先週に引き続きマイケル・サンデル教授の白熱教室の書籍紹介です。
私たちの日常にあまり馴染みのない哲学という難解な学問を、興味をひく事例をつかって聴衆との対話形式で分かりやすく説明してくれる書籍です。現代における「正義」とは何かという根源的なテーマについて、過去の偉大な哲学者の思想から考え議論を繰り広げられていきます。
サンデル教授は以下のような問いかけをします。
Q1
・あなたは時速100kmで走る路面電車の運転手
・行く手に5人の労働者がいることに気づいたがブレーキは効かない
・このまま突っ込めば5人は確実に死ぬ
・そのとき脇に逸れる線路(退避線)があることに気づく
・そこにも1人の作業員がいるが、ハンドルを切れば1人は死ぬが5人は助かる
・正しい行いはどちらか
上記の問いにほとんどの学生がハンドルを切るという選択をします。5人が助かるなら1人を殺す方がましだと考えたからです。
Q2
・あなたは移植医
・生きるために臓器移植がどうしても必要な5人の患者を抱えている
・5人はそれぞれ、心臓、肺、腎臓、肝臓、すい臓を必要としている
・臓器のドナーはおらず、あなたは5人の死を目前にしている
・そのときあなたは隣の部屋に健康診断を受けに来た1人の健康な男がいることを思い出す
・彼は昼寝しており、部屋に忍び込んで5つの臓器を抜き取ればその人は死ぬが、5人は助かる
・正しい行いはどちらか
上記の問いには臓器を抜き取る選択をする学生はほとんどいませんでした。5人を助けるためであっても何の罪もない1人を殺すのは道徳的に間違っていると考えたからです。同じ5人を助けるか1人を生かすかですが、Q1との違いはどこから生まれるのでしょうか。
本書では上記のようの事例を比較しながら、ジェレミー・ベンサムやジョン・スチュアート・ミルの功利主義の道徳理論から、それに対比する思想として自由原理主義(リバタリアニズム)、さらに自由主義(リベラリズム)のジョン・ロックやイマヌエル・カントの認識論などについて体系的に哲学を学んでいきます。
書籍前半のジェレミー・ベンサムらの功利主義については、とてもシンプルな考え方で直感的に理解しやすく、どんどん読み進めることができましたが、後半のイマヌエル・カントらの認識論はとても難解で読み進めるのに苦労しました。
「正義」とは何か、「自由」とは何か、「平等」とは何か、また「人間」とは何かをじっくり考えたい方は、ぜひ本書を一読してみてください。
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