汚染水の海洋流出は明らか

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移送ホースからの漏えい箇所 撮影日:2015年5月29日 提供:東京電力株式会社
移送ホースからの漏えい箇所 撮影日:2015年5月29日 提供:東京電力株式会社

photo.tepco.co.jp

5月29日午前10時8分頃、東京電力福島第一原子力発電所の構内で、またしても深刻な汚染水漏洩が発生した。今回の漏洩は、地下貯水槽に貯められた汚染水を汲み上げて貯蔵していた角型大型タンクから、3号機タービン建屋地下へ汚染水を移送していた耐圧ホースが破れたことが原因だった。

この事故には深刻な問題が3つある。ひとつは耐圧ホースが破れて汚染水が漏洩した原因だ。次に、地下水バイパスの揚水井からほど近くという最悪の場所での漏洩だったため、地下水の汚染が懸念されること。そして最後に、漏洩した汚染水は間違いなく海洋に流出しているということだ。

1.耐圧ホースはなぜ破れたのか

移送ホースからの漏えい箇所 撮影日:2015年5月29日 提供:東京電力株式会社
移送ホースからの漏えい箇所 撮影日:2015年5月29日 提供:東京電力株式会社

photo.tepco.co.jp

耐圧ホースが破れた原因は単純明快、ホースの設置があまりにも不適切だったから。

破損したホースは樹脂製のフレキシブルホースとも呼ばれるもので、工事現場や工場などでの液体移送に多用されている。フレキシブルとはいっても、芯が巻きつけられた構造なので、なだらかに曲げることは出来ても、カクッと急な角度で曲げれば当然その箇所に負担がかかって破損する。

ほとんど90度近くに曲げられた上の写真を見れば、工事経験者なら誰だって「いくらなんでもこれはないでしょ」と思うだろう。たとえ経験がなくても、かなりの負荷がかかることは見ただけでわかると思う。

人類史上最悪の原子力事故の現場で、こんな初歩的な施工ミス(あるいは無知)が原因で、高濃度汚染水が流出してしまったのだ。考えられないというほかない。

実は同様の耐圧ホースは、原発事故発生直後に緊急かつ仮設的にかなりの数量が利用され、多数の漏洩事故が発生している。そのため耐圧ホースをPEパイプ(水道やガスに使われる耐圧・耐変形性に優れるポリエチレン製のパイプ)への置換えを進めると、当の東京電力自身が宣言している。

危険は認知されていたのである。危ないと分かっているのに使うのであれば(しかも高濃度汚染水を移送するのである)、せめて十分な点検を行ってほしいものだ。しかし、写真のような酷い施工状況をチェックすることすらできず、事故発生の2日前から漏洩が続いていた可能性があるらしい。

現場での施工が常識はずれなほど稚拙であったこと。そして、危険な汚染水を過去に事故が多発した耐圧パイプを使って移送するという多重リスクがあるにもかかわらず、東京電力が管理できなかったこと。

問題の根は極めて深いと言わざるをえない。

(※ やや余談だが、この日発表された2点の写真の不自然な修正は何だろうか?)

2.あまりにマズい場所での漏洩

「福島第一 地下水バイパス揚水井 分析結果|東京電力 平成27年6月3日」に加筆
「福島第一 地下水バイパス揚水井 分析結果|東京電力 平成27年6月3日」に加筆

漏洩が発生した場所について東京電力の一報は「構内の35m盤の五差路から2,3号機建屋へ向かう道路(2,3号機建屋側への下り勾配)脇」と説明した。その場所を地下水バイパス揚水井(汲み上げた地下水を海に流す「地下水バイパス」用の地下水汲み上げ井戸)の地図に合わせると、上図のようになる。地下水バイパス揚水井が並んでいるのは、標高約35mの丘の先端部にあたる。揚水井付近から海に向かって急勾配で下った先の10m盤には1号機から4号機までの原発が並ぶ。

耐圧ホースは道路の側溝の中に敷設されていたので、漏れた水は側溝に沿って流れ下っていくと考えれるが、通常の土木構造物である側溝は完全防水ではない。目地の隙間などから確実に一部が漏れ出ることになる。側溝から漏れ出した汚染水がどこにいくかというと、側溝の外側に沿って流れるものと、そこから地中に浸透していくものとがあるが、側溝から漏れだした汚染水は周辺の土壌を汚染することになる。

「福島第一原子力発電所 1,000t ノッチタンクから3号機タービン建屋への耐圧ホースからの漏えいについて|東京電力 平成27年6月1日」より
「福島第一原子力発電所 1,000t ノッチタンクから3号機タービン建屋への耐圧ホースからの漏えいについて|東京電力 平成27年6月1日」より

漏洩事故後、東京電力は側溝がつながるK排水路への流れ込みばかり対応しているかのように伝えていたが、6月1日に発表された資料からは、地下水バイパス揚水井近くに向かう枝側溝に防水養生を施し、水の流れを土嚢でブロック、さらにバキューム車で吸い上げていたことが分かる。

地下水バイパスへの影響を東京電力は認識していたと考えていいだろう。

3.汚染水は確実に海洋に流出する

漏洩した汚染水の原水である角型の大型タンク(1,000tノッチタンク)に貯蔵されていたのは、ストロンチウム-90を高い割合で含むと考えられる「全ベータ」で1リットルあたり110万ベクレルという極めて高濃度の汚染水だった。しかも、この濃度は(より低い濃度と考えられる)別の漏水と混ぜた水で測定されたものなので、実際にはさらに高濃度だった可能性が疑われる。

前項では、水は側溝から外にも流れると書いたが、そうは言っても大部分は側溝の上水として流下し、しばしば問題となるK放水路に流れこむことになる。このK放水路の出口が極めて酷いものなのだ。

 「K排水路の汚れた雨水が海に流出」分かりやすく解説
potaru.com

K放水路は、(除去することができないトリチウム以外の放射性物質の濃度が極めて低いので海に流させてもらっている)地下水バイパスの放水口でもあるのである。出口は港湾内ではなく、直接外洋に開かれている。繰り返すが、ここから流れでたものは、東京電力が「最後の砦」的に扱っている感のある港湾内をスルーして、そのまま太平洋に流れ出ていくことになる。

地下水パイパス放水口にほぼ接する上流部を堰き止めて、汚染度が高い水が外洋に流れ出さないようにして、貯めた汚染水をポンプで汲み上げ、港湾内につながるC排水路に切り替えるという仮設的措置がとられていたが、4月21日にポンプが止まったせいで高濃度汚染水が太平洋に流れでてしまった事故は記憶に新しい。

同じことが繰り返される危険が高まる中、東京電力はK→C排水路移送をストップし(その後すぐ再開)、強力なバキューム車でのくみ取りを継続した。K→C移送を一時的であれ停止したのは、港湾内であれ高濃度の汚染水が流入することを嫌ってのことだと考えられる。

バキュームによる吸上げが続けられる中、K排水路排水口で5月29日午後2時に採取されたサンプルで全ベータが6,600ベクレルを記録。さらに港湾内でも原発敷地に面したエリアの海水で全ベータが290ベクレル、港湾中央で190ベクレル、さらに港湾の外の海水でも全ベータ18ベクレルという高い値を記録した。

バキュームで吸い上げきれず、K→C移送で港湾内に流れ込んだ汚染水は、希釈・拡散しながら港湾外に流れでたことは確実だ。

K排水路、港湾内外の海水ともに、放射性物質の濃度は徐々に低減していくが、それは流入が減り、拡散によって薄まったと考えるほかない。測定値が低下したことは、放射性物質がどこかに消えてくれたことを意味しないのだ。

にも関わらず、東京電力は5月31日から奇妙な説明を行うようになった。

港湾口連続モニタの値に有意な変動が確認されていないことから、外洋への影響はないものと考えている。

福島第一原子力発電所の状況について(日報)|東京電力 平成27年5月31日

港の狭い開口部に設置された連続モニタで有意な変動がないのだから、外洋に流出はしていないと聞くと、なるほどと思えるかもしれないが、これは明らかに詭弁である。しかも「流出はない」ではなく「影響はないものと考えている」という言葉を選んでいるあたりも胡散臭い。

科学的という以前に、常識的に考えればこういうことだ。港は外洋に開けている。毎日の潮の満ち引きによって港湾内の海水も入れ替わる。たとえば小名浜港では、一回の満引きで50cmから100cmほどの潮位変動が毎日2回繰り返されている。第一原発の港湾の深さが5mだったとすると一回の満引きだけで、港湾内の海水の1割~2割が入れ替わっていることになる。モニタに有意な変動がないのはモニタに検知できないほど、汚染物質が薄まったということを意味しているにすぎない。

今回の一連の東京電力発表の中でほとんど唯一安堵したことがある。それは6月1日に発表された資料に「推定漏えい量:約7~15m3」とあったことだ。

仮に港湾内の海水の総量が100万トンだったとすれば、7~15トン程度の汚染水ならほぼ10万分の1の濃度に希釈されることになる。100ベクレルの汚染水が0.001ベクレルになるということだ。外洋で採取された海水の濃度が大きく上がらなかったのは、たまたま漏洩量が少なかったからに過ぎない。僥倖というべきものだ。

「福島第一原子力発電所 1,000t ノッチタンクから3号機タービン建屋への耐圧ホースからの漏えいについて|東京電力 平成27年6月1日」より
「福島第一原子力発電所 1,000t ノッチタンクから3号機タービン建屋への耐圧ホースからの漏えいについて|東京電力 平成27年6月1日」より

上の写真は6月1日に発表された資料に掲載された耐圧ホースの開口部だ。穴の形状は「長さ約1cm×幅約0.2cmの楕円状(中間にわずかな繋がりあり)」とのこと。(写真は確認のため、ホースを曲げて当該箇所を拡大させた状態という)

この穴がもしももっと大きかったらどうなったことか。穴が開いたホースの黒い地の部分は樹脂が柔らかくなっているというから、劣化していたのだろう。90度近くに曲げられて負担が掛かっていたのだから、大きくパックリ裂けてしまって、ホース内のほぼすべてが漏洩(というか流出)するような事態になっていた可能性もある。

そのような事態を招かなかったことは幸運以外のなにものでもないが、仮にそんなことになっていたら「湾口連続モニタの値に有意な変動が確認されていないことから…」などと言っていられなかっただろう。

現実的に考えて、港湾内に蓄積されている放射性物質は、潮の干満などにより毎日少しずつ海洋に流出している。ただ、港湾内の海水量が大きいため、測定で有意な数値が出ないだけ。

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