陸前高田で開催された国体のビーチバレー

iRyota25

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青い空にボールが高く上がる。砂浜に選手たちの声が響き渡る。

震災後の被災地ではじめて開催される「希望郷いわて国体・希望郷いわて大会」。10月1日の総合開会式に先立つ8月31日、陸前高田市の特設会場ではデモンストレーション競技「ビーチバレー」が開催された。

ビーチバレーとは言うものの会場は浜辺ではない。震災以前、陸前高田には白砂青松の高田松原が広がり、長い長い浜辺はビーチバレーのメッカでもあった。しかし、津波によって高田松原の砂浜は失われ、現在は砂浜再生のための試験事業として長さ100メートルほどの砂浜が戻ってきているだけ。だから、国体のビーチバレーで陸前高田市が開催地に選ばれても、高田の松原を会場として使うことはできない。

ビーチバレーの会場となったのは、高台に移転した県立高田高校の隣の造成地。建設会社の仮設事務所前が駐車場として整備され、そこからさらに山側の盛り土の上に、たった1日、国体デモンストレーションのための砂のコートが造られたのだ。

駐車場で、東京の地名のナンバープレートを付けたワゴン車から降りてきた人たちが、工事現場の向こうにビーチバレーのボールが打ち上げられるのを見つめながら、「なんだかシュールな光景だね」と言ってるのが耳に入ってきた。

大会開催のために厳重なフェンスの囲いの中に横たえられた大型クレーンの間から、よく見ると小さな白いボールが打ち上げられているのがわかる。浜辺ではない場所で行われているビーチバレー。そして工事現場に横たわる巨大なクレーンの向こうで、音もなくぽーん、ぽーんと打ち上るボール。言われてみればたしかにその光景は現実離れしたもののようにも思えてくる。ここがどこなのか。今がいつなのか。そんな感覚がそげ落とされていくような不思議な感じ。

しかし、振り返ればそこにはかつて松原があった海岸と、青い青い広田湾がある。長大な松原は消え、たくさんあった住宅も失われ、いまではまるで生活感の感じられない白く無機質な防潮堤がのびているとはいえ、ここが陸前高田の町であることに違いはない。地球が丸いことを感じることができるくらいの高台から一望できるこの光景が、復興のために壊され造られ、また壊され造られを繰り返している陸前高田という町そのものなのだ。

会場となった高台の工事現場へ向かって行く坂道の入口に立てられた「ビーチバレー会場」の看板。これもまた、見る人によってはシュールな風景ということになるのかもしれない。しかし、この日のビーチバレー開催に向けて、工事現場の人たちは工事の日程をやりくりして懸命に会場造りを行ったのだという。その努力を讃える声を高田の町で何人かの人たちから聞いた。そして地元の新聞では、会場に隣接するのみならず、選手としても何人かが出場している高田高校の生徒たちがコート造りに協力したことや、特設会場のコートの砂には、保管されていた高田松原の砂が利用されたことが紹介されていた。

(そういえば、高田高校の女子バレーボール部は春高バレーで優勝を果たしたこともある。震災前には町内対抗バレーボール大会も盛んだったらしい。往年の町内スタープレーヤーたちは「オレのアタックで試合を決めたんだ」なんて話で盛り上がる)

ビーチではない場所で行われるビーチバレー。山の上に造られた砂浜。

それがどんなにシュールで非現実なものに映ろうとも、コートに立つ選手たちにとっては2016年夏の現実以外の何ものでもない。シュールだなんて言われたら、逆に「???」と首を傾げてしまうくらい、確かに目の前にある現実であるに違いない。

ゲームを見守る町の人たちの思いもきっと同じだろう。

青空に白いボールが上がる。打ち上げられたボールが空に吸い込まれていく。砂浜に選手たちの声が響き渡る。ここには非現実など微塵も存在しない。ボールが吸い込まれていく空は現実で満たされている。

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