看護師不足報道から見る「原発事故さえなければ」

iRyota25

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2月11日にFNNローカルとしてYoutubeにアップされたニュースです。南相馬市での、医療スタッフ不足について伝えていました。

南相馬市の医師・看護師不足の現状を取材しました。(福島14/02/11)

YouTube

ニュースのナレーションで伝えられているのが、こどもと子育て世代の人口減少です。

南相馬市の人口
6万3999人
(今年1月1日時点)

年代別
0 歳 ~ 4歳 3002人 → 991人
30歳~34歳 4204人 → 2063人

震災直後から、南相馬市では医師らから人口減少についての危機感が発信され続けてきました。人口が減るということは医療機関にやってくる人の数も減るということです。受診者数の減少は医療機関の運営・経営に直結することなので、個人経営の医院や診療所には廃業や休業を余儀なくされるところが少なくありませんでした。

しかし、町の医療機関の減少は、そこで住み続けよう、あるいは一旦は地域外に避難したが戻りたいという人たちにとって、大きなマイナス要因となります。

とくに、ニュースでも触れられていた小児科や産科は、若い世代の帰還を大きく左右する要因にもなっています。

医療スタッフが戻れない環境

ニュースでは、はっきりと明示はされていませんでしたが、もうひとつの側面があります。それは医療スタッフが戻れないから医療機関が立ち行かないという現状です。

ニュースが伝えたように、こども世代の人口が減れば小児科にかかる受診者も減り、病院経営は苦しくなります。

しかし同時に、ニュース内で子育て世代として紹介されていた30歳~34歳の世代、実際にはもう少し幅が広いと思いますが、看護師や医師、薬剤師、理学療法士、放射線技師、言語療法士などなど様々な専門分野の医療スタッフにとっても、当然のことながらその年代は子育ての時期にあたるのです。

自分のこどもを育てている時に、あるいは将来的にこどもを生み育てようと考えている時に、その土地を選択するかどうか。それは、それぞれの家族・家庭の判断によるものです。誰かが強制できるものではありません。

医師や看護師など医療スタッフが少ないから帰還が進まない、と一面的にとらえることはできないと考えます。

移住するかとどまるか。そこにある苦悩

人口が減っていくことでコミュニティが崩壊し、さらに人口が減っていく。そのことに対して憤りに近い感覚で「風評」という人がいます。

他方、家族と引き離されて福島から避難し、新たな場所で生活の基盤を築こうとしている人たちもいます。

ぼくには、そのどちらにも友だちがいます。話を聞くたびに苦しくなります。

南相馬の病院に戻ったり、あるいは外から移住して、地域医療を支えようとしている人たちの行動はとても貴いと思います。しかし、だからといって、自分のこどもを守るために避難した人たちもまた、二重三重の苦しい思いもありながら、そう決断されたのだと思います。

この問題に答えはあるのでしょうか。誰かが強制できることではありません。国や行政が帰還を促しているからといって、それが正解だなんて誰にも言えるはずありません。

忘れてほしくない「原発事故さえなければ」

福島の子育て世代の方がたと話していて、必ず思い出される言葉があります。それは、事故を起こした原発の近くにずっと住まれてきて、今は県外の避難先で生活を再建しようとしている方の言葉です。

「マブダチっていうのかな。ほんとにね、小さい頃からずっと同じクラスで、いつも一緒で、気が合うし、ほんとマブダチっていうしかない関係だったんだけど、彼女は福島に残ってるの。で、電話で話したりすると、どうして帰ってこないのって言われる。理解できないって。でも、私にしてみれば、帰りたくても帰れないんだけどね。ずっと仲良しだったのに、そのことについてだけは、意見が真逆なの。それが辛いんだ」

帰れるのか、帰れないのか。その問題に信頼がおける答えが存在しない状態のまま、住民の判断にゆだねられている。さらに補償金などの問題が話を複雑にする。

意見が真逆になった親友達の間でも、間違いなく同意できる共通項。

それは、原発の事故さえなければね、ということ。

共通項。行った人、行けなかった人。

原発事故を起こした事業会社は、30年~40年で廃炉という工程表を公表しています。しかしその前提は、今なおできてもいないロボットが活躍することを織り込んだものです。人間が入って作業できないエリアがたくさんあるのですから、ロボットに活躍してもらうしかありません。しかし、その肝心のロボットはできていません(一部稼働しているものはあります。納入されたまま倉庫で眠っているものも多いと聞きます。少なくとも人間の代わりに、構内のガレキを撤去しつつ格納容器の穴が開いたところまでたどり着き、その穴を修繕するといったロボットはまだ存在しません)。

できてもいないロボットを前提に組まれた工程表が廃炉まで30年~40年なのです。ロボットができれば期間が5年減、もっと頑張れば半減なんてことはありえないのです。それは、工程表のいわゆるエンドステート、つまりどんな状況を廃炉完了と見るかすら現時点で明らかにされていないことからも明白です。着地点をどんな状態とするという考えからして定まっていない。さらに、現在存在しない技術を見込んで計画が描かれている。ほとんどSFです。しかし、それでも廃炉は達成しなければならない。きわめて危うい前提の上に立っていようが、何としても絶対に。

さらにもうひとつ、廃炉すなわち放射線量が低減されるという誤解があります。廃炉は放射能を「廃する」のではありません。廃炉に至った原発施設の中にも放射能は存在し続けます。半減期を重ねて放射性物質そのものが核変換してしていってもらうよりほかに、現時点では放射線を減ずる方策はないのです。

これは「除染」という言葉とその作業の結果として突きつけられた現実(除染は放射能を除去するのではなく、放射能のある場所を移すだけ。しかも周辺の環境によっては除染で一時的に線量が下がっても、再び線量が上がることがままある)と同じです。もはや言葉に惑わされている時ではないのです。

なぜ戻れない人がいるのか。

人間を大切にする。人間を真ん中において考える。人間とは、事故が起きるまでその土地に暮らしてきた人たちです。原発の事業所を含め、その地域の職場で働いて生計を立ててきた家族の方がたです。原発事故で将来が壊されてしまった人たちのことを考えましょう。そして、原発事故の本当の意味での収束のために、事故後の原発構内で「犠牲的精神」で働いている人たちのことを考えましょう。まずは、そんな当たり前のことを取り戻しましょうーーそう思います。

もうひとつ、これは老婆心というほかないのですが、問題の多い高速増殖炉もんじゅを「核種変換」に使うという報道がなされています。

毒性の大きな放射性物質を元素ごと別のものにしてしまおうという、まさに錬金術的な研究課題です。たとえば半減期の長い放射性物質に中性子などを衝突させて核分裂を促し、より半減期の短い物質に変えてしまおうという研究です。

主要なものでも20~200種もある原子炉内の核種(セシウムとかストロンチウムとかコバルトとか)を選り分ける技術自体ほぼまったくの手つかずですし、核種変換を行った先に生成される放射性物質の種類や割合についても、ほとんど理論上の確率として語られるものでしかありません。

ロボット方面の虚妄は、電力事業会社がそれほど乗り気でない状況から、世論喚起に利用される可能性は高くないかもしれませんが、こちらの核種変換事業については、もんじゅ再稼働と合わせて今後の成り行きが懸念されます。とりあえず、覚えておいていただきたいのです。いま現時点では老婆心として。

危ないかどうか材料がなさ過ぎるから不安になる

自分のすぐ近くにも医療従事者として働いている人たちがいます。いろんな人に福島のこと話して、「短期でもいいから行ってみたら」と勧めはします。でも「行けよ!」とは言えません。言えない理由は上述のとおり。

はっきり言って、信頼できないからなんだね。
東京電力の中にもきっと、出すかどうか悩んだりするデータってあるんじゃないかと思います。もちろん顧客情報とか人事考課とか本質的に難しいものまで出せとは言わないですが、原発と原発事故に関しては全部公開してはどうでしょうか。
たとえばロボットに関しても、実は震災直後から日本中の研究者から申し出があって、実際に何十種類も納入されているのに使われていなかったりすると聞いています。情報を公開して、事故原発のどこでどんなロボットが必要だという要求値を公開してくれたら、これまで以上にたくさんのアイデアやロボットが集まると思うのですが。

東京電力の工程表を見ると、ここ10年間が極めて重要なフェーズだとよくわかります。これをクリアできるかどうかで、最終的なゴールの時期が大きく変わってくる。30年なのか40年なのか100年なのか、さらにもっとずっと先なのか。

信用が薄らいだ「見込み」ではない、根拠ある部分を示すことで、地域の人たちに現時点での正しい情報を伝えて欲しいのです。

「信じられる情報がない」とみんなが言います。これは自分の知っている福島の人たち全員に共通する言葉です。「低線量被曝の影響がどうだか分からない。でも自分はこの町を震災前よりもっといい町にするんだと思ってやってる」。いわきに暮らす友人は言います。「ふる里を離れるのが辛くないはずないでしょ。でもね、こども達の将来を考えると、いまはどうしても戻れないの」という南相馬の人の言葉を、事故を起こした原発のみならず、全国の原発の話題に接するたびに思い出します。

帰った人、帰れない人、ふる里再生のためにできるだけ多くの人に帰って欲しいと願っている人たち、こども達の将来を考えて戻らないことを決断した人たちーー。

ほんとはね、ほぼ全員、医師や看護師、薬剤師など医療スタッフも含め100%近くの人たちが帰りたいんだと思います。でもそれができない。帰った人、暮らし続けている人にしてみても解消されないわだかまりが、事故の直後からずっと現在にいたるまで続いている。

「言い繕いはもういらない」という、たくさんの声に答えることが求められています。

文●井上良太

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