海から少し高台にある三陸鉄道の駅からは、そこはまるでサーカスの会場のようにも見えた。岩手県大船渡市三陸町越喜来(おきらい)にある大津波資料館「潮目」。今年のお正月に訪れた際には、「特別な場所」とその場所を紹介させてもらった。
越喜来の海辺からほど近いこの場所は巨大な津波で集落すべてが破壊された。震災から4年たっても近所に住んでいる人はいない。しかしここはかつての越喜来小学校の斜向い。こどもたちの声が絶えない場所だった。
その場所に震災の後、流されてきた瓦礫を材料にして、少しずつ作られていった遊園地でもあり、集いの場所であり、再起を誓う場所であり、そして津波被害を後世に伝えていきながら、未来への希望を紡ぐのがこの場所だった。その大津波資料館「潮目」が、何者かによって破壊される被害を受けてしまった。
誰が、いったい、何のために?
大津波資料館「潮目」をつくり上げてきた地元の片山さんのご家族の方が、IBC岩手放送のニュースエコーという番組だろうか、ニュースの映像をモニターを映して録画してアップした動画から、音声を書き出したのでお読み下さい。(かなり沁みます)
ナレーション
大船渡市三陸町にある東日本大震災の津波資料館で窓ガラスや扉が何者かによって壊されているのが一昨日見つかりました。
心ない行為に地元はショックを受けつつも、昨日は地元の高校生も参加して修復が行われました。
片山和一良さん
ま、ガラスというガラス全部だな。ここもほれ、ガラス戸だったんだけどな、この入口な、これ取り替えたんだよ。
ナレ
窓ガラスなどが壊されていたのは、大船渡市三陸町越来喜(おきらい)の大津波資料館「潮目」です。この資料館は地元の建設会社社長片山和一良さんが、地域の交流の場にしようと2012年の7月に、震災で出た瓦礫の木材等を使って建設しました。片山さんは一昨日午後に訪れた際に、窓ガラスや扉、震災で止まったままの時計等、9カ所が壊されているのを発見しました。
片山さん
とにかくさ、頭に来たてな、まず最初にな。なって、なんてことする奴らがいるだべさと思ってな。
IBC岩手放送のニュース番組エコーだろうか
そりゃあそうだ。動画を見るより前、その話を聞いた時から頭に血が上るのを感じていたくらいだ。周囲が瓦礫に埋もれていた当時から、少しずつこの場所を整備してきた片山さんの憤懣は容易く想像できるようなものではなかっただろう。しかし、ニュースの本筋は違った。「酷い奴らがいたのだ」では終わらなかったのだ。
破壊されたのに「一番の成果」とは
ナレ
昨日は片山さんを始め、地元の高校生やボランティアなどで割れたガラスを片付けたり、壊されたところを修復したりしました。心ない行為に地域は大きなショックを受けましたが、高校生たちが自ら手伝いを申し出るなど、この試練を地域全体で乗り越えようとしています。
片山さん
それが一番な、一番の成果ていうか、やらされたことに対してはさ、すごく残念だけどさ、でもそれ以上のものをさ、なんとなく、見つけたような気がするよ。うん、うん。いかった、いかった。
ナレ
片山さんは警察への被害届けは出さないということで、これからも津波の被害を伝えながら、交流の場として多くの人が集ってくれる事を期待しています。
IBC岩手放送のニュース番組エコーだろうか
ガラスは割られていた。扉も壊されていた。たぶん元は中央公民館(とても立派な鉄筋コンクリート造のホール兼文化施設だけど内部は全壊した)のステージ近くにあったであろう時計は、針がねじ曲げられていた。
ニュース映像に映される被害状況の1つひとつが痛かった。それでも片山さんはカメラに向かって「一番の成果ていうか、(やられたことより)それ以上のものをさ、なんとなく、見つけたような気がするよ」と話しているのである。「うん、うん。いかった、いかった」とまで。
潮目が潮目である理由
このニュースを聞いた大船渡の近くに住む友人はこう言った。
何だか切ない「いいとこ探し」だよな。でも震災後はみんなそうか。頑張ろう!
こうして文字に落とすと、すごく苦しい状況の中で、無理矢理いいことを見つけ出そうとしているように見えてしまうかもしれないが、最後の「頑張ろう!」が一番強調されていたところだ。頑張ろう。地元の言葉にするなら「がんばっぺ!」。おそらく、ニュースを見たり聞いたりした地元の多くの人が同じことを感じていたのではないか。
だけど、こんな時に「がんばっぺ」なんて言えるものか?
乗越えていくこと。乗越えることでチカラがついていくということ。その力がさらに次の難所を乗越えていくチカラになること。それが本当のチカラだということ。本当のチカラだからへこたれる事なんかないのだということ。
もう一回読んでもらおうかな。
うん、うん。いかった、いかった。
IBC岩手放送のニュース番組エコーだろうか
これが本当の強さというものだ。破壊されたら作り直す。壊されたら力を合わせて修繕する。そして、この場所に宿っている大切なことを伝えていく。
酷い目にあっても「いいことさがし」をするチカラを失わない。そして何度でも蘇る。蘇ってみせる。いや別に人に見せるために蘇るんじゃないけどねと笑って見せる。
「潮目」の価値がますます輝いています、なんてきれいごとはいえない。だって被害にあったことは、ダメージを受けてしまったことは紛れもない事実なのだから。
それでも、負けない潮目は越喜来の、大船渡の、岩手の、日本の「特別な場所」であり続けると確信する。そうあり続けるお手伝いを少しでもさせていただいて、本当のチカラのほんの片鱗であっても自分も欲しいと心に思った。
もうひとつ繰り返します。
ナレ
片山さんは警察への被害届けは出さないということで、これからも津波の被害を伝えながら、交流の場として多くの人が集ってくれる事を期待しています。
IBC岩手放送のニュース番組エコーだろうか
越喜来はきらいですか? いえ、大好きです!
「潮目」の道路脇の看板の言葉
さて、みなさんはどうですか?
最終更新: