（2012.11.07更新）

　八重山諸島の中でも、亜熱帯のジャングルに恵まれ多くの固有生物が暮らす西表島。「イリオモテヤマネコ」という言葉は西表島に行ったことが無くとも聞いたことがあるはずです。　イリオモテヤマネコは50～60cmの胴体に3～5kgの体重。イエネコよりもひと回り大きい、西表島固有の動物です。そのほか、イエネコと見分ける特徴としては、耳が丸い点、その耳の背面に虎耳状斑（白い帯の斑点）を持っている点、尻尾がやや太い点が挙げられます。また、これは意外と知らない人も多いのですが、面積289.28km²、周囲130.0kmの西表島に対して、生息数は100頭を少し上回るかどうか。意外と（？）少なく、絶滅危惧種として考えられています。

　僕も西表島に2か月半ほど住み込んでいた時期があります。たかが2ヵ月ですが、されど2ヵ月。長期ではありませんが、旅行と比べればかなり長い期間だったものですから、「どうだった？」なんてよく聞かれたりします。そんななかでも一番多い質問が「イリオモテヤマネコは見た？」というもの。おそらく島で出会える珍しい動物くらいのイメージがあるのだと思います。　僕もまた同じで、西表島を訪れた当初は、西表島の方々に同様の質問を繰り返しました。

　ところが、帰ってくる答えは島民Ａさん「長く住んでるけど見たことが無い。」

島民Ｂさん「20年住んでいて1回だけ・・・。」島民Ｃさん「よくわからなかったけど、30年ほど前に見たあれは多分ヤマネコだった気がする。」

　くらいのもの。そして、皆が揃って「まず会えないよ。期待しないくらいがちょうど良い。」

　なんて言うのです。たしかに西表島は島としては広く、バスで島を半周するまでに1時間以上かかります。余談ですが、東京・新宿区の面積が18.23㎢ですから、西表島は新宿区の面積のおよそ16倍！そんな面積の中から100数頭のイリオモテヤマネコに出会うのは至難の業と想像できます。　そして最後にひと言。

「まぁ見れるとしたら、事故に遭って死んでる姿だね。」　僕が西表島でよく聞いたのはそんなお話でした。

（2012.11.08更新）

　10月25日にイリオモテヤマネコの幼獣が車に轢かれて死ぬと言うニュースがありました。「ネコが車に轢かれて死ぬ」というニュース自体、イリオモテヤマネコ以外ではまず聴きませんが、それだけ希少だと言うことを表しているのでしょう。2012年では2件目だそうです。　猫と言えど、野性動物です。いわゆる“キャットフード”は、島の中から自分で探し出さなければなりません。また、えさを求めて動き回る時期もあれば、異性を求めて動き回る時期（発情期）もあります。総面積の90％はジャングルと言われる西表島ですが、人間が暮らす残りの10％のエリアに飛び出してくるのも当然のことなのです。

　一方、島は島で意外と交通量が多いもの。島の海側を半周するメインの道路が1本あるだけですが、道路沿いに集落が点在しているため、車の行き交いはそこそこに活発なのです。また、先に述べましたが、島を車で半周するだけでも1時間ほどかかります。特に島民にとって、馴れた道を毎度ゆったり走っていると、じれったくなるかも知れません。ただ、それは人間側の言い訳です。

　配慮すべき点は多々ありますが、島としての取り組みも随所に見られます。

　例えば、看板。イリオモテヤマネコが飛び出すことに注意を促すものです。観光客にとっては「あぁ、こんな看板があるんだ！」と、西表島に来たことを実感する看板かも知れません。看板を管理する西表野生生物保護センターの公式ブログによると、この看板はイリオモテヤマネコの出没情報に応じて、その都度移動させているそう。2ヵ月の滞在中も「よく見かける看板だな」くらいには思っていましたが、そんな心配りがあったとは。こういった取り組みも活かされて欲しいものです。　また、道路を車で走っているとゴウンゴウンと縦揺れする箇所がいくつかあります。なかなかの縦揺れでつい気になってしまうのですが、これも事故対策。車が通るたびに音がなることで、イリオモテヤマネコの警戒心を煽る目的があるのだと聞きました。

　とは言え、これだけの取り組みがあっても、事故をゼロにすることは至難の業です。その事故の件数ですが1978年から2011年までの33年間で合計54件（うち53件が死亡事故）。2012年の今年は2件起きているため、平均件数を上回ったことになります。　一番の理想は急に停まれるほどのスピードで走るほかありません。