あたらしい石巻・復興支援リポート「ちばふみ枝展 くすんだベール」

iRyota25

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石巻出身のちばふみ枝さんここでの作家活動が「しっくりしているんです」
石巻出身のちばふみ枝さんここでの作家活動が「しっくりしているんです」

ちばふみ枝さんは石巻出身の現代アート作家。MDFという人工の木材を素材に、可愛くて、でも奥が深い彫刻作品をつくっている。

彫刻と言っても、ちばさんがつくる作品はレリーフ(浮き彫り)だ。ふつうなら表面を見るだけだが、ちばさんの作品は裏側からも楽しめる。レリーフだけど壁に飾って展示するのではなく、ギャラリーの中の空間そのものを仕切るように設置される。裏も表もあるレリーフが複数組み合わされたスペースは、ここでしか体験できない独特の空気感が醸し出されることになる。

今回の展覧会は、石巻市アイトピア通りにある日和アートセンターの「アーティスト・イン・レジデンス」として開催されるもの。展覧会に先立ちアーティストが実際に石巻に住み込んで、作品の制作過程から公開するというスペシャルな展覧会だ。

ちなみに日和アートセンターのギャラリーは町の中心街に位置し、明るいガラス張りの入口からは中の様子がよく見える。町ゆく人が気軽にギャラリーに入ってきて、「何を作っているの?」「どんな作品になるの?」とアーティストに気軽に声をかけられる雰囲気が魅力的だ。

そんな日和アートセンターに、制作追い込み中のちばさんを訪ねた。

やはり最初の質問は、「どんな作品になるんですか?」

ちばさんは、素材の特徴から制作方法、制作過程、作品から感じてほしいことなどを順を追って詳しく説明してくれたけれど、ここは敢えて、きらりと光るキーワードを列記するにとどめておく。(実物は展覧会でお楽しみください)

・こっちとあっちで変わる意識

・行ったっきりではなくて、戻ってこれること

・造られた空想ではなく、地続きの現実として

・イメージが湧いてくる世界

――どうです? 行って見てみたくなったでしょ。

制作中のちばさんの周りに“ ご近所 ”の子どもたちが集まってくる
制作中のちばさんの周りに“ ご近所 ”の子どもたちが集まってくる
作品はこんなテイストになるはずです
作品はこんなテイストになるはずです
「・・・・」
「・・・・」
人工素材のMDFは天然木と彫る感覚が違うとか。
人工素材のMDFは天然木と彫る感覚が違うとか。
彫り上げた後、下塗りして、さらに彩色。(実はちょっと焦ってます)
彫り上げた後、下塗りして、さらに彩色。(実はちょっと焦ってます)

ちばさんは美術大学を修了後、首都圏を拠点に制作活動を続けてきた。そのままずっと美術作家として活動を続けて行くものだと考えていた。しかし震災で実家が被災する。

「実家が被災したということは大きなことで、片づけをはじめ、いろいろと優先させるべきことがあると思い、帰省を決めました。震災前と違った点は、作家活動が途絶えることに対しての不安があまりなくなり、むしろ、私はこの先ずっと作家活動を続けていくだろうから、一時作れない時期があっても問題ないと感じていたことです」

2011年の秋に石巻に戻ったちばさんは、父親の経営する会社で働きはじめる。そして2012年3月23日のオープン当日、日和アートセンターをおそるおそる訪ねてみた。

「びっくりしました」

石巻に現代美術のギャラリーができるなんて、震災前には考えることもできないことだった。しかも、日和アートセンターの立石沙織さんから展覧会出展の誘いまで受けた。

「やりたい。やれるだろうか…。でもやりたい!」

心は揺れた。結局、やりたいという気持ちの方が勝った。

公開制作とは言え、平日の作業は仕事が終わった後になる。遅くまでMDF素材に鑿を当て続ける日が続く。そんな制作の日々をちばさんは、

「しっくりしている」

と言う。東京にいても、やはり同じように作品を作り続けていただろう。でもいま作品に向かいあっている場所は生まれ故郷である石巻。どうしてこうなったんだろうと考えると不思議になる。石巻という地方都市で、現代アート作家である自分が活動していることが。しかも、そんな自分を「しっくりしている」と感じることが。

「ここで作家活動をしていると、町のたくさんの人たちと縁が結ばれていきます」

でも、特別に街づくりにかかわってきたことはないし、今後も積極的にかかわることはないだろうと思っている。ただ、いま感じている自然なかたちで作家活動を続けて行きたい。

「うまく言えないんですが…」

町っていうコトバ、漠然としているじゃないですか。町と関わるってどういうことだろうって考えるととても難しい。でも、この町でお店を開いている人と会って、買い物したりお話をしたり、立石さんのような人と一緒に時間を過ごしたりしていると、

「こういうことが町につながることだと思えるんです」

石巻という町で、作家活動を続けるちばふみ枝さん。

展覧会まであと数日という追い込み時期なのに、いろいろお話ししていただきありがとうございました。鑿を動かしながら、ときどき鑿の手を止めて、作品のこと、町のことを話してくれたちばさんの言葉に、こんなことを思いました。

町は変わって行く。「震災」という言葉を抜きにして、町とつながっていける人たちの力で、きっと石巻の町は変わって行くだろう―― そう思いました。

ちばふみ枝展「くすんだベール」

【公開アトリエ期間】2012年11月17日(土)~11月30日(金)

公開制作の時間帯:日曜日は終日。平日は18時から、土曜日は16時から制作開始。それ以外の時間帯は制作現場を見学することができます。

【展覧会期間】2012年12月1日(土)~12月24日(月・祝)

時間:11:00~19:00休館日:水・木曜日

会場:日和アートセンター
〒986-0822宮城県石巻市2丁目10-2
(TEL 0225-24-9780)

【Profile】
ちば ふみ枝 Fumie Chiba1981年石巻市生まれ。2006年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻彫刻コース修了。MDFを素材に彫ったレリーフで構成するインスタレーションや、パターンの反復作用を用いた作品を展開。主な展示に2010年「Kawaii賞」(西武渋谷店/東京)、2012年「團良子・ちばふみ枝展—バックトゥザフューチャー」(ギャラリーチフリグリ/仙台)などがある。

2012年11月25日取材

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●TEXT+PHOTO:井上良太

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