日本原子力発電(原電)が、東海第二原発の建屋内で汚染水の漏洩があったことを6月2日発表した。マスコミ各社がこのニュースを取り上げているが、原電が文書で発表した内容との違いがあるので比較してみる。
日本原子力発電のリリース
原電のホームページに文書として発表された内容は以下のとおり。
・第25回定期検査中で全燃料を取り出している東海第二発電所で、6月2日14時55分頃、廃棄物処理棟の地下1階に液体が溜まっているのを確認。
・その上に位置するタンクベント処理装置室でも液体が溜まっているのを発見。
・2カ所の液体の放射能濃度を測定したところ、タンクベント処理装置室内の液体が基準値である40Bq/cm2を超えていたため、16時56分に保安規定第94条に基づき、立入制限区域を設定。
・液体は当該装置まわりの堰の内側に留まっている。
・液体の水位の上昇はない。
・詳細原因については調査中。
・本事象による環境への放射能の影響はない。
東海第二発電所管理区域内での放射性廃液の漏れについて
当社、東海第二発電所(沸騰水型軽水炉、定格電気出力110万キロワット)は、第25回定期検査中(全燃料取出中)のところ、本日14時55分頃、廃棄物処理棟※1の地下1階で液体が溜まっていることを確認しました。
その後、上部に位置する階(タンクベント処理装置室※2)においても液体が溜まっていることを確認しました。当該2か所の液体の放射能濃度を測定し、表面汚染密度を評価したところ、タンクベント処理装置室内の液体が基準値である40Bq/cm2を超えていることから、16時56分に保安規定第94条※3に基づき、立入制限区域を設定しました。
なお、液体は当該装置まわりの堰内に留まっており、液位の上昇はありません。現在、詳細原因については調査しています。
本事象による環境への放射能の影響はありません。
※1:廃棄物処理棟:発電所内で発生する放射性廃棄物(液体、固体、気体)の処理と貯蔵のための施設
※2:タンクベント処理装置
室: 放射性廃液を貯蔵しているタンク内の圧力を管理する設備
※3:保安規定第94条:管理区域内における放射線管理上の特別措置について定めた条文
プレスリリースには資料として、位置図が添付されていた。
この事象(事故と事象では重篤度が異なる)についての報道を、読売新聞、日本経済新聞、東京新聞、茨城新聞の4紙で比較・整理してみる。
読売新聞(2016年06月03日 00時47分)
・日本原子力発電は2日、運転停止中の東海第二発電所(茨城県東海村)の廃棄物処理棟で、放射性廃液約750リットルが漏れたと発表した。
・液体からは1リットル当たり約37万ベクレルの放射性物質が検出された。
・液体は建物内にとどまっている。
・作業員の被爆や環境への影響は確認されていない。
・発表によると、14時55分頃、地下1階のポンプ室の天井から液体が漏れているのを作業員が確認。
・上部にある排気装置の部屋(約8.6平方メートル)に、深さ約10センチにわたって廃液がたまっていた。
日本経済新聞(2016年6月2日 22時57分)
・日本原子力発電は2日、東海第2原子力発電所の放射性廃棄物を処理する建屋で、放射性物質を含む廃液が漏れていたと発表。
・午後8時までに推定750リットルが漏れた。
・総放射能量は約2億8千万ベクレルで、国への報告が義務づけられている基準の約100倍に達した。
・外部への放射性物質の漏洩や作業員の被曝はないという。
・原子力規制委員会の検査官が建屋外への流出がないことを確認。
・漏れは止まっている。
・日本原電は原因調査を進めている。
・建屋には液体状の廃棄物が入ったタンク中の気体から水分を取り除く装置があった。
東京新聞(2016年6月3日 朝刊)
・日本原子力発電は2日、東海村の東海第二原発の建屋内で、放射性物質に汚染された廃液約750リットルが漏れたと発表。
・表面から検出された放射性物質濃度は、暫定値で1平方センチ当たり1700ベクレルで、立ち入り制限の基準値の同40ベクレルを大幅に上回った。
・作業員の被爆や建物外への放射性物質の漏えいはないとしている。
・原電の発表によると、午後2時55分ごろ、廃棄物処理棟を巡回中の作業員が、中地下1階と地下1階の床に水たまりがあるのを発見。
・中地下1階に漏れた液体からコバルト60などが確認され、1平方センチ当たり1700ベクレルを検出したため室内の一部を立ち入り制限区域に設定。
・地下1階の液体は基準値未満。
・汚染水が見つかった中地下1階は、廃液貯蔵タンクの圧力管理装置室で、室内に張り巡らせた排水管から漏れた可能性がある。
茨城新聞(2016年6月3日)
・2日午後2時55分ごろ、運転停止中の日本原子力発電東海第2原発の廃棄物処理棟で、地下の室内に液体がたまっているのを作業員が見つけた。
・原電が表面汚染を調べると国の基準の40倍に相当する1平方センチ当たり1700ベクレルの放射能が検出された。
・作業員や環境への影響はないという。
・原電によると、放射性廃液が見つかったのは中地下1階と、その下の地下1階のポンプ室。
・中地下1階には廃液が入ったタンク内の圧力を管理する設備がある。
・広さ約8平方メートルの室内に深さ約10センチの水たまり。
・漏れた廃液は約750リットルに上る。
・分析結果から、原電は中地下1階内の配管から放射性廃液が漏れ、床を貫通する配管部分の隙間から地下1階にも廃液が落ちたとみている。
・前日午後には異常はなかった。
・原電は現場を立ち入り制限区域に指定して詳しい原因を調べている。
・原電は廃液の回収作業を始める。
各社の報道内容を比較すると…
各社とも、原電のプレスリリースの内容よりも踏み込んだ内容を伝えている。記者会見での質疑応答で、さまざまな情報が引き出せたということだろう。それでも各社の報道内容には違いが見られる。
原電による発表日、水たまりが発見された日時、発生場所については各社とも明記しているが、東海第二原発が停止中だったことには触れていない新聞も見られる。第25回定期検査は2011年5月に開始されたもので、東日本大震災による原発事故の影響でその後5年間にわたって東海第二が停止状態にあること、運転開始から37年半が経過していることに言及する報道は見かけなかった。
新聞記事を構成する上では、何が起きたのかを具体的に示す必要がある。各社とも漏洩した汚染水の量が約750リットルだったことは伝えている。
一方、汚染度を示すために各社が採用した数字にはばらつきが見られる。
原電のプレスリリースには「基準値である40Bq/cm2を超えていた」とあるだけで、具体的な数値は示されなかったが、読売は「1リットル当たり約37万ベクレル」、日経は「総放射能量は約2億8千万ベクレルで、国への報告が義務づけられている基準の約100倍」と踏み込んでいる。東京新聞と茨城新聞は「1平方センチ当たり1700ベクレル」という表面汚染度を伝えた。
現場の具体的状況を詳しく伝えたのは東京新聞と茨城新聞。
両紙ともタンクベント処理装置室の配管から漏洩した可能性を指摘。東京新聞は漏れた汚染水からコバルト60が検出されたこと、下の階のポンプ室の溜まり水は基準値以下であることを伝えている。
コバルト60は原子炉圧力容器内、あるいは1次冷却水から検出される放射能なので、漏洩水は圧力容器や燃料プールから漏れた可能性も考えられる。
茨城新聞はタンクベント処理装置室の配管から漏れた汚染水が、床を貫通する配管の隙間から下の階に落ちた可能性にも言及した。
「環境への放射能の影響はない」という原電発表に加え「作業員の被曝がない」ことも各紙が伝えている。日経は「原子力規制委員会の検査官が建屋外への流出がないことを確認」と詳細を示した。
それでも分からないこと
原子力発電所で事故等が発生した際には、現場の状況を知る手段が事業者による発表に限られてしまうケースが多い。それだけに、事業者の発表をそのまま伝えるのではなく、踏み込んだ質問で状況を具体的に明らかにしていく必要がある。今回の報道に携わっている人たちの努力は高く評価できる。しかし——
作業者に被爆がないことはどのように確認したのか。漏れた水は堰の内側にとどまっているとの発表だが、上の階、下の階とも堰が設置されていて、運良く上の階から漏れた水が下の階の堰の中に溜まったということなのか。上の階で基準値の40倍(日経では100倍)の汚染水が下の階では基準値未満(東京新聞による)だとすると、下の階で汚染が薄まったのはなぜなのか。読売新聞と茨城新聞が言及している約8平方メートルに約10センチの溜まり水の量は、各社が伝える750リットルという漏洩量にほぼ合致する。750リットルは上の階の溜まり水の量を指すのか。堰の内部が約8平方メートルだとすると、縦横3メートルに満たない広さということになるが、そこに設置された気体から液体を分離する装置から0.75トンもの汚染水が漏洩するとは、いったいどのような事象だったのか。
事業者の発表だけでは分からないことが多い。各紙を読み比べて初めて見えてくることもある。しかし、それでも疑問が残る。そもそも5年間運転停止している原子力発電所で、突然汚染水漏れが発生するということ自体、尋常ではない。
新聞には紙面の制約がある。テレビのニュースも時間という制約がある。だったら質疑応答も含めた記者会見の様子を動画配信するなど、より踏み込んだ情報公開を実現してもらわなければならない。
原電ホームページにある参考ページ
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