皆さんは『なでしこジャパン』の下の世代、『ヤングなでしこ』の存在を知っていますか?U-20代表と呼ばれている20歳以下の若い選手達です。彼女達の最大の目標になっているのが二年に一度開かれるFIFA U-20女子ワールドカップです。今回で6度目となるこの大会。2012年8月19日から日本で開催されています。世界6大陸から全16カ国が参加して計32試合が行われ、優勝に向けてし烈な争いを繰り広げています。今回は予選グループリーグ第三戦、日本VSスイスの対戦レポートをお届けしたいと思います!
個人の突破でゴールを狙うが得点には結びつかず
予選グループリーグ2戦目を終えて日本の勝ち点は4。この試合、引き分け以上で決勝トーナメント進出が決まります。一方のスイスは2連敗で予選敗退が決定していますが、ワールドカップで勝ち点を奪うために強い気持ちでこの一戦に臨んできました。日本のシステムは4-2-3-1。1トップに道上、3枚の攻撃的MFは左に横山、中央に柴田、右に田中美南を配置。ボランチには体調不良の藤田のぞみに代わって田中陽子が入り、猶本光とのダブルボランチを組みました。
対するスイスのシステムは4-5-1。ディフェンスラインを引いてゴール前に守備のブロックを築き、5人のMFが中盤で激しいプレスをかけてボールを奪い取り、素早いカウンターから速攻を狙います。ゲーム序盤、技術に勝る日本は中盤からの速いパス回しで圧倒的にポゼッションをリード。中盤で人数をかけるスイスのゾーンプレスに対し、プレッシャーを上手くいなしながらゲームを組み立てます。
パス能力の高い田中陽子と猶本光がボランチに入ったことで、中盤でパスの出所が増えた日本。左右にパスを散らしながらサイドバックのオーバーラップを引き出し、前線に長い縦パスを入れて道上のポストプレーを生かそうと試みますが思うようにボールが繋がりません。サイドハーフの横山久美と田中美南が両サイドの起点となり、得意のドリブルからサイドを崩してシュートに持ち込みますが、DFに囲まれると潰されてしまい攻撃が単発に終わってしまいます。
田中陽子が必殺の両足フリーキックで2発!4-0の快勝!
流れを変えたのは田中陽子のフリーキック。前半30分、ペナルティーエリア左付近でFKを獲得するとキッカーは田中陽子。美しいフォームから右足で蹴り出されたボールは、壁の頭を難なく超えてゴール左隅に突き刺さります。驚いたのは2点目です。後半2分、ペナルティーエリア付近やや右でFKを獲得すると、キッカーはまたしても田中陽子。横山が右足で蹴ると見せてかけてフェイントすると、田中が素早く左足を振り抜いて速いボールをニアポストに蹴り込みます。
逆を突かれたGKをあざ笑うかのようにボールはゴール左隅に吸い込まれて2点目をゲット!角度からすると左足で狙うのが妥当ですが、田中陽子は右利きです。GKもまさか左足で蹴るとは予想しなかったでしょう。A代表のMF宮間あやのように両足でコーナーキックを蹴る選手はいますが、両足でフリーキックを狙える選手は記憶にありません。次戦でも左足で狙える角度からは積極的に蹴っていくべきだと思います。
これで完全に試合のペースを掴んだ日本。後半7分、右コーナーキックがファーポストに流れたところを西川明花が下がりながら胸でトラップ、振り向きざまに右足でグラウンダー気味のシュートを放つとゴール左隅に突き刺して3点目を奪います。後半から運動量が落ちたスイスは中盤でのプレッシングが機能せず、防戦一方の展開。後半39分、横山がドリブルで持ち上がると、3列目からペナルティエリア内に飛び出したフリーの猶本光にラストパス。ドリブルでGKをかわそうとした猶本は横から倒されてPKを獲得。このPKを猶本が自ら蹴ってゴール左隅に決めます。4-0の快勝で勝ち点7を収めた日本はA組首位で決勝トーナメント進出を決めました。
個人技をベースにした吉田監督の狙い
2戦目までの戦いで再三指摘されていた問題ですが、日本は個人の突破に偏り過ぎる為に前線でパスが繋がらず、組織的なプレーでディフェンスを崩す動きがほとんど見られませんでした。強引なドリブル突破からシュートに持ち込む積極性がゴールを生み出すこともありましたが、可能性の低い角度からシュートを狙ったり、無理にドリブルを仕掛けて潰されるケースも目立ちました。チーム全体のこうした傾向は吉田監督の指導によるところが大きいと言われています。ボールを保持した個人の選択肢として『1にシュート』『2にドリブル』『3にパス』という教育を徹底して行っており、コンビネーションよりも個人技を優先した攻撃を磨いてきました。 組織力よりも個性を伸ばそうという吉田監督の狙いは筆者も大いに賛同します。10代の頃から組織主体で縛られたプレーばかり要求されていたら、選手のストロングポイントは育つことなく終わっていくでしょう。世界レベルで戦えるチームを育てようと思えば、先ずは選手個々の強さを求めるべきでしょう。サッカーはチームプレーで成り立ちますが、最終的に局面を打開するのは一対一の個人技で決まります。一対一の局面で勝つことの積み重ねがゴールに繋がるわけで、横パスばかりに逃げていてはゴールに近づくことはできません。ゴールに近づくプレーというは仕掛けるプレーであり、突破のプレーです。これが選手の個性により、ドリブルであったり、スルーパスであったり、オーバーラップであったりする訳です。
考えるサッカーを覚えたヤングなでしこ
個の力だけを見ればA代表の『なでしこジャパン』にも引けを取らない『ヤングなでしこ』ですが、個の力を引き出すコンビネーションプレーの少なさが自慢の攻撃力にブレーキをかけていたと思います。サイドハーフがドリブル突破でDFをサイドに誘い出しても、中央でフリーの選手にパスを出さない。センターフォワードが巧みなポストプレーでDFを引き付けても、裏のスペースに選手が走り込まない・・・。優れた個人技で局面を打開できるのに、その後のサポートが遅くて攻撃が繋がらないという悪循環に陥っていました。しかし、このスイス戦では2点を先取した後半途中からチームが生まれ変わったように攻撃が連動し始めます。
両サイドの起点となる田中美南と横山久美にボールが渡ると、サイドバックの中村ゆしかと浜田遥が積極的にオーバーラップを仕掛けて敵陣深くに切れ込み、前方のMFを追い越してDFのマークを引き剥がしていましたし、中央のFW西川にボールが収まると、両サイドの田中美南と横山が中央に絞って素早いパス交換からDFを崩したり、ボランチの猶本光は3列目からバイタルエリアまで飛び出してDFの裏にスルーパスを通すなど、多彩なコンビネーションが見られました。個の力で打開できなければ、周囲を使って打開する。吉田監督が組織を重視した戦術を取らなくても、選手達は試合の中で考えながら攻撃の引き出しを増やしていきました。『個の力で打開する』、『個の力で考える』ことを徹底した吉田監督の方針がここにきて開花したように思えます。
総括
新たな戦い方を身につけて進化したヤングなでしこ。上昇ムードで決勝トーナメントに進むことなりましたが、準々決勝の相手はアジア最強の宿敵と見られる韓国です。この戦いに勝利して、自己最高の成績であるベスト8の壁を越えて、世界を驚かせる躍進を見せて欲しいと思います!
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