地震や津波の被害を忘れないために「津波高の謎」

iRyota25

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津波石の記事で紹介した八重山地震の津波の高さ85.4mについてのおぼえ書きです。

80mを超える津波高の信憑性

津波高の根拠となっているのは琉球政庁に残された「大波之時各村之形行書」(おおなみのときのかくそんのなりゆきしょ)という文書です。

明和大津波遭難者慰霊之塔の碑文には、その文書からの引用として「潮揚高弐拾八丈(84.8m)あるいは弐拾丈(60.6m)あるいは弐拾五六丈(75.8~78.8m)あるいは弐参(6.1~9.1m)」と記されています。(碑文の原文はすべて漢数字。「あるいは」は「或」と表記)

84mという記載だけなら、誇張した表現という考えもできるかもしれません。でも、28丈とか20丈と数字を言い切るばかりでなく、25~6丈とか2~3丈と幅を持たせた書き方をしているところに、記録した人の人柄のようなものを感じませんか。幅を持たせた数字があるということが、かえって言い切った数字の信憑性を高めているように感じられるのです。

東日本大震災の津波高

東日本大震災でも、驚くほどの高さの津波が各地を襲いました。しかし、どうしてあれほど巨大な津波が発生したか、理由はまだよく分かっていないそうです。

グラフは釜石市から太平洋の底に設置された海底ケーブル式の水圧計がとらえた津波発生時の水圧の変化です。

(出典)東京大学地震研究所HP/釜石沖海底ケーブル式地震・津波観測システムは、津波発生時の海底や海面の変動を明らかにするために、東京大学地震研究所と東北大学地震・噴火予知研究観測センターが設置した観測システム
(出典)東京大学地震研究所HP/釜石沖海底ケーブル式地震・津波観測システムは、津波発生時の海底や海面の変動を明らかにするために、東京大学地震研究所と東北大学地震・噴火予知研究観測センターが設置した観測システム

海底水圧計は、海溝側のTM1が陸から約76kmの水深約1600mに設置され、陸側のTM2は約47km、水深約1000mの海底に設置されていました。

グラフの中の説明にあるように、海溝側のTM1は14時46分頃に本震の揺れを記録しはじめ、直後から海面が上昇(水圧の増加から検知)していきます。約2mの海面上昇に続いて、発震から約11分後にさらに約3mの急激な海面上昇を記録。陸側のTM2も、約4分遅れでよく似た波形の海面上昇を記録しています。

発震直後に始まる海面上昇は、津波によるものとして理解しやすいものだということです。しかし、11分後に始まる急激な海面上昇が地震や津波の研究者の間で謎だとされています。

地震の揺れそのものが、大きく3つのピークを持つことから、それぞれの津波が干渉することで高さが増したという考え方もできるでしょう。海溝付近に新たな海底断層が発見されたことから、地震の際に陸側プレートの先端部が滑り過ぎたことで(オーバーシュート)、グラフにスパイクが立つような波形が現れたと解釈する人たちもいます。地震によるプレートの動きだけではなく、海底で起きた地滑りによって津波が高くなったと説明する人たちもいます。

最大遡上高で約40mという、想像を絶する高さになった東日本大震災の津波ですが、成因については研究者の間でのコンセンサスもとれていないのが実情なのです。

80m超という高さ

それでもやはり高さ80mを超える津波は想像を絶しています。超高層ビルの先駆けとされる霞が関ビル(156m)が半分以上浸かってしまうほどの高さです。フィクションとの比較で恐縮ですがウルトラマン(40m)や初代ゴジラ(50m)よりもはるかに大きいのです。

想像できない高さだからというのも一因だと思いますが、八重山地震の津波高については、幾人かの研究者がシミュレーションを行って検証しています。

再検証の結果として導き出された数字は、もっとも津波が高かった白保集落で20m~35mというものです。

白保集落をはじめとして、津波が高かった場所では「全壊」と記録されるほどの被害が生じました。たまたま高台にいた人以外は助からなかったところも多いといいます。しかし、その被害を考えた時、少し疑問に思ってしまうのです。

20mという津波の高さは、東日本大震災で宮城県女川町を襲った津波に匹敵するものです。「大波之時各村之形行書」に記された一番低い数字2~3丈(6.1~9.1m)は、いわき市や石巻市、気仙沼市など大きな被害が発生した地域での津波高に相当します。

そう考えると、80mの津波は想像することもできない大きさです。ただただ恐ろしいものです。

しかし、忘れてはならないのは、大きな数字に惑わされてはならないということ。

2~3丈はおろか1丈(約3m)の津波でも、生存の可能性がほとんどないのです。

ウルトラマンよりもゴジラの身長よりも、とにかく高いところへ。

東日本大震災の後、地震学者の間では「既往最大」という言葉が使われています。「これまでの歴史の中で最大級の被害に備える」という考え方です。「身を守るには歴史に学べ」と科学者が反省を込めて語り始めているのです。

科学的に証明されている既往最大は約40mということになるのでしょう。でも、過去の津波高さを推理する条件が変われば、もしかしたら80mだってないとは言い切れないかもしれません。

ただ、津波を経験した人の中には、
そんなふうに、数字をあれこれすることに疑問の声を強くする人がいます。たとえば、筆者が敬愛する女川のKさんはこう言います。

「地震が来たらとにかく高いところ、海から遠いところへすぐに逃げろ。ここまで逃げたら大丈夫なんて考えは捨てることだ」

想定外に大きな津波に襲われても、さらに高いところに逃げ上がって行けるような場所に避難することが大切というのです。

「どの高さまで逃げたら大丈夫、という数字などねえ」

あの日、Kさんは海岸沿いをクルマで走っていた時に地震に見舞われ、揺れがおさまるとすぐに、いまは使う人のほとんどない海岸道路の旧道に走り、一番高いところにクルマを置き、そこからさらに藪をかきわけて山を登ったそうです。

「クルマを置いたところで30m以上あったっけな。でも俺は、さらに山の中に逃げたから、実は津波そのものを見てねえんだ」

人間には分からないことがたくさんあります。40mの津波があり得ないなど誰にもいえません。80mの津波だって同じでしょう。地震が起こるメカニズムも、津波が高くなる理由もよく分かっていないのですから。

地震が来たら海から離れる。できるだけ高いところに逃げる。
霞が関ビルの半分の高さ、ウルトラマンやゴジラの身長より高い場所。
でも、それとて絶対安全とは誰にもいえない――。

忘れないでください。

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●TEXT+PHOTO:井上良太(株式会社ジェーピーツーワン)

最終更新:

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  • H

    habihabi64

    つなみの高さについてイメージができていなかったのですが、具体的にご説明いただき色々と想像ができました。高さだけではなく、どこにいても大丈夫だろうと過信せずとにかくより高いところへ避難するようにします。