自由民主党の石破茂幹事長のブログをめぐる問題の続報です。
追記-2(2013年12月4日)
震災から1000日目を迎える12月4日も、石破発言に関連する記事が並んだ。特定秘密保護法案は、12月3日の参議院国家安全特別委員会の理事会で、4日に安倍首相出席の上で質疑を行い、その後地方公聴会を開催することを与党の賛成多数で決めた。与党は5日には委員会採決、会期末の6日に本会議で可決成立させる方針とされる。
岩手日報「論説」の卓見
岩手日報の論説(2013.12.3)はこんなショッキングな書き出しだった。
盛岡市中心部では、特定秘密保護法案や環太平洋連携協定(TPP)参加に反対する「テロ」が相次いだ-。自民党の石破茂幹事長の認識に従えば、こんな表現になる。
記事は続けて、特定秘密保護法が施行されれた後、一般市民の発言が取り締まりの対象となる危険について述べる。
自身のブログで、こうした活動を「単なる絶叫戦術は、テロ行為とその本質においてあまり変わらない」と批判した。デモをテロになぞらえた部分は撤回したが、まごうことなき本音だろう。
弁明が振るっている。「テロ」とした部分は「(デモがテロの)全ての要件を具備するわけではないので」撤回するという。特定秘密保護法案が成立すれば、早速「要件」を整えてデモを取り締まるのではないかと疑ってしまう。
記事はさらに問題の核心を衝く。核心とは、法案に反対して国会周辺で上げられている声は、思想的に傾倒した特殊な人たちによるものではないと指摘したことだ。
石破氏のブログで、特に気になるのは「左右どのような主張であっても」との部分。特定秘密保護法案の不備を憂える反対運動も、あるいは東京電力福島第1原発事故を受け、国会周辺をはじめ全国各地で繰り広げられている反原発運動も、石破氏には政治的イデオロギーに根付く動きとしか映らないのだろう。
与党最高幹部が、近視眼的にしか世論の動向を読めないことに、怒りよりむなしさが先に立つ。これは断じて「失言」ではない。巨大与党が共有する基本姿勢の問題だ。
特定秘密保護法は民主主義をゆるがす悪法だと指摘する人が多くいる。しかし、その一方には、あらゆる政治的なものから距離を置いていたいと感じている人たちもたくさんいる。「主義」とか「イデオロギー」というラベルを見ただけで、自分には関係ないと離れていってしまう人たち。これまでふつうに暮らしてきた、大多数のふつうの日本人といってもいい。
「アカ」であれ「右翼」であれ、イデオロギー系の人は「怖い」――。そんな印象を刷り込まれ、政治から距離を置く人が増えていけばいくほど、「お上」は「支配」を行使しやすくなる。
「デモをやっている人たちはあなたたちとは別の世界の人たちです。政府与党に任せておけば安心です」
石破さんはブログにこんなメッセージを込めていなかっただろうか?
ところが今回声を上げているのは、政治的な立場から反対している人たちよりも、ふつうの人たちの方が圧倒的に多い。政治的立場があるとすれば、それは「特定秘密保護法案に反対」という主義主張でしかない。プラカードには「民主主義を守れ!」と書かれていても、何かの主義を守ろうとしているのではなく、ふつうの人たちのふつうの生き方を守りたいと思っている。
ことはメディアにとっての取材しやすさとか、学者にとっての研究のための便宜といった矮小化された問題ではない。得体のしれない黒い影が突然近づいてきて、当たり前の平穏な日常に枷(かせ:物理的な制約)が課せられる恐怖に対して、ふつうの人たちが「No!」と拒絶の声をあげているのだ。(フランス語で恐怖はテルールという。テロの語源となった言葉だ)
参議院での強行採決という悪しき未来が迫る中、特定秘密保護法案に反対する人たちは声をふり絞る。新聞に記される言葉は、ふつうの日本人の声を鏡のように写しとる。
市町村議会、首長、学者、弁護士、NGO…広がる声明
信濃毎日新聞は長野県内の6市町村議会が、特定秘密保護法案に対する意見書を可決したと伝えている。特筆すべきは6市町村とも12月定例議会の採決日程を前倒しして可決したといことだ。
秘密保護法案 県内6市町村会、12月定例議会で意見書可決
12月04日(水)
参院で審議中の特定秘密保護法案について、県内市町村の12月定例議会で、6市町村議会が法案の内容や運用に懸念を示す意見書を可決したことが3日、分かった。上伊那郡箕輪町議会は「公務員のみならず一般国民までも処罰の対象となりうる」などとして廃案を求める意見書を賛成多数で可決。下伊那郡豊丘村議会は「国民の知る権利や言論の自由に対する侵害とあわせ、民主主義の根幹を破壊する重大な内容」とし、全会一致で制定しないよう求めた。他の4市村議会は慎重審議を求めている。
6市町村議会とも、6日の今国会会期末を見据え、参院の特別委や本会議採決の前に意思表示をするため、通常の採決日を前倒しして可決した。
衆議院の時は、福島県で地方公聴会が行われ、参加した7人の公述人全員から法案への反対や慎重審議を求める意見が出されたにも関わらず、法案は翌日強行採決された。
長野県の地方議会による意見書可決は、議会人は住民の生活を守る者であるという精神によるものだろう。地方の不信感は原発事故を経験した福島県だけではない。
山梨日日新聞は山梨県内27市町村長と横内正明知事にアンケートを実施した結果、18首長が慎重な審議をすべきとしたと伝えた。
2013年12月04日(水)
秘密保護法案 県内の首長は慎重審議派が大勢
6日の国会会期末に向けて審議の行方が注目される特定秘密保護法案について、山梨日日新聞が県内の27市町村長と横内正明知事にアンケートを実施したところ、18首長が今国会にこだわらず慎重に審議すべきだとの考えを示した。今国会での成立を求めるのは2人だけだった。
法案への賛否は、賛成4、反対3、どちらとも言えない19だったという。地方行政を預かる政治家ですら多くが態度を決めかねている。国会での審議が煮詰まっていないことを浮き彫りにするニュースだ。
共同通信は、学者や弁護士、非政府組織(NGO)が相次いで記者会見し、特定秘密保護法案への反対を表明したと伝えた。ノーベル物理学賞受賞者・益川敏英博士らによる「特定秘密保護法案に反対する学者の会」は賛同者が2000人を超えたという。
スパイ防止法にもあった同様の条文
12月2日の掲載だが、東京新聞の「私説・論説室から」は、特定秘密保護法案が内包する危なさをこう表現している。「人権を脅かす危なっかしい法律」と。
【私説・論説室から】祖父譲りの秘密保護法案
2013年12月2日
「この法律の適用に当たっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず…」
特定秘密保護法案には、こんな条文がある。基本的人権は憲法で保障されているので、当たり前の事柄だ。破壊活動防止法にも、同趣旨の条文がある。一九八〇年代の「スパイ防止法案」には、全く同じ表現の条文が掲げられていた。
つまり、人権を脅かす危なっかしい法律には、このような文言を差し挟むのが、官僚の常なのだろう。
記事には次のような指摘もある。
取材者ばかりか、米軍基地の反対運動や反原発運動などにかかわる国民にも無縁でない。公安当局の監視対象になりうるからだ。
国民主権でありながら、その国民を公安当局(行政)が監視対象とする。場合によっては拘束し、10年の懲役刑を科すこともできる。問題なのは、そうした行政による権力行使の根拠となる「秘密」を指定するのも行政であり、何が指定されているのかも指定の理由も「秘密」の名のもと明らかにされないこと。たいへん大袈裟な表現をするならば「生殺与奪の権」を行政が手にするということだ。そんな法律が国会で多数を占める与党を中心に制定されようとしているのだ。
行政が有する権力は国民があずけているものだ。しかもそれは白紙で委任しているものではない。
確認したいのはこのこと。
重ねて問いたい。石破幹事長はもちろん法案を通そうとしている国会議員の全員に。
「本来あるべき民主主義」ってどんなもの?
●TEXT:井上良太
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