2月19日午後11時25分頃、H6エリアのタンクから100トンもの高濃度汚染水の漏えいが発見されました。2月20日に公表された「福島第一原子力発電所の状況について(日報)」では、このインシデントについての記載が多くなっています。
冒頭特記事項
※2月19日、午後11時25分頃、タンクエリアパトロールにおいて、H6エリアに設置されているタンクの上部より水が垂れ落ちていることを協力企業作業員が発見。
現場を確認した結果、タンク上部天板部のフランジ部より水が漏えいしており、上部天板部から漏えいした水は雨樋を伝わり堰外へ流出していることを確認。近くに排水路がないことから、海への流出はないと考えている。
漏えいしている水の表面線量率を測定したところ、70μm線量当量率は50mSv/h(ベータ線)、1cm線量当量率は0.15mSv/h(ガンマ線)。漏えいした原因については、今後調査を実施。
測定した水の表面線量率の単位が「マイクロ」ではなく「ミリ」である点は要注意。
「放射線障害防止に係る法律」では、緊急作業に係る線量限度として「100mSv」と定められています。つまり、測定された漏えい水の近くに2時間いると、作業することが許される累計線量を超える可能性があるということです。
海への流出はもとより、その場所に漏えいしたこと自体が、きわめて重大な事故であるということをしっかり認識する必要があります。
本件については、2月20日午前0時43分に核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第62条の3に基づき制定された、東京電力株式会社福島第一原子力発電所原子炉施設の保安及び特定核燃料物質の防護に関する規則第18条第12号「発電用原子炉施設の故障その他の不測の事態が生じたことにより、核燃料物質等(気体状のものを除く)が管理区域内で漏えいしたとき。」に該当すると判断。
「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第62条の3」というのは、核燃料物質等が異常に漏えいしたときには、その旨(漏れた事実)を直ちに、その状況及びそれに対する処置を十日以内に国土交通大臣に報告しなければならないとする法律です。
「事象」とか、アクシデントの一歩手前といったニュアンスが強い「インシデント」ではなく、明らかに「事故」ということです。少なくとも一般的な感覚からすると事故と呼ぶほかない重大事であると判断できます。
この「事故」で漏えいした水の分析結果は以下の通り。想像を絶する数値です。
H6エリアタンク漏えい水および堰内水の分析結果は以下のとおり。
H6エリアタンク雨樋水(2月20日採取)
・セシウム134:3,800 Bq/L
・セシウム137:9,300 Bq/L
・コバルト 60:1,800 Bq/L
・マンガン 54:1,300 Bq/L
・アンチモン125:41,000 Bq/L
・全ベータ:230,000,000 Bq/L
全ベータの値は桁が多すぎて一目で読める人は少ないかもしれません。
1リットルあたり「2億3000万ベクレル」と記載されています。
漏えい量については、RO濃縮水供給ポンプの移送量およびタンクの空き容量等から、総漏えい量は約110m3と推定しており、そのうち堰外に約100m3漏えいしたものと判断。漏えいした水のうち回収可能な水については、パワープロべスター(バキューム車)で汲み上げを実施。
漏れた水の量は100立方メートル。つまり約100トンに上るとの見立てです。
漏えいした高濃度汚染水全体では、
全ベータで「23兆ベクレル」の放射性物質が、「管理されない」状況に放出されたということになります。
この件については、別のページを設けて、事故の推移についてチェックしていきます。
冒頭特記事項-2
2月20日の「日報」では、上記の重大な事故についてのみならず、2件のインシデントが報告されています。
◆2号機原子炉圧力容器温度計が監視機能を発揮できていない状態と判断された件(2月18日)について
圧力容器底部の温度を計測していた温度計が測定不能になったとの記載です。
※2月18日、2号機原子炉圧力容器温度計(TE-2-3-69R)の点検において、絶縁抵抗測定を実施したところ、0オーム(Ω)を指示することを確認。その後の評価により、温度計に短絡が発生しているものと推定され、原子炉圧力容器温度監視機能を発揮できていない状態と判断。
原因として、絶縁抵抗測定時に誤った電圧を印加したことにより、当該温度計に影響を与えた可能性が否定できないことから、今後、対策について検討することとし、当該温度計については交換のための準備を進める。
なお、当該温度計は原子炉圧力容器底部温度を監視していたが、近傍にある温度計(TE-2-3-69H3)により監視することが可能。
現在、圧力容器の内部には人間が入るどころか近づくことすら難しい状況です。圧力容器内部の様子は、限られた温度計の示す数値から「推定」することしかできません。
そのための重要なセンサーである温度計が計測不能になりました。
まして、2月17日の「日報」には、「炉心をシャワーのように水をかけて冷却する炉心スプレイ系から、風呂に水を溜めるように冷却する注水系に移行するための処置で、スプレイ系を0.0m3/hにした」という記載があります。炉心の冷却方法を変更した直後に、炉心をモニターする温度計が1つになってしまったのは、極めて重大な事態です。
「近傍にある温度計(TE-2-3-69H3)により監視することが可能」とありますが、事故後2号機圧力容器の温度計で監視に利用できる精度のものが「69H3」のみになったために新設されたのが「69R」です。
1台では不安があるために増設されたものが壊れた状況に、「もともとあるもので監視することが可能」という記載は、意図しているところが不明です。
★ 2号機の内部状況の変化を検出するために、あらゆる対策を講じる必要があります。
★「69R」を増設することも、技術的に困難であったようですが、速やかな代替温度計の設置が求められます。
◆5号機タービン建屋地下1階にある漏えい検知器が動作した件(2月19日午後2時55分頃)について
※2月19日午後2時55分頃、5号機タービン建屋地下1階にある漏えい検知器(タービン建屋南西側立溝ピット)が動作したことを示す警報が発生。
当該検知器はタービン建屋地下1階に設置されており、タービン建屋外部にあるトレンチ内に入り込んだ水を、タービン建屋内に配管を通じて導き、容器で受けて検知するもの。
現場を確認し、受け容器内に溜まった水を排水したところ、水の流れは停止したことから、漏えいの継続はないことを確認。
溜まった水は建屋内からの漏えい水ではなく、雨水または地下水と判断。
当該漏えい検知器の受け容器内の水を排水したことにより、同日午後3時6分に同警報は解除された。
噛み砕いてみます。
5号機の建屋から、外にあるトレンチ(深い縦穴や溝)への漏えいを検知するためのシステムがありました。その検知システムはトレンチに入った水を、タービン建屋地下1階にある漏えい検知器まで配管を通じて引っ張ってきて検出するしくみになっていました。検知器が動作すると警報がなるようになっていました。さらに整理すると、ポイントは3つです。
・検知器があるのはタービン建屋地下1階
・検知器には外部のトレンチから配管で水が送られるようになっている
・検知器の狙いは建屋からトレンチへの漏えいをチェックすること
前提がこのようなものであったと理解して読み直すと、
警報が鳴った。タービン建屋地下1階の漏えい検知器が作動していた。トレンチから送られてくる水を溜める容器を排水したら、水の流れはなくなった。容器から水がなくなったので警報も解消した。
「溜まった水は建屋内からの漏えい水ではなく、雨水または地下水と判断」した。
★ トレンチの状況はどうなっているのでしょうか? まったく分かりません。
★ 溜まっていた水の検査結果を公表した上での、正式な判断が示されることを期待します。
1号機~6号機
新規事項の記載なし。
◆1号機
・復水貯蔵タンク(CST)を水源とする淡水を原子炉へ注水中
・原子炉および原子炉格納容器へ窒素封入中
・原子炉格納容器ガス管理システム運転中
・使用済燃料プール循環冷却系運転中
◆2号機
1号機と同じ4項目のみ。
タービン建屋の高濃度滞留水を2号機タービン建屋から3号機タービン建屋へバケツリレー的に移送する作業は停止中のようです。
◆3号機
1号機と同じ4項目に加えて、
・3号機タービン建屋→集中廃棄物処理施設(高温焼却炉建屋)へ高濃度滞留水を移送中(平成26年1月24日午後2時37分~)
バケツリレーの後半部分は動き続けているようです。
◆4号機
・原子炉内に燃料なし(使用済燃料プールに保管中)
・使用済燃料プールから共用プールへ燃料移動中
・使用済燃料プール循環冷却系運転中
◆5号機
・冷温停止中
・使用済燃料プール冷却浄化系運転中
◆6号機
・冷温停止中(燃料は全て使用済燃料プールに保管中)
・使用済燃料プール冷却浄化系運転中
★ 2号機と5号機については上記特記事項に該当する「新規事項」があるわけですが、ここでは触れられていませんでした。(「別記」の一言でもいいので、新規事項として触れてほしいと感じました)
共用プール・水処理設備および貯蔵設備の状況
新規事項なし。
◆共用プール
・使用済燃料プール冷却浄化系運転中
◆水処理設備および貯蔵設備の状況
・セシウム吸着装置停止中
・第二セシウム吸着装置(サリー)運転中
・淡水化装置は水バランスをみて断続運転中
・多核種除去設備(ALPS)ホット試験中
H4エリアタンクおよび周辺排水路の状況
引き続きタンクの監視と、タンク周辺のサンプリングを実施していると記載。新規事項としてパトロール結果とサンプリング実績が示された。
<最新のパトロール結果>
平成26年2月19日のパトロールにおいて新たな高線量当量率箇所(β+γ線(70μm線量当量率))は確認されていない。また、堰床部に雨水が溜まった箇所については、雨水による遮へい効果により引き続き線量当量率は低い状態となっている。また、タンク上部天板部からの漏えいが確認されたH6タンクエリア以外のタンクエリアについては、目視点検によりタンク全数に漏えい等がないこと(漏えい確認ができない堰内溜まり水内を除く)、汚染水タンク水位計による常時監視(警報監視)においても異常がないことを確認。
<最新のサンプリング実績>
H4エリアタンク周辺のE-9の全ベータの値(2月19日採取:6,100Bq/L)において、前回の測定結果(2月17日採取:500Bq/L)と比較して10倍を超過していることを確認。
<地下水観測孔[E-9]の分析結果(2月19日採取分)>
・全ベータ: 6,100 Bq/L
<地下水観測孔[E-9]の分析結果(2月17日採取分)>
・全ベータ: 500 Bq/L
(参考)【これまでの最高値】
<地下水観測孔[E-9]の分析結果(平成25年12月27日採取分)>
・全ベータ: 730 Bq/L
原因としては、2月15日の大雨で地下水が上昇するとともに、E-9付近は現在汚染土壌回収のため掘削作業中であり、周囲の汚染が流れ込み易い状況にあったものと想定。
その他の分析結果については、前回採取した測定結果と比較して大きな変動は確認されていない。
地下水観測孔[E-9]の分析結果の推移は以下のようになっています。
2月14日採取:17Bq/L
2月17日採取:500Bq/L
2月19日採取:6,100 Bq/L
★ おそらく現場では「安全側に立った」論考や対策が行われているものと信じますので、上記のような想定ではない見解が日報に反映されることを期待したいと考えます。
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