あたらしい石巻・体感リポート「ISHINOMAKI2.0」

iRyota25

公開:

2 なるほど
1,826 VIEW
0 コメント

 ▲「復興支援ベース」に戻る

[プロローグ]石巻の街なかを歩いていると、いろいろな場所で「石」のマークを目にする。建物の壁やガラス窓にステッカーのように張られていたり、街ゆく人が手にしているブックレットに描かれていたり、Tシャツに大きくデザインされていたり。しかも、石のマークの下には「2.0」と謎かけのような文字が記されている。どうも怪しい。石巻の街なかで、「石」マークの面々が何事かを企ていることだけは間違いなさそうだ。

石巻2.0の拠点は、かつて石巻が大いに賑わっていた頃の街の中心部に点在している。「石」マークのステッカーが貼られている場所は、すべて拠点といってもいいらしい。その中でも本丸といえそうな場所を街の人に教えてもらって訪ねてみた。

ガレージを改装したというオフィスのガラス戸の前には、ウッディなサインボードと「IRORI」と記された立て看板が置かれている。さらにガラス窓にも例の「石」のマークのほかに「石巻工房」、「IRORI」など複数のステッカー。「ん?」石巻2.0でありながら、工房であり、またIRORIでもあるとは。あたまの中にたくさんの「?」が充満していく。

やや重たい大きなガラスの引き戸を開けて中に入ると、すらっと長身の勝邦義さんという方が対応してくれた。勝さんは石巻2.0のスタッフなのだという。そこでいきなり質問。

「石巻2.0って、どんな活動をしているんですか?」

震災直後の泥かきボランティアがきっかけで、外からやってきた人たち、建築や広告関係、大学の研究者などが多かったのですが、そういった人たちと、300年続いた老舗旅館の14代目さんや石巻で街づくりに取り組んできた地元の人々がつながって、「石巻で何かおもしろいことをやろう」と始まったのが石巻2.0です。

地震と津波で大きな被害を受けた石巻ですが、震災前から地方都市特有の空洞化が進んで、街には閉塞感が漂っていました。そんな状況に危機感を抱いていた石巻の人たちと、外からやってきた人々が出会ったところから、活動が始まったのです。

「2.0」というネーミングには、以前よりバージョンアップするという決意と、誰もが参加できるオープンな場でありたいというねがいが込められています。

郊外型の大型店舗の進出によって、中心商店街にはシャッターを下ろしたままの店が増えていた。中には跡取りがいなくて閉店せざるをえない店もあった。かつて栄えた中心街だが “ 街としての役割 ” が失われつつあったのだという。震災前から「なんとかしなければ」という危機感はあった。しかし「わかっているけどできなかったという現実があったそうなのです」。

震災によって大きな被害を受けた町が立ち上がることは、ゼロからの再出発と表現されるけれど、震災前の問題を踏まえるとマイナスから街を新たにつくると言った方が正確かもしれない。

その辺りのことは、石巻2.0のホームページのトップに掲げられたメッセージからも読み取れる。

 石巻2.0とは

石巻は生まれ変わります。
3.11前の状態に戻すなんて考えない。
昨日より今日より、明日を良くしたい。
自由闊達な石巻人のDNAで、
全く新しい石巻にならなくてはいけない。
石巻2.0。私たちは新しい石巻を、
草の根的につくります。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

石巻2.0の活動は多彩だ。しかし勝さんはそれぞれの活動を「小さなアクション」と表現する。たとえば商店の1階を改造してバーにする。するとそこは人が集まる場所になる。つまり、「被災して使われなくなった建物がコンテンツになるんです。そんな仕組みを作っていくのが石巻2.0の活動です」。

石巻工房というプロジェクトがあります。何か市民のための場所を提供したいということで始まったプロジェクトですが、ただ場所を提供するだけではなく、建築やものづくりにかかわるデザイナーなどの関係者が集まって、市民のための手作りの工房になりました。そこへ行けば、ドリルやインパクトドライバーなど工具の使い方を教えてもらえる。職人さんを紹介してもらえる。安く手に入る材料もストックしている。そんな場所でオリジナルの家具やバッグをつくり、販売も行っています。

目指しているのは、「被災地」ではない「石巻の」ものづくり。プロジェクトは現在石巻2.0からスピンオフして、独立した体制で運営するようになっています。

そのほかに石巻2.0はどんなプロジェクトを手掛けているのだろうか。勝さんにいくつか紹介してもらった。

○石巻VOICE

震災後の石巻の人々の声を拾い上げたブックレット。土地の文化や歴史、思い描く未来などをテーマに石巻人が語るインタビュー集だ。地元のみならず全国に配布され、石巻への興味や関心を持ってもらうきっかけとなっている。

○復興民泊震災前から空き室になっていた場所をリノベーションして、滞在できる部屋に生まれ変わらせる活動。宿泊施設が乏しい被災後の石巻にあって、ボランティアや、観光など、さまざまな人がこの場所を利用。石巻に滞在しやすい環境をつくっている。

○まちキャンプ

文字通り、街なかの空き地をテントサイトに変身させた。街に泊まり、街を感じ、街を楽しむプロジェクト。

○2.0エクスカーション復興の現在形を深く知ってもらうため、石巻2.0メンバーと一緒に石巻のまちを歩くプログラム。街なかにとどまらず、グルメツアーや牡鹿半島をめぐるグリーンツアーも順次展開。

○CELEBRITY Project

石巻の女性たちにもっと元気になってもらうためのプロジェクト。東京などから一流シェフを招聘し、特別な一日を演出。

石巻2.0の活動はまだまだたくさんだ。しかも現在進行形で新たなプロジェクトが誕生している。石巻2.0の「いま」は、石巻2.0のウェブページで。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

さらに勝さんは語る。

 震災直後は泥かきばかりでしたが、今のニーズは違います。被災地に来て飲食や買い物でお金を落としてほしい、とよく言われますが単純にお金を落とすだけじゃない関わり方が求められていると思うんです。

たとえば石巻という場所の何かを、それぞれの人が発信していくだけでも動きが生まれるはず。2月に正式オープン予定の「巻.com(マキコム)」は、石巻に来て何をするかを考えるポータルサイトとでもいったものです。個人旅行でもマスのツーリズムでもなく、小さなホストとゲストの近しい関係をたくさんの人を巻き込みながら作れたらと思っています。

様々なプロジェクトを走らせていますが、石巻2.0が全体として何なのかと言えば、「人と人のつなぎ方をデザインするのが石巻2.0」だと私は考えています。

各プロジェクトを走らせる中で新たに見えてくるニーズは裸のもの、生のものです。そこには街のリアリティがあります。しかもニーズもプロジェクトの業態も、時間とともに変化していきます。

被災地と呼ばれる場所で求められているニーズはどんどん変化している。がれき撤去や泥かきのように目に見える支援活動は少なくなったが、だからといってニーズがなくなったわけではない。むしろ個別で多様なニーズはますます増えている。そんな被災地の「裸」のニーズに応えるには、外からレンガやブロックを持ってきて、空いたところにパズルのようにそのまま当てはめようとしても無理がある――。

勝さんの言葉にそんなことを考えた。

「私も外からやって来ましたが、街なかで活動していると石巻に関わることは楽しいと思えてくるんです」

楽しいと感じられるエッセンスを忘れることなく、勝さんは活動を続けていきたいという。勝さんと話していると、こちらまで楽しくなってきた。引き続き、次回はもっと勝さんのパーソナリティにも突っ込んだ話を聞いてみたいと、ひそかに企んでいる。

被災地では多くの団体が活動している。たとえば○○ボランティアセンターという名称なら、ボランティア活動の手配や連携を行う組織なんだと想像がつく。しかし「石巻2.0」。正直いって最初はどんな団体なのか想像もできなかった。IRORIのドアを開くまで、頭の中には「?」が充満していた。でも勝さんと話してすっきりした。

要するに、石巻が新しい石巻に生まれ変わるためのことなら、なんでも手掛けるのが石巻2.0。プロジェクトの事業性を重視する一本筋が通った考え方がバックボーンにあるから、人と人のつながりから多彩な事業が創造されていくのだろう。ちなみに、勝さんのお話を伺った「IRORI石巻」は誰もが利用できるビジネスカフェ。石巻工房および石巻2.0のインフォメーションセンターでもある。無線LAN、電源は無料で使え、おいしい挽きたてコーヒーも1日300円で飲み放題。石巻でぜひ立ち寄りたいスポットだ。

 ▲「復興支援ベース」に戻る
potaru.com

●TEXT+PHOTO:井上良太(株式会社ジェーピーツーワン)

最終更新:

コメント(0

あなたもコメントしてみませんか?

すでにアカウントをお持ちの方はログイン