布でつくられた不思議なイキモノたちが天井から吊るされるギャラリーの中央には、特製の大きなこたつがどーんと置かれています。アートギャラリーにこたつという組み合わせが、まったくミスマッチに感じられないのが、この展覧会のすごいところ。
2月1日のオープニングパーティで、まるで子どもみたいに目を輝かせる大人たちの表情は、こちらの記事でご紹介したとおりです。その場には本物の子どもたちも来ていました。
彼ら彼女たちが何をしていたかというと、もちろん不思議なイキモノたちを見ながら、「これ何?」と質問を連発したり、展示で余ったテグス(ナイロン糸)をライトにかざして「きれいねー」と繰り返したり、こたつから出てきて靴をはいてステージを一周してからまた靴を脱いでこたつに入ってというオリジナル遊びを発明したり。子どもらしさを炸裂させていたわけです。
そんな中、こたつが据えられたステージのわきに腰掛けて、一心に絵を描き続けるお兄ちゃんの姿がありました。
小さな子どもたちの遊び相手もつとめていた彼ですが、そのうちスケッチブックの世界にどんどん没頭していって、大人たちが笑おうと、小さな後輩たちが走り回ろうと、まったく意に介さない様子。ひたすら紙の上に鉛筆を走らせ続けます。
彼の絵を見せてもらってちょっとびっくり。左手に持った消しゴムを、ていねいに細密に描いていたのです。小さくなるまで大切に使った消しゴムを、ナイフで削った鉛筆で描く。消しゴムのカバーがくたびれた感じもよく描けています。
ここまで入っちゃうと、もう周りのことなんて関係ないでしょう。大人たちが談笑するこたつのそばで、ひとり黙々と描き続けます。
この光景、どこか懐かしいもののように思えたのです。家にお客さんがやってきて、こたつは大人たちが占拠。一応は「こたつに入りなよ」と声を掛けられるけど、ぼそぼそっと「いい」と応えて、といっていじけているわけじゃなく、大人たちが騒いでるそばで何かに没頭している子どもの姿。昭和40年代くらいにありそうな雰囲気?
なんてちょっと特殊すぎる場面かな。もっとシンプルに、アートな空間でアートに没頭する小学5年生とか言った方が分かりやすいかもしれません。ともあれ、こたつのあるアート空間で、彼はアートしていたのです。
日和アートセンターの立石沙織さんがこんなことを話していたのを思い出しました。
「ここに来た人が、自分なりの時間の過ごし方を見つけてくれたらな」
小学5年生の彼も、就学前の子どもたちも、もちろんこたつに入っている大人の人たちも、ちゃんと見つけたみたいです。
不思議な布のイキモノたちに囲まれた非日常の世界に、きわめて日常的なアイテムであるこたつが置かれることで見たこともない新しい世界が現出している。。。なんて理屈っぽく説明するまでもなく、ここは特別な場所のようです。
楽しい。寛げる。ぽかぽかあったかい。何かに没頭することだってできる。もちろんアートがここにある。
3月10日までの期間限定で石巻に出現する異次元空間。とくべつな石巻を日和アートセンターで、ぜひ!
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●TEXT+PHOTO:井上良太(株式会社ジェーピーツーワン)
最終更新:
habihabi64
彼の絵から将来を感じますね。集中してデッサン中。消しゴムの使い方に物を大切にする気持ちがとてもよく感じられます。使い終わらないで新しいものをせがむ子供や、無駄に消費する大人も多い中、あらためてこの消しゴムから大切なことを教わった気がします。
ockn1006
おおー、この記事を読んで今さら・・・ですが、こたつって良いですね!
皆が近くに寄って暖を取るなんて、実はあまりない機会だと思いました。
また、子供さんが大人そっちのけで集中しているのも微笑ましいです。
pamapama
かわいーですねー。
この集中力と完成度、見習わなければ(笑)