安全点検を終えた福島第一原発の課題

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原子力発電所で死亡事故を含む重大な労働災害が頻発したことを受けて、安全点検のために廃炉作業を中止してきた東京電力が、2月3日作業再開を発表した。

福島第一原子力発電所における作業再開の状況

J4タンクエリア作業前安全確認風景
J4タンクエリア作業前安全確認風景

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陸側遮水壁工事作業再開風景
陸側遮水壁工事作業再開風景

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Kタンクエリア.基礎工事作業再開前ミーティング風景
Kタンクエリア.基礎工事作業再開前ミーティング風景

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 福島第一原子力発電所における作業再開の状況|東京電力 平成27年2月3日
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プレスリリースを見ても写真とキャプションのみで、とにかく作業が再開されたということだけしか分からない。

福島第一原子力発電所における作業の再開について

作業再開の前日、「明日(2月3日)より、作業を順次再開することといたします。」として発表されたニュースリリースには、「安全点検の対象となった436件の作業のうち下記の項目について安全点検を行い、事例検討会ならびに是正処置を実施し、安全点検の確認が完了した392件の作業」を開始するとしている。安全点検の項目は以下の内容。

<安全点検の項目>
(1)高所作業の安全帯、親綱等法令で規定されている事項の遵守状況の確認
(2)安全衛生規則要求保護具の状況確認
(3)タンクのマンホールのような開口部の開口状態ならびに落下防止対策の状況確認
(4)タンクのマンホールのような開口部における恒久的な落下防止対策の確認
(5)作業所内にて人が運搬する重量物の状況確認
(6)不安全箇所がないことの状況確認
  (6)-1.重量物・回転体を扱う作業、ならびにバランスを崩しやすい環境での作業における安全対策の確認
  (6)-2.特殊な治具・工具の取扱手順が明確化、ならびに必要な安全対策の確認
  (6)-3.作業エリアでの開口部、暗所等の墜落の恐れのある箇所における安全対策の確認

福島第一原子力発電所における作業の再開について|東京電力 平成27年2月2日

 福島第一原子力発電所における作業の再開について|東京電力 平成27年2月2日
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これらの安全点検について、是正処置の実施例が添付されていたのだが、その内容は、新人作業員が初めて現場に入る際に行われる「新規入場者研修」レベルのきわめて初歩的なものだった。

安全点検における是正処置の実施例

4号機海水配管トレンチ内部閉塞工事開口II部区画before
4号機海水配管トレンチ内部閉塞工事開口II部区画before

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4号機海水配管トレンチ内部閉塞工事開口II部区画after
4号機海水配管トレンチ内部閉塞工事開口II部区画after

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マンホール開口部の立入禁止表示を増やし、どの角度からもわかるようにしている。

雑固体廃棄物焼却炉設備建設他工事足場追設before
雑固体廃棄物焼却炉設備建設他工事足場追設before

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雑固体廃棄物焼却炉設備建設他工事足場追設after
雑固体廃棄物焼却炉設備建設他工事足場追設after

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足場板の幅が足りなかった部分に別の板を追加して補強。単管の上に追加の板を載せて、細めの針金で固定しているように見えるのだが大丈夫か?

フェーシング工事before
フェーシング工事before

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フェーシング工事after
フェーシング工事after

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親綱の支柱の間に、支柱としては用をなさない虎ロープ用の鉄杭を打っても、法面での作業が面倒になるばかり。緩みを解消という以前に親綱の張り方に誤りがないかを確認してほしい。写真を見る限り、とてもこの親綱に安全帯を掛けて法面を降りる気になれない。

1・2号機取水口付近止水対策工事開口部区画before
1・2号機取水口付近止水対策工事開口部区画before

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1・2号機取水口付近止水対策工事開口部区画after
1・2号機取水口付近止水対策工事開口部区画after

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大きな穴に落ちないようにバリケードを設置。しかしバリケードの高さが不足しているのではないか。人は前に向かって歩いている時よりも、不用意にバックしている時に転落することが多い。腰の高さ以上のガードを設置してほしいところ。

陸側遮水壁設置工事(通路片づけ)before
陸側遮水壁設置工事(通路片づけ)before

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陸側遮水壁設置工事(通路片づけafter
陸側遮水壁設置工事(通路片づけafter

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整理整頓は現場の基本。

陸側遮水壁設置工事(敷鉄板の整備)before
陸側遮水壁設置工事(敷鉄板の整備)before

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陸側遮水壁設置工事(敷鉄板の整備)after
陸側遮水壁設置工事(敷鉄板の整備)after

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鉄板の上をダンプや重機などの重量車両が通ると、鉄板の端が浮き上がったり、場合によっては勢いよくずれたりすることがしばしばある。そこに足を挟まれる。脛などを強打する(想像するだけでも痛い!)。その対策ということだろうが、危険があることの作業員全員への周知が不可欠だろう。

1~3号機処理水バッファタンク堰屋根設置工事梯子(上部)落下防止before
1~3号機処理水バッファタンク堰屋根設置工事梯子(上部)落下防止before

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1~3号機処理水バッファタンク堰屋根設置工事梯子(上部)落下防止after
1~3号機処理水バッファタンク堰屋根設置工事梯子(上部)落下防止after

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これ以下の3件はタンクに設置された昇降ハシゴの使用禁止と、ハシゴスペースへの落下防止の措置。代わりに設置されたことになっている仮設足場階段の安全も気になる。

1~3号機処理水バッファタンク堰屋根設置工事梯子(下部)使用禁止before
1~3号機処理水バッファタンク堰屋根設置工事梯子(下部)使用禁止before

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1~3号機処理水バッファタンク堰屋根設置工事梯子(下部)使用禁止after
1~3号機処理水バッファタンク堰屋根設置工事梯子(下部)使用禁止after

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1~3号機処理水バッファタンク堰屋根設置工事梯子注意喚起標示物(上部)
1~3号機処理水バッファタンク堰屋根設置工事梯子注意喚起標示物(上部)

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1~3号機処理水バッファタンク堰屋根設置工事梯子注意喚起標示物(下部)
1~3号機処理水バッファタンク堰屋根設置工事梯子注意喚起標示物(下部)

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工事経験がなくても、「さすがにこれは…」と感じられる事例が多かったのでは?

熟練作業員に来てもらうためにも安全は不可欠

1月29日に福島第一原発を視察した東京電力の數土(すど)文夫会長は、原発の廃炉に向けての作業現場で、東電や国が決めたスケジュールが「まずありき」で、安全に関してずさんな面があったことを認めた。さらに、元請企業の現場責任者との意見交換の後には、熟練した作業員の不足、経験のあるう現場監督までもが不足しているという状況を明らかにした。人手不足は全国的であると。

しかし、作業再開に当たって東京電力が公開した写真を見ると、熟練作業員はおろか、たとえばアルバイトとして建設業で働いた経験がある人ですら、「危なっかしくて、とてもじゃないけど働けない」と感じることだろう。

新人に対する安全教育を徹底して、現場の作業環境を整えること、そして待遇を改善することは、現場の安全性を高めるだけでなく、技術や技能を持つ経験者を受け入れていくための第一歩になるのではないだろうか。

東電会長が現地視察。技量が低くて廃炉ができるのか?
 東電会長が現地視察。技量が低くて廃炉ができるのか?
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作業員の死を無駄にしないためにも、安全第一を徹底しなければならない。事故原発の廃炉は世界的にも例がない困難な事業だという。その現場で働く人の技量が足りないというのでは、廃炉など覚束ない

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