皆さんは『なでしこジャパン』の下の世代、『ヤングなでしこ』の存在を知っていますか？U-20代表と呼ばれている20歳以下の若い選手達です。彼女達の最大の目標になっているのが二年に一度開かれるFIFA U-20女子ワールドカップです。

今回で6度目となるこの大会。2012年8月19日から日本で開催されています。世界6大陸から全16カ国が参加して計32試合が行われ、優勝に向けてし烈な争いを繰り広げています。今回は決勝トーナメントの準決勝、日本VSドイツの対戦レポートをお届けしたいと思います！

「予想以上に速くて強かった」試合後に猶本光の残したコメントに全てが集約されていました。0-3で完膚なきまで叩きのめされたヤングなでしこ。立ち上がりの20分で3失点を食らっては巻き返しようがありません。世界トップレベルのチーム力を誇るドイツを相手に一体何が起きたのでしょうか。開始直後からドイツはフルスロットルで中盤に強烈なプレッシャーを与えます。前半1分、左サイドで猶本がディフェンスに囲まれてボールを奪われると、マロジャンがドリブルで一気にゴール前に運んでDFの裏にスルーパスを通します。裏に飛び出したMFロイポルツがゴール左隅に蹴り込んでいきなりの先制ゴール！

続く前半13分、ゴール前に蹴られたロングパスをDF木下が目測を誤って後方にそらします。そのボールに反応したマロジャンがペナルティエリアに飛び出してループシュート。ボールはGK池田の頭を超えて2点目を献上します。更に前半19分、ドイツは右サイドでCKのチャンスを得ると、中央で完全にフリーになっていたロッツェンが豪快なヘディングシュートを決めてダメ押しの3点目を奪います。日本は『フィジカルコンタクト』という唯一のウイークポイントを突かれてしまいました。

ドイツの出足は恐ろしいほど速く、日本がこれまで対戦したチームと比べるとワンテンポ速いタイミングで寄せてくる為に、中盤でパスを繋ごうとしてもことごとくカットされてしまいます。「今までに体験したことのないスピード」と田中陽子が語るように、『気がついたら0-3で負けていた』という印象しか残りません。技術や戦術の問題ではなく、単純にフィジカルの差に驚いて浮き足立っている内に勝負を決められました。前半30分を過ぎてから、日本はフィジカルとスピードの差にようやく慣れてパスが繋がり始めます。それ以後、試合終了までほぼ互角の展開を見せていただけに悔いが残る試合内容です。予選リーグでドイツと同組に入っていたとすれば、2度目の対戦となる決勝トーナメントでは全く違う試合展開を見せていたと思われます。

早い時間帯の失点に動揺して『ヤングなでしこ』のディフェンスラインが自滅してしまうことは、予選のニュージーランド戦を見ても明らかでした。ロンドンオリンピックの『なでしこジャパン』は欧州の屈強な相手と対戦してもフィジカルの差を技術と経験と運動量でカバーし、チームのストロングポイントを最後まで出し切っています。今大会の『ヤングなでしこ』は『なでしこジャパン』に引けを取らない技術と個性を持っています。ドイツとのチーム力が圧倒的に開いていた訳ではなく、経験不足によるメンタルの弱さを露呈したに過ぎないと感じます。  

後半からシステムを大幅に変えた日本。ボランチの猶本が一つポジションを上げてトップ下に入り、西川明花と横山久美がワイドに開いてウイングハーフとなり、攻撃的MFの柴田華絵と田中陽子が中央にポジションを構えて攻撃の人数を増やしました。前線にフォワードを置かない4-1-1-4という変則的なフォーメーションに切り替えたことでドイツのディフェンスのマークは大きく乱れます。中央の柴田と田中陽子が最終ラインとボランチの間にスタートポジションを置き、バイタルエリアで一度ディフェンスの前から消えて、再びペナルティエリアに飛び出してくるのでドイツのDFはマークの混乱を極めます。

柴田と田中の動きにDFが引っ張られることで、その下の猶本がフリーでボールを持てるようになり、中央の3人がトライアングルを形成してパスが回り始めます。左サイドをオーバーラップした浜田遥がドリブルで切れ込んで中央に折り返し、逆サイドの西川がシュートを打ってGKが弾いたところに中央の柴田がゴールに詰めてシュートを狙う場面も見られ、ピッチを広く使ったダイナミックな攻撃が展開されるようになります。ドリブルでの揺さぶりに弱いドイツのDFは、テクニックとアジリティに優れた日本の個人技を止めることができません。

バイタルエリアで前を向いてボールを持ち始めた日本は、田中陽子と柴田華絵が縦横無尽にドリブルをしかけ、中央の猶本が面白いようにスルーパスを通して決定機を連発します。後半16分、柴田のドリブルシュートからあわやゴールというシーンも生まれ、この勢いを維持できれば2、3点取れそうな気配さえ感じさせました。  

自らの意思で0トップ4シャドーという新システムを編み出したヤングなでしこ。自慢のスピードとテクニックが最大限に引き出され、巧みなドリブル突破と創造的なパスワークでスペクタクルなサッカーを展開します。しかし後半16分、田中陽子に代えて道上彩花を投入したことで好転したリズムが寸断されます。前線にFWを置かないことでDFのマークをずらし、オフェンスが流動的に動き出すことでバイタルエリアに攻撃のスペースを生み出していましたが、道上をトップに張りつかせたことでターゲットを絞りやすくさせてしまいました。

トップで起点になろうとする道上にボールを預けても、マークの強いドイツのDFに潰されてポストプレーが機能せず、逆にボールを奪われてカウンターを受ける引き金になっていました。3点差を追っている局面で一発のフリーキックでゴールを奪える田中陽子をどうして下げてしまったのか？僅かな勝利の可能性さえも捨ててしまったように思えます。吉田監督は勝負を焦りすぎてゲームの流れを読み切れなかったのでしょうか。

準決勝の敗戦により、3位決定戦に回ったヤングなでしこ。対戦相手はナイジェリアに決まりました。ドイツ代表と同じく身体能力に優れたチームです。今回の敗戦を糧にして勝利を掴んで欲しいと思います！