4月9日(水曜日)に公開された「福島第一原子力発電所の状況について(日報)」。前日からの変化や変更点を中心に読み解きます。
原子炉建屋・タービン建屋地下の滞留水からセシウムを除去した上で、淡水を分離して高濃度にした汚染水を、多核種除去設備(ALPS)で処理するまで溜めるタンク(過去に漏えい事故を起こしたH4エリア、H6エリアなどのタンク)に関する報告が2件上がっています。いずれも水位監視に関するトラブルですが、水位計による監視システムは濃縮された汚染水の漏えいをブロックするために設置されたもの。決して軽微なトラブルとは言えません。
さらに、このシステムで水位の異常があった際に鳴るはずの警報音がオフになっていたとの報道もありました。
汚染水の量を少しでも減らすため、地下水が汚染される前に汲み上げて海に放出する地下水バイパスの汲み上げ作業が報告された同じ日に、濃縮汚染水漏えい対策の瑕疵が判明する――。ずいぶんバッドタイミングな話にも見えますが、ことは深刻です。
Eエリア(D12)タンクの水位計の故障(続報)
4月8日の日報で報告された「Eエリア(D12)タンク水位計の故障」について続報。
その後、当該水位計を予備品に交換し、試験の結果問題がないことを確認。
H4エリアで300立米もの濃縮汚染水が漏えいした事故を受けて、東京電力が発表した「タンクエリアにおける諸対策の実施状況について」によると、個々のタンクへの水位計設置は完了しているスケジュールとなっています。水位計はタンクの天板の蓋に設置するレーザー式の水位計のようです(同資料16ページの写真)。
天板から水面までの距離から逆算して水位を計る、河川の増水監視や積雪計に利用されているものと同様のものと思われます。
この水位計をすべてのタンクに設置し、微量な水位変化をもとらえてタンクの継ぎ目などからの漏えいを監視しようというシステムが稼働していることになっています。
今回は予備の水位計に交換したことで事無きを得ましたが、資料を読むと水位計による漏えい監視には極めて繊細な問題があることがわかります。
ひとつはタンクその物や貯められている水が、外気温によって膨張したり収縮することで水位が微妙に変化するということ。
もうひとつは、気温による変動を誤差として見た際、現実に漏えいが発生した場合に誤差だと判断している間に漏えいしてしまう水の量が少なくないことです。
東京電力では水位計による監視システムでの警報を、24時間の変化率で「-0.6ミリ」という小さな値に設定していますが、それでも条件によっては5200リットルが漏えいする可能性が示されています。
現実には、今年2月にH6エリアで約100トンが漏えいした際に、警報が鳴ったにも関わらず、機器のトラブルと考えて現場確認を行わなかったという「人的ミス」も織り込んで考える必要があります。
さらに、4月9日には「汚染水タンク:433基の水位計 異常警報が「消音」状態」との記事が毎日新聞に掲載されました。時事通信社なども同様の記事を伝えています。
たとえ水位計が復旧しても、監視システムそのものに不十分な点がある上に、さらにその警報の音が鳴らないのでは、何のための漏えい対策なのか分かりません。
汚染水タンク:433基の水位計 異常警報が「消音」状態
毎日新聞 2014年04月09日 22時45分
東京電力は9日、福島第1原発の汚染水をためるタンク約1000基のうち433基に設置された水位計が、水位の異常を示す警報が出ても音が鳴らない「消音」状態になっていたことを明らかにした。8日には実際に水位計が故障して警報は出ても音が鳴らず、約2時間気付かなかったケースがあったという。
東電によると、水位が上昇したり、急激に低下したりした時に警報が鳴る仕組みだが、全ての水位計を制御するパソコンで、警報音が鳴らない「消音」の設定になっていたという。2月に高濃度汚染水が漏れた際は警報音が鳴っており、東電はそれ以降に「消音」設定されたとみて「操作ミスかどうか原因を調べている」としている。【小林洋子、岡田英】
東京電力は4月9日の「報道関係各位一斉メール」にて、
地下水バイパスの運用開始に向けた汲み上げ作業の開始
と発表しましたが、汲み上げを行う井戸よりも山側に設置された、濃縮汚染水が入ったタンクの管理体制に大きな問題がある以上、地下水バイパスを運用する環境は整っていないと言わざるを得ません。
G3西エリア(G1)タンクで水位低警報が発生
新たに建造が進められているG3エリアのタンクでも、水位についてのトラブルです。「水位低警報」はタンクから水が漏れているかもしれない! とのエマージェンシーを知らせる重要なアラートです。「一過性のものと判断」して済まされるものなのでしょうか。水位計そのもののトラブルのほか、水位計のデータを解析するシステムのエラーである可能性もないとは言えません。
水位計による漏えい監視のシステムそのものに問題があるとしたら、事故原発での汚染水問題は極めて重大な局面にあると考えなければなりません。
※4月8日午後3時54分頃、G3西エリア(G1)タンクにおいて、水位低警報が発生していることを確認。その後、当該タンク周辺を確認したところ、漏えい等の異常は確認されなかった。当該タンク周辺の雰囲気線量は、バックグラウンドの値とほぼ同等だった。当該タンク上部からタンク水位の確認を行ったところ、天板上部から約1.18mであり、当該タンク水位低警報発生前の水位と比較して有意な変化はなかった。当該タンクの水位トレンドを確認したところ、指示がひげ状に変化し、元の値に復帰していることを確認。これらのことから、当該タンク水位低警報の発生は、一過性のものと判断。
上述の毎日新聞が報じた「消音」が発覚する原因となったのが、このトラブルと考えられます(そのほかに水位計トラブルが報告されていないため)。
警報音はならなかったが、モニタ上では異常事態が表示されていたということでしょうか。約2時間気づかなかったと新聞は伝えていますが、2月19日にH6エリアで発生した漏えい事故では、1時間ほどの間に100トンが流れ出したと東京電力は推定しています(「H6エリアタンク上部天板部からの漏えいについて」2月24日)。
水位監視システムの誤作動ではなく、現実の漏えいだったとしたら、単純計算で200トン近くが漏れ出していた可能性もあったということです。(タンクの継ぎ目からの水漏れではそんなに漏れないかもしれませんが、弁の誤作動やタンクの破損などの可能性はないとは言えません)
地下水バイパスの運用開始に向け汲み上げ作業開始
タンクからの漏えい監視体制の問題が明らかになる中、地下水バイパス運用に向けての準備が着々と進められています。
※1~4号機原子炉建屋等への地下水流入抑制対策として、地下水バイパス設備の設置工事および地下水の水質確認を行ってきたが、現状における地下水の水質確認を行うため、
4月9日午前10時29分から午前11時24分にかけて揚水ポンプを順次起動し、試験的に地下水バイパス揚水井から地下水の汲み上げを開始。
試験的に汲み上げた地下水は、一時貯留タンクに貯留した後、水質確認を行う。
また、地下水バイパス設備の稼働状態およびインターロック等の確認を行う。なお、一時貯留タンクに貯留した地下水については、試験運転中における海への排水は実施しないこととしている。
インターロック:電車のドアが全て閉まっていないと発車できないように、条件が整わないと次のプロセスに進めない安全のための仕組み。
1号機
・復水貯蔵タンク(CST)を水源とする淡水を原子炉へ注水中
・原子炉および原子炉格納容器へ窒素封入中
・原子炉格納容器ガス管理システム運転中
・使用済燃料プール循環冷却系運転中
とのレギュラー4項目に加え、
4月4日に発生した原子炉格納容器内温度計(PCV温度計:TE‐1625T3)についての続報を記載
対策として、被水した当該温度計のケーブル接続部(コネクタ)の乾燥を行った上で、ケーブル接続部(コネクタ)およびケーブル保護管(エフレックス)の被水防止養生を実施。その後、当該温度計について電気的特性の確認による健全性評価を行ったところ、発生前と同等であることを確認。このことから、4月9日午後0時より当該温度計による監視を再開。
2号機~6号機
新規事項なし
◆2号機
1号機と同じレギュラー4項目に加え、
・2号機タービン建屋地下→3号機タービン建屋地下へ高濃度滞留水を移送中(平成26年3月27日午前9時49分~)
◆3号機
1号機と同じレギュラー4項目に加え、
・3号機タービン建屋地下→集中廃棄物処理施設(高温焼却炉建屋)へ高濃度滞留水を移送中(平成26年3月12日午後3時48分~)
◆4号機
・原子炉内に燃料なし(使用済燃料プールに保管中)
・使用済燃料プールから共用プールへ燃料移動中
・使用済燃料プール循環冷却系運転中
◆5号機
・冷温停止中
・使用済燃料プール冷却浄化系運転中
◆6号機
・冷温停止中(燃料は全て使用済燃料プールに保管中)
・使用済燃料プール冷却浄化系運転中
共用プール・水処理設備および貯蔵設備の状況
新規事項なし
◆共用プール
・使用済燃料プール冷却浄化系運転中
◆水処理設備および貯蔵設備の状況
・セシウム吸着装置停止中
・第二セシウム吸着装置(サリー)運転中
・淡水化装置は水バランスをみて断続運転中
・多核種除去設備(ALPS)ホット試験中
最終更新: