東北の友人たちが言うことには。その13「仮設を出たら自分たちの問題」

iRyota25

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東北の港町の、仮設商店街の文具店にて。

そこはたしかに文具店なのだけれど、スペースの半分くらいは雑誌や単行本が置かれていて、文具店兼書店といった感じだった。

文具と本が置かれているとなれば、学校帰りの少年少女がお客さんとしてやってくるのかな、と思ってレジのところで本を読んでいたお店の奥さんに話しかけたが、

「ほら、小学校も中学校も離れているから。本は置いているけど、小さいこどもが買いに来ることって、ほとんどないわね」とのこと。

言われてみれば、棚に並んだ本や雑誌の種類は、年齢層や性別で絞り込まれているという訳ではなくて、とっても平均的な品揃え。しかもスペースが限られているから、ここに来ればほしい本に出会えるといった雰囲気ではない。文具を並べているスペースもほんの数畳くらいだから、ノートとか筆記用具とかクリップとか、ごくごく一般的な品物が置かれているだけ。

勝手に盛り上がった気持ちがストンと落ちた。そもそも本屋さんも文具屋さんも品揃えが勝負なのだ。仮設店舗の限られたスペースで、本や文具を求める人たちの好奇心を満足させるというのは、土台難しい話なのかもしれない。

話し掛けてみたものの、言葉を継げなくなっているのを察してくれたのか、奥さんがお店のことをいろいろ教えてくれた。

「本来ウチは文具店なの。ここにお店を出す時に、本も少しだけど置くことにしたのよね。だって、この辺じゃちょっと雑誌を読みたいって思っても、クルマに乗って隣町のショッピングセンターまで行かなきゃ手に入らないでしょ」

「お客さんはね、仮設商店街に買い物にきた人がついでに寄ってくれる感じね。ウチは文具店って言ってもさ、もともとお店で商売するというより、お客さんのところへの配達が中心だったのね」

文具の配達っていうとネットで注文できるところが成長しているから、競争も大変なんじゃないですか?

「うーん、ウチはずっと取引してもらってきた会社や漁協に品物を届けてきたからね。でも、漁港も町も会社もお店も流されましたからね。仕事を再開するところも増えてはきているけど、やっぱり昔のようにはいかないわね」

せっかくお店を開いたわけですから、ここを拠点に少しずつ昔のような商売に戻していくっていう感じですか。

「だって、町があんな状態だもの。昔みたいに戻るのにどれだけ時間が掛かることか。それに、この仮設商店街の期限もあるでしょう。ここを出る時が判断のしどころだと思うのね」

仮設の期限がたとえ5年に延長されても、その時に町がどうなっているかが問題?

「私たち、そんなに若くないのよ。仮設商店街を出て、お店を再開するとしても、お店を出すためのお金をどうにかしなければならないでしょう。借金をしたら返していかなければならないし。そうすると、自分たちの年齢とかこの先の時間についても考えていかないと、事業計画も何も立てられないの。そうね、10年先どうなるかが将来の事業を考える上での重要なラインになるかしらね」

津波被害に遭った町は、やっとかさ上げがスタートしたばかり。土地を作り直して、区画を整備して、その上に町をつくって。町の復活へのタイムテーブルはまだ先が見えない。町の未来がどんな姿になるのか、それが見えてこなければ、その町で活動するお店の事業計画も立てられない。

「でもね、次は自分たちの問題。ここまでたくさんの人のお世話になって来たけど、仮設商店街を出た後のことは、自分たちのことだから」

奥さんの「私たちはそう思ってるの」という一言がとても力強かった。

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文●井上良太

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