、そこに住んでいた人たちと、全国から応援した人たちだ。昨年には写真集も発売されたくらいで、何もなくなった被災地から立ち上がる「象徴」みたいな大切な場所だった。

そんな場所を壊すなんて。なんて悪い奴らだろう。でも、「潮目」が壊されたというニュースを聞いたのと同時に思い出した景色があった。(それは心のどこかで見なかったことにしようと封印していた景色かもしれない)

2013年富岡町の夏

ここは福島県富岡町。ようやく昼間の立ち入りが出来るようになって数カ月後の富岡駅前だ。ちょうど2カ月前、同じ場所に来た時にはこんな落書きはなかった。

「人」と書いているのだろうか。何かに取り憑かれたように書き殴られた文字を前に、頭のなかが真っ白になった。

誰が? いったい何のために?

津波で2階部分だけが流されて道路を塞いでいる家があった。上は6月の写真。

2カ月後。2013年8月。「人人人人人人人人……」
誰が、いったい何のために?

そこで人が暮らしていた部屋の中にまで。
誰が、いったい何のために?

答えを探そうとしても見つからない。

津波に流されフロントが潰されガラスは割れ、車内は泥や漂着物がたまっていた悲惨な高級車。それだけでも目を覆いたくなる景色だったのに。

人がいなくなった富岡町だからこそ、「人」という字を書きたくなったのか。ただ単に人がいなくなったということを落書きしただけなのか。震災の直後「ここで亡くなった人が発見された」という印としてペイントされたのを真似たものなのか。

この日、見た限りでは「人」という落書き以外に落書きは見当たらなかった。

だれが、いったい何のために? 答えが見つからない。ただ重い気分だけが残る落書き。

2012年11月のいわき市新舞子付近

福島県道382号豊間四倉線。いわき市の海沿い、塩屋崎灯台や新舞子ビーチをつなぐ観光道路でもある。その道沿いの空き地に、震災から1年半以上たってからゴミが不法投棄されるようになった。

津波で被災したように見えるものもあった。明らかに震災後の生活の中で出たゴミもあった。一般ゴミや生ゴミまであって、カラスが何羽も集まっていた。

ゴミは、この道を通るたびに増えていった。不法投棄に対する警告看板も増えていった。一時は看板が林立する不穏な景色だったこともある。そしていつの頃か、すべてのゴミが消えていた。おそらく行政が廃棄したのだろう。

観光地の道路脇にゴミを捨てるという感覚がわからない。しかも、ここは津波の被害を受けた場所だ。なぜこの場所が不法投棄の場所になってしまったのか。どうしてゴミは増えていったのか。

2013年4月、仙台市荒浜

基礎だけの住宅地が広がっていた頃の仙台市荒浜。半分以上が破壊された松林の中に、被災物が残されていた。と思ったが、よく見ると震災の後に投棄されたゴミのようだ。

松林の奥にはさらに驚くような不法投棄。

型は古いがサビひとつない。捨てられたばかりのものらしい。型が古いということは、リサイクルが有料だからというのが理由なのか。津波の被災地に捨てれば、いつか誰かが瓦礫として処分してくれるだろうということか。リサイクルの対象ではないプリンターまで捨てられているのは解せないが。

いいところも悪いところも含めて

どうしてわざわざ被災地にまで行って落書きをしなければならないのか。なぜ被害がひどかった場所にゴミを捨てなければならないのか。

そんなことをやった奴らが最低なのは言うまでもない。だがやったのは悪い奴、と線を引くことが解決につながるのだろうか。罰則を強めようとか、パトロールを強化しようということで、根本的に解決されるのだろうか。

そもそも、壊しちゃいけません、捨てちゃいけません、落書きしてはいけませんというルールがあるのは、そうしてしまう人がいたり、そうしてしまいかねない自分がいるからではないか。もしも人間が壊したり、捨てたり、落書きしたりすることのないようにできている生き物だったとしたら、そんなルールなど必要ない。ルールがあるということは、人がそういうものだということを逆に示しているのではないか。

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  • はちはち

    「人」は落書きではなく人がいる(もしかしたら生存?)の合図だそうです。