想定される原因から「サイフォン効果」という言葉はなくなりました。しかし、長距離に渡って引き回した細長いホースから、しばらく経ってからホース内の水が漏れ出したという見解です。
何か、大切なことが忘れられているのではないか。そんな疑念が振り払えません。
些細な出来事に見えるかもしれませんが、違います
プール冷却を自動停止させたのは、このノズルから漏れ出た水なのだそうです。
ことの顛末をざっくりまとめると次のようになります。
▼11月7日午後10時59分頃、4号機の廃棄物処理建屋で漏えい検知器が作動
▼これにより使用済み燃料プールの冷却が自動停止
この状況について、東京電力の翌日の「日報」では、プールにあるのは新燃料だけだから心配ない。その他のプラントパラメータやモニタリングポストの値にも意味があるような変動は起こっていないとした上で、現場の状況を次のように発表されています。
周囲を調査したところ、屋外に設置されていた工事用水(淡水)を溜める仮設プラスチックタンク内の停止中の水中ポンプから、サイフォン効果により仮設ホースを通じて水が流れ込んでおり、当該ポンプを取り外したことにより水の流入は停止。
11月10日に東京電力が発表した現場の写真がこちらです。
水を漏らしたのは周囲の太いパイプやホースではなく、手前に輪に巻かれた細いホースのノズル先端からという説明です。(この現場の雑然とした雰囲気は、実は大きな問題です)
日報で発表されたようにサイフォン効果で水が漏れ出たとすると、ある程度の径のあるホースで、しかもホース内に空気が残っていない状況がなければならないことになります。しかもタンクの場所とホース先端に高低差がなければなりません。夜の11時近い時間になって、突然仮設タンクから水が吸い出されるということは不可解でした。
写真と一緒に発表された資料によると、新たに推定された原因は次の通りです。
■推定原因
地下水流入調査のため床に穴を開けカメラによる調査を実施することとしていた。
11月5,6日にエリア①でコア抜きを実施。
11月6日にエリア②でコア抜きの準備のため仮設ホースを当該エリアまで引き回した。作業終了時には漏水はなかった。
11月7日は作業がなかったが、夜に漏えい警報が発生した。
原因はホース先端がタンクより低い位置にあり、仮設ホース内に残っていた水が出てきたと想定される。また、仮設ホース先端のバルブや接続部に不具合があったと想定される
福島第一原子力発電所4号機廃棄物処理建屋漏えい検知器動作に伴う使用済燃料プール代替冷却系の自動停止について|東京電力 平成26年11月10日
コア抜きという言葉がたくさん出てきますが、円筒形の刃でコンクリートなどに穴をあけるマシン、また穿孔作業のことです。ダイヤモンドチップの刃ですが、コンクリートに穴をあける時には高熱を発するので、もう一人の作業員が横から水をちょろちょろとかけて冷却するのが作業場必須となります。今回の水はそんな冷却作業用のホースから漏れたという説明なのです。
冷却用なのでそんなに大きな流量は必要ではありません。それで細いホースが使われています。冷却用に使うだけなので、タンクを移動させることなく、かなりの長い距離を引きまわしていたようです。
そして、11月6日の作業終了時にはノズルからの漏洩はなかったのに、11月7日の夜になって漏洩警報が発生する水漏れを生じてしまった。
屋外の地面に設置されたタンクより、ノズルの方が位置が低かったという説明にも疑問は残りますが、発表から考えられる原因は、建屋の入り口を越える場所などで発生する小さな高低差によって、ホース内に残っていた水が時間をかけてだんだんノズル方向に移動して漏れ出した。長い距離を引きまわしていたのでホース内の溜まり水とはいえ、警報を発生するほどの量になった――。ということでしょう。
考えられないインシデント。考えられない理由
建設でも土木でも、作業が終わった後の片づけは非常に重視されます。次の作業開始に左右するということもありますし、安全上の問題もあるからです。道路工事などでは、作業の後片付けだけに1時間も時間を掛けることもあるほどです。たとえば道路に穴を掘っていて、定時になったからそのまま帰るなんてことはありえないわけです。
原子炉建屋内の作業であれば、一般の人が入ってくることは考えにくいので安全を考えなくてもいいかというと、そうではありません。ただでさえ放射線量が高い危険な環境で、しかも作業場所は津波や爆発で壊された現場です。極力安全に留意するのが当たり前の、シビアな現場であるはずです。
町なかの工事現場で「安全第一」と書かれたスローガンを目にしたことがある人は多いでしょう。そして安全第一の隣にはほぼ間違いなく、次のスローガンも掲げられています。
「整理整頓」
現場はきれいにしていた方が気持ちがいいというような意味だけではありません。むしろ、整理整頓こそが安全確保への第一歩という、工事現場・作業現場における基本的な思想を日々確認するために掲げられているのです。
工事現場というのは、ただでさえ危ない場所です。小さな木片、無造作に放置された道具や仮設の柵といったものが原因で、思いもよらない事故が発生します。ホースやパイプが並行して何本も走っている現場なんて、安全教育の教科書に出てくるくらい危険度が高い典型的な場所のひとつです。
ましてや、屋内で床に水が漏れるということは、足を滑らせて事故を招く恐れがあるから要注意といった一般的に厳守すべき安全事項に加えて、汚染水の可能性を確認するためにサンプリングを行ったり、作業を中断させたりする事態を招くことになります。当然、現場では水が漏れるということに対して神経質になっているはずです。
そのような現場環境の中で、ホースをタンクにつないだままで、水抜きはおろか、ホースを束ねてある程度の高所にしまうとか、ポンプを揚げるという単純な措置すらとられず、やりっ放しの状況が放置されていた(しかも翌日は作業がない。つまり作業担当者が現場に来ることがないのに!)ということが大問題なのです。
■今後の対策
仮設ホース使用中は、仮設ホース接続部等に水受けを設置する。
作業終了後は、仮設ホースを片付け、水中ポンプをタンクからはずしておく。
福島第一原子力発電所4号機廃棄物処理建屋漏えい検知器動作に伴う使用済燃料プール代替冷却系の自動停止について|東京電力 平成26年11月10日
東京電力の資料では、今後の対策として上の2項目を挙げました。
そんな基本中の基本のことを「今後の対策」として挙げなければならないほど、現場の状況が大変なのかという点が大いに心配です。
使ったものを片付ける、あるいは使っている道具に不具合があればそれを補う処置をするという基本、もうそれは工事経験があるとかないとか以前の問題です。そんな基本を守ることすら困難なほど作業員が疲弊しているのか、あるいは、現場の片付けすらできないほど線量が高いのか。
いずれにしても、東京電力には、基本的な作業がしっかりできない理由を示してほしいと思うのです。そうでなければ、現場の状況を広く公開することなしには、本当の対策は進まないと考えます。
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