教科書に取り上げられた「想定外」

iRyota25

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復興への道筋が見えない中での教科書検定

3月27日発表された高校教科書検定で、東日本大震災や東京電力福島第1原発事故について記載があったのは53冊。地理や歴史など社会科関係の教科書はもちろん、科学や家庭科、数学、美術などの教科書でも取り上げられたそうです。産経新聞(2012年3月28日)によると、被災した人にとって苦しい記憶を思い起こさせる津波写真の掲載の是非や災害発生時の行動などについて、教科書会社の社内、教科書検定の現場でさまざまな議論があったことが伺えます。

東京書籍の科学と人間生活では5ページにわたり今回の震災を記載、津波の写真も3枚使用した。同社は「写真の使用や記述内容で大きな議論となった。伝えなければ、との思いと被災地の心情でせめぎ合いがあった」と語る。だが「今までにない自然災害であり、感情的や偏った価値観にならないよう配慮し掲載を決めた」という。この教科書では「災害が発生したら、想定をもとに適切に行動する」と記載していたが、検定意見が付き「状況を判断しながら、冷静に適切に行動する」と修正。検定の指摘理由は「常に想定に従っていればよいかのように誤解する恐れのある表現」としており、想定を超えた東日本大震災の経験を反映したようだ。

産経新聞(2012年3月28日)

想定の限界を示した検定の指摘理由

とくに興味深く思ったのが「想定」についての扱いです。災害発生時にハザードマップ等で示された想定にもとづいて行動する、という「いい子ちゃん」的な教科書表記に対して、検定サイドが「常に想定に従っていればよいかのように誤解する恐れのある表現」と指摘したのは、地味ではありますがスマッシュヒットだと思います。避難所に指定されていた場所で津波に襲われた。

津波に耐えるはずの大防潮堤の上に避難して流された。3メートルの津波との警報で、3階建てのビルの屋上に避難して命を落とした。

そんな辛い話をいったいどれだけ聞いたことでしょう。想定は人間の勝手な思い込みでしかなく、大災害が予想される時には、とにかく少しでも安全なところに「逃げる」しかない。これが、多くの人々の命や生活を奪った東日本大震災から私たちが学ばなければならない大きな教訓のひとつです。教科書検定にあらわれた「想定」に対する考え方。1人ひとりが防災・減災を考えるきっかけになるといいですね。責任論や賠償問題、原発再開に向けての布石といった「大人の事情」的な想定外はもう聞き飽きましたから。

最終更新:

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  • K

    Kazannonekko452

    「常に想定に従っていればよいかのように誤解する恐れのある表現」という検定の指摘理由を、大飯原発再稼働を進める野田総理はどう読むのだろう?ぜひ一度聞いてみたいです。