平成27年1月19日、20日に相次いで、東京電力の福島第一原子力発電所、福島第二原子力発電所で作業員の死亡につながる災害事故が発生したのを受けて、福島第一原子力発電所では作業を中断して安全確認を行った。
1月26日付で東京電力の「写真・動画集」に「福島第一原子力発電所における安全点検是正処置の実施状況について」というタイトルで公開された中間報告の内容を紹介する。
フェーシング工事(地下水バイパス周辺)
是正前の写真では、マンホールの蓋が半開きの状態で放置されている。これは工事現場ではありえない状況。落とし穴以外の何物でもない。
しかし、この写真にはそれ以外にも謎がある。雨水の浸透を防ぐための舗装の真ん中に穴があけられている。穴からはポンプで水を汲み上げているようなので、この穴に水は入ってほしくないらしい。しかし半開きの状態で掛けられた蓋はグレーチング(金網)だ。いったいどんな状況を示す写真なのか、理解の範囲を超えている。
そんな危険な半開きのマンホール蓋にガードをし、危険を告知する標識まで2枚も掲示したのだから、安全上の処置としては妥当なことにも思えるだろう。
では、この処置を行うために、どんな作業が行われたのか。1.2~1.5メートルほどの単管を12本、直交クランプ8個、ソフトカバー8個、単管キャップ20個、固定ベース4個を用意する。単管を井桁に組むようにクランプで固定して、固定ベースやカバーを着ければ出来上がり。2人で作業すれば15分も掛からない。何もこの場所で組み立てなくても、どこかもっと安全な場所で組んでおいて軽トラックなりで運んできて、2人でマンホールの上に被せてもいい。
Before/Afterでホースやコードのよじれにほとんど違いがないことから、持って来て被せる式の施工だった気配も濃厚に感じられる。
注目すべきことは、これほど手軽な安全対策すら行われていなかったということだ。
また、マンホールの蓋にはロック機構もなく、重量が軽いグレーチングが使われている。蓋の側面も垂直なのでちょっとしたはずみで外れてしまう危険性も考えられる。ホースやコードを入れなければならない状況が解消され、蓋をそのまま閉めるようになったとしても、外れやすいマンホール蓋があるという危険告知のために、単管による仮設ガードは撤去できそうにない。
3号機トレンチ充填工事(3号機立坑B)
腰の高さほどの踏板の上に昇るだけだけだから、といって安全帯を必ず使用するように警告する標識。トレンチの充填作業が行われている立坑だから、もしも転落したら命に関わる大災害になるだろう。事故を未然に防ぐべく、標識の設置に加えて、作業者間での相互チェックや、「ちょっとだから」や「ついうっかり」といった風化を阻止することも大切だろう。
凍土遮水壁設置工事(4号機原子炉建屋西側)
凍結遮水壁の工事現場は、原子炉建屋とタービン建屋をぐるりと取り囲んでいる。建屋周辺には重要施設が数多くあるが、是正後の写真で単管によるガードが取り付けられたボックスは「サブドレンピット」。建屋周辺の地下水の水位を観測したり、地下水の汲み上げを行って、建屋内の高濃度汚染水が地下水に流れ出さないようにするための極めて重要な施設だ。
是正前の写真では、そんな重要施設の横にパワーショベルのバケットやキャタピラが無造作に写り込んでいる。ちょっとした誤操作でサブドレンピットを壊してしまう危険があったという状況を示しているものと思われる。
しかし、重要な施設や設備にガードを施したり、目立つようにするのは工事現場では当たり前のことだ。測量の基準にする木の杭にだってガードは必ず行われるくらいだ。なぜなら、その杭の大切さを知らない誰かが蹴っ飛ばしたり、たとえ重機でなくても連絡用の軽自動車がちょっと接触しただけでも、測量をやり直さなければならなくなるからだ。
それにくらべてサブドレンピットの重要性は桁が違う。測量用の杭なら測り直せばすむだけだが、地下水位を調整するサブドレンピットを重機オペレータの不注意か何かで壊してしまったら、「高濃度汚染水を流出させない」という廃炉の大原則が揺らぎかねない。
そんな重要施設に対して実施されたのは、井桁に組んだ単管でガードすること。半開きのマンホールに行われたのと同様の処置だった。しかも、本体とガードが近すぎないか。もしも重機オペレーターがミスってバケットを横に振ったりしてぶつけたら、簡単に壊してしまいそうだ。
困ったことにパワーショベルの操縦方法は製造メーカーごとに違っている。最近ではどのレバーをどうすれば腕がどう動くかという「操作パターン」を登録できる機種が多くはなっている。しかし問題は、日本では圧倒的に普及している操作パターンが2通りあるということだ。少し専門的な話になるが、コマツパターンに慣れた人が三菱パターンに設定されたパワーショベルに乗って、バケットの中の泥か何かを振るい落とそうとバケットを動かすと(実際に作業前や作業中によくやる操作だ)、運転者の意に反してパワーショベルは左や右に旋回してしまうのだ。
現場には全国からさまざまな作業員が集まっている。昨日まで乗っていた重機と同じ操作パターンだろうと思い込んでレバーを急激に動かしたら…。予期せぬ動きに慌ててパニックになってさらに違った操作を繰り返してしまったら…。
想像するだに恐ろしい。
せめて、単管のガードの外側に、バリケードやフェンスを設置するといった対策が必要なのではないか。
安全と経済性のどちらをとるか、ではなく。
1月26日、中間発表的に公開されたのはこの3つだけ。いずれも限りなくインスタントな処置に見える。安全確認の進捗状況を伝えるために写真を撮影したのか、公開された写真からはよく分からない。写真撮影のために単管ガードを仮設したり標識を下げたりしたのではないかという疑念すら残る。
建設業では「経済性に考慮」することが重視される。管理技術士の資格試験の問題にも出題されるほどだ。社会のインフラを造る仕事なのだから、闇雲にお金をかけさえすればいいものではないというのが基本的な思想だという。もちろんお金の問題だ、現場のみならず発注者からのプレッシャーも大きい。しかし、経済性に考慮という考え方が、安全軽視や無理な工期短縮などといった良くない事の隠れ蓑にされている面も否定できない。
安全と経済性のどちらをとるか、どちらを優先するかという考え方ではなく「安全第一」の思想に立ち返って取り組んでほしいと思う。今回の安全点検は原発で作業してきた人の犠牲の上に実施されたものだ。労働災害を起こさないことはもちろん、汚染物質を封じ込め、そして確実な廃炉へ向かうこと。その3つを最優先に作業を進める体制に方向転換していただきたい。
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