東京電力は3月16日、第19回廃炉・汚染水対策現地調整会議の資料を抜粋して発表した。内容は事故原発の敷地内に林立する大量のタンクに蓄えられた汚染水処理。汚染水の処理は平成26年度中に完了する予定だったが、3月12日時点で27%(厳しい見方をすれば41%)が処理されていない。3月末までの処理完了は絶望的で、発表された資料によると、5月末までに97%(厳しく見れば66%、考え方によっては約94%)の処理を行うとしている。
新語「ストロンチウム処理水」とは?
事故原発構内の汚染水についてざっと整理しておこう。
汚染水の水源は2種類ある。ひとつは原子炉建屋とタービン建屋(つながっている)などに溜まる滞留水。津波で海水に浸水した建屋に、原子炉の冷却のために投じられている水や建屋内に流入してくる地下水が、放射性物質と接触して高濃度の汚染水となって溜まり続けている。この汚染水はタービン建屋からポンプで別施設に移送されて処理される。
もうひとつは原発の爆発で巻き上げられた放射性物質のフォールアウト(死の灰)が、雨水などに混ざってできる汚染水。敷地内の雨水による水溜りが、線量にばらつきはあっても汚染されている原因はフォールアウトによるものが大きいと考えられる。
ここでは、今回発表された資料のテーマとなっている前者、原子炉冷却による汚染に地下水や海水が混入した汚染水について見てみよう。
タービン建屋から移送された汚染水の「原水」は、セシウム吸着装置、第二セシウム吸着装置で処理されて、高い割合でセシウムが取り除かれる。
セシウムが取り除かれたといっても、それ以外の放射性核種は大量に残っているのでさらに処理しなければならない。セシウムが処理された水は約2倍の濃度に濃縮した上で(この水はRO濃縮塩水と呼ばれる)、多核種除去設備で処理が行われる。多核種除去設備ではトリチウム(H3)以外の62種類の核種を告示濃度限界(*注)未満まで減らすことができる。
*注)告示濃度限界:周辺監視区域の外側の境界における水中の放射性物質の濃度として経済産業大臣が告示で定めた放射性物質の濃度限度。(実用発電用原子炉の設置、運転などに関する規則(昭和53年通商産業省令第77号)の第9条と第15条)(原子力規制委員会による解説を参照した)
この流れが従来の処理プロセスだったが、多核種除去設備の運転状況が芳しくなかったため、モバイル型ストロンチウム除去設備が投入された。セシウムを処理する設備や汚染水を濃縮する設備でもある程度ストロンチウムが除去できることに着目して、これらの装置類での処理済み水を「ストロンチウム処理水」と呼び、別途貯蔵することにもなった。
しかし、これらの設備の処理能力は多核種除去設備より劣るため、多核種除去設備で再度処理する必要がある。
それぞれの汚染水・処理水の特徴
○RO濃縮塩水:
セシウムをある程度まで除去した汚染水を約2倍に濃縮したもの。塩水という言葉が使われているが実際には処理中の汚染水である。ストロンチウムなどが濃縮されているため猛烈に危険な汚染水と考えなければならない。多核種除去設備で処理されるまでの間は、H4、H6といったエリアのタンクに貯蔵され、これまで数次にわたってタンクからの漏洩事故が発生している。
○ストロンチウム処理水:
セシウム吸着装置(米国KURION社)、第二セシウム吸着装置(SARRY:東芝)がストロンチウムも一部除去することに着目したもので、新規投入されたモバイル型ストロンチウム除去装置(米国KURION・東芝)による処理水やRO濃縮水処理装置による処理済み水と合わせてストロンチウム処理水と呼ばれる。(この呼び名は2015年1月以降と思われる)
東京電力が今年1月に発表した「セシウム吸着装置/第二セシウム吸着装置におけるストロンチウム除去について」によると、処理前に10^4Bq/cm3オーダーだった汚染水が処理後の出口では10^2Bq/cm3オーダーに軽減していると記されている。しかし単位をリットル当たりに換算すると、処理後でも濃度は数十万ベクレルに上る。RO濃縮塩水のように2倍濃縮はされておらず、またRO濃縮水処理で出た真水に近い側のものも混ぜられているとはいえ、実質的に危険な汚染水であることに変わりはない。
○多核種除去設備による処理水:
多核種除去設備(ALPS)は、三重水素トリチウム(H-3)以外の放射性核種62種類を経産大臣が告示で定めた告示濃度限度未満まで減らすことができる。しかし、トリチウムは除去できないため、処理後の水はタンクに貯蔵されている。トラブル続きだった多核種除去設備(ALPS)に加えて、増設多核種除去設備、高性能多核種除去設備で、実際の汚染水を使ったホット試験という形で処理が行われている。
それでも残る汚染水
ここまでの説明を踏まえて上のグラフを見ると、RO濃縮塩水は処理水扱いではなく、他方ストロンチウム処理水は処理水として分類されていることに違和感もあるだろう。ストロンチウム処理水には、RO濃縮される前の段階の汚染水も含まれているからだ。処理をしたという実績を示すための言い換えであることは明白だ。
あえてその部分は見ないにしても、3月の年度末までには「処理」はまったく終わりそうにない。2カ月延長して5月末まで「処理」を続けても、それでもなお、処理が難しい「海水成分の多い汚染水」約2万トンと「残水」約2万トンの合計約4万トンが処理できずに残ることになっている。
・海水成分の多い汚染水の処理は、カルシウム・マグネシウムの影響で定格流量運転ができず、時間を要することが判明。
・処理には、さらに数ヶ月を要する見込み。
タンク底部の残水
○設備上、タンク底部の汚染水は、本設ポンプでくみ上げきれないため、残水が発生。
○残水量は、約2万トンと推定。
○残水処理にあたっては、安全を最優先に考え、ダストの飛散防止・被ばく防止対策等を十分に施しながら、タンク解体時に順次処理中。
約4万トンは残ってしまうという説明だが、そのココロは「4万トン残るけれど、97%は処理できますよ」ということなのだろう。
とはいえ、繰り返しになるが「ストロンチウム処理水」も、最終的には多核種除去設備で再び処理を行う必要があるので、実質的には未処理水=汚染水だ。告示濃度限界未満まで浄化処理できるのは5月末まで2カ月延長しても、全体の3分の2というのが現実なのである。
ストロンチウム処理水は、5月末を目指して現在の14%を31%にまで増やす予定になっている。おそらくフル稼働だろう。1月末に重大な労働災害が連続した際に、東京電力は「まず工程ありき」が無理を招いたと反省している。そのことの繰り返しにならないよう、汚染水処理の安全と作業員の安全を最優先に作業を進めてほしい。
それにしても、「ごめんなさい、本当は年度内には60%くらいしか処理できません。引き続き処理を進めるので許してください」と言うことができない東京電力が不憫に思えてくる。
最終更新: