またもALPSで大きなトラブル。今度は汚染した吸着剤の排出作業中の漏洩。ALPSは起動できるのか?
4月16日(水曜日)に公開された「福島第一原子力発電所の状況について(日報)」。前日からの変化や変更点を中心に読み解きます。
多核種除去設備(ALPS)で汚染物質の吸着剤とろ過水が溢れだすトラブル
重大なトラブルですが、分かりにくい用語がいろいろ使われるので、まず用語を解説。
◆多核種除去設備(ALPS):処理する大元となる対象は、原子炉の地下に溜まった高濃度汚染水。セシウムを除去した後、真水をフィルターで抜き取って濃縮した水(セシウム以外の放射性核種や塩分などが濃厚な水)から、トリチウム(三重水素)以外の62種類の放射性核種を取り除くためのシステムがALPS。薬を混ぜて沈殿させて、上澄みと沈殿物に分離したり、チタン酸塩、銀添着活性炭などさまざまな吸着剤に引っ付けて分離することで、放射性物質を分離する化学プラント。
◆吸着塔:前処理として塩分や一部の放射性物資を沈殿して除去する前工程に続いて、放射性物質を分離する装置。化学的な吸着剤を詰めたタンク状のもので、それぞれの系統に14本ある。
◆高性能容器(HIC):High Integrity Container 。高性能とはいうものの、設計・建設規格の要求に適合するものではないが、米国NRCのお墨付きあり。強度、耐久性、耐放射線性、耐薬品性に優れたポリエチレン製容器で、使用済みの吸着材などを保管する。直径60インチ、高さ72インチ(約1.5×1.8m)、最も薄い部分で厚さ0.45インチ(11.4mm)
◆吸着材2用HIC:吸着剤No.2というのはチタン酸塩で、3つの吸着塔で使われる。放射性物質を十分に吸着した吸着剤(当然、濃厚に汚染されている)は、自動運転で高性能容器(HIC)に移された後、クレーンで保管場所に運び出される。保管効率を良くするため、吸着剤を脱水してからHICに入れることになっている。
◆スキッド:沈殿させるタンクや吸着塔、さらにそれらの間で汚染水を移送するためのポンプなどの設備を載せたモジュール。1系統当り50基(種類)近いスキッドがある。
◆クロスフローフィルタ:前処理として薬で沈殿させて分離する装置
◆タメマス:おそらく「溜め枡」
参照:http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu12_j/images/120802j0204.pdf
何が起きたのかというと、放射性物質を含む核種を化学的に吸着する吸着塔で、放射能が吸い付いた吸着材を保管容器(HIC)に移し替えていたら、吸着剤と水があふれてしまったということのようです。
※4月16日午後0時19分頃、多核種除去設備(ALPS)において、高性能容器(HIC)からオーバーフローしていることを協力企業作業員が発見。
現場調査の結果、多核種除去設備(ALPS)側の吸着塔から吸着材2用HICに、ろ過水を注入して吸着材を送り出す作業中、HICから吸着材とろ過水の混合物がオーバーフローしたものと推定。
オーバーフロー範囲は約8m×約9m×深さ約10cmでジャバラハウス内の堰内にとどまっており、その後、仮設の移送ポンプを停止したことにより、同日午後1時24分にオーバーフローが停止したことを確認。
なお、協力企業作業員の身体に放射性物質の付着はなく、設備の損傷等の異常は確認されていない。また、モニタリングポストおよびダストモニタの指示にも有意な変動は確認されていない。
上の図に「B系列」とあることから、現在3系列あるALPSのうち、3月17日に出口水で高い放射能濃度を記録し、以来停止しているB系でのトラブルのようです。
オーバーフロー箇所および雰囲気の線量測定を実施した結果は以下のとおり。
・表面線量率 70μm線量当量率(ベータ線) 0.2mSv/h
1cm線量当量率(ガンマ線) 0.008mSv/h
・雰囲気線量率 70μm線量当量率(ベータ線) 0.3mSv/h
1cm線量当量率(ガンマ線) 0.03mSv/h
また、同日午後0時36分頃、多核種除去設備(ALPS)において、「クロスフローフィルタ*1Aスキッド2近傍タメマス*2漏えい」警報が発生。現在、当該警報の発生とオーバーフローの関係について確認中。
*1 後段の吸着塔でストロンチウム吸着を阻害するイオン(マグネシウムやカルシウム等)の炭酸塩を除去するフィルタ
*2 オーバーフローした水を集水する設備
予備知識をもって日報を読んでみると、オーバーフローという事実以外には、ほとんど報告されていないことがわかります。
被曝の危険が大きいため自動化されていたはずの吸着剤移し替え作業でオーバーフローが発生した経緯、脱水して移し替えるはずなのになぜ水があふれたのか――。
詳しい状況はまだ説明されていません。
放射性核種を取り除くためのフィルターで3月にトラブルが発生したのは、ALPSの化学的処理のいわば「本筋」の能力不足を示すものでした。
分離した放射性物質を安全に保管するラインで発生した今回のトラブルは、バックヤードでの事故とはいえ、ALPSのシステム全体に、まだまだ改善すべき点が数多く存在する可能性を示唆しています。
2号機タービン建屋で油漏れ。富岡消防署は「事故ではない」と判断
※4月15日午後3時20分頃、2号機タービン建屋オペレーションフロアエリアにおいて、ホイストクレーン付属の油タンクの近傍にて油溜まりがあることを当社社員が発見。
油溜まりの範囲は、約1m×約5mおよび約1m×約3mの2箇所。
同日午後3時29分に双葉消防本部へ一般回線にて連絡。
現場を確認したところ、当該クレーン装置付属の油タンクの油面確認用レベルゲージ下部に油の滲みがあることを確認。
油の滲みが継続しているため、当該箇所に油受けを設置。今後、吸着材による油の回収を行う。
なお、同日午後4時33分に富岡消防署より「油漏れ」であり「事故」ではないと判断された。
焼却工作建屋への滞留水移送についての詳細報告
東京電力から「福島第一原子力発電所集中廃棄物処理施設 焼却工作建屋への滞留水の誤った移送について」という参考資料の改訂版が4月16日付で公開されています。
1号機
新規事項なし
・復水貯蔵タンク(CST)を水源とする淡水を原子炉へ注水中
・原子炉および原子炉格納容器へ窒素封入中
・原子炉格納容器ガス管理システム運転中
・使用済燃料プール循環冷却系運転中
2号機
1号機と同じ4項目に加え、
2号機タービン建屋地下→3号機タービン建屋地下へ高濃度滞留水の移送終了を報告。
・2号機タービン建屋地下→3号機タービン建屋地下へ高濃度滞留水の移送を実施(平成26年4月15日午前10時9分~平成26年4月16日午前9時31分)
3号機
1号機と同じ4項目に加え、
3号機タービン建屋地下→集中廃棄物処理施設(高温焼却炉建屋)へ高濃度滞留水の移送終了を報告。
・3号機タービン建屋地下→集中廃棄物処理施設(高温焼却炉建屋)へ高濃度滞留水の移送を実施(平成26年3月12日午後3時48分~平成26年4月16日午前9時52分)
4号機~5号機
新規事項なし
◆4号機
・原子炉内に燃料なし(使用済燃料プールに保管中)
・使用済燃料プールから共用プールへ燃料移動中
・使用済燃料プール循環冷却系運転中
◆5号機
・冷温停止中
・使用済燃料プール冷却浄化系運転中
6号機
・冷温停止中(燃料は全て使用済燃料プールに保管中)
・使用済燃料プール冷却浄化系運転中
とのこれまでと同じ記載に加え、
2月23日に使用済燃料プール冷却浄化系を停止したことを端緒とする6号機冷却系のトラブル(圧力抑制室への汚染水の流れ込み)のうち、停止中の原子炉を冷却する「残留熱除去系(RHR)」の弁の不具合の確認作業で汚染水が漏れた問題について、原因と再発防止策を記載。
このトラブルでは、弁の検査のため、配管内の水をポンプで抜き取りサンプ(水槽)に移していたが、ホースがサンプから抜けたことで漏えいに繋がったと説明している。
最終更新: