四国電力伊方発電所
それ見たことか、なんてつもりは毛頭ない。
四国電力の管理区域内にある装置の配管から、汚染物質が漏れたと見られる跡が見つかった。漏洩が発生したと見られるのは、廃液や作業着の洗濯排水などの低レベル廃棄物をアスファルトに混ぜてドラム缶に収めるアスファルト固化装置のステンレス配管。すでに漏洩した汚染水は乾燥しており、外部環境への放射能の影響はなく、また法律で国への報告が義務付けられている事象でもないという。
原子炉内で核燃料に直接接触している一次冷却水が漏れたわけではないのは不幸中の幸いだろう。とはいえ、低レベル廃棄物とは処理に当たって発熱を考慮する必要のない放射性廃棄物のこと。比較的放射能が低いとはいえ、ドラム缶に入れて厳重に管理する必要がある廃棄物だ。
伊方発電所2号機
アスファルト固化装置廃液供給タンクへの配管からの析出について
定期検査中の伊方発電所2号機原子炉補助建家(管理区域)において、アスファルト固化装置の廃液供給配管の保温材に析出物があったため、保温材を取り外し、配管の状況を確認したところ、本日、12時40分に、配管表面に漏えい跡と思われる析出物があることを保修員が確認しました。なお、漏えい跡は乾燥した状態であり、現在漏えいはありません。
今後、引き続き、詳細調査を実施します。
本事象による環境への放射能の影響はありません。
本事象は、法律に基づく国への報告事象に該当するものではありません。
(参考)
アスファルト固化装置
アスファルト固化装置は、機器の分解点検等に伴い発生するプラント廃液や作業衣の洗濯排水等の低レベル放射性廃液をアスファルトと混合して固化処理する装置
以上
(添付資料)伊方発電所2号機 アスファルト固化装置系統概略図
ニュースリリースで表明されているように「引き続き、詳細調査を実施」して、繰り返さない対策をとってほしいものだ。
原子炉1基あたり配管の総延長は120km
入念な対策をとってほしいのは山々だが、原子炉1基あたりの配管の総延長は120キロに上るという。それだけの長さの配管の健全性を常に確認することは、残念ながら不可能と考えるほかない。13カ月連続運転した後に平均3カ月原子炉を止めて行う定期点検では、主要な配管の検査を行うだけで手一杯だろう。それでも、これまでに多くの事故やインシデントが配管周りで発生している。
たとえば、原子力百科事典「ATOMICA」によると2000年の1年間に原子力発電所に関する事故・故障等が18件報告されている(国際原子力事象評価尺度(INES)による評価はすべてレベル0-)が、そのうち燃料関係の2件を除く16件は配管関係だった(ポンプや弁を含む)。
同じく原子力百科事典「ATOMICA」には、2005年までの統計として、わが国で法律対象として事故報告が行われた件数が652件と記されている。これは法律対象としたなった事故の件数で、今回の伊方原発のインシデントのようなものは含まれない。
法律対象となって報告されたものの他のインシデントがどれほどの数にのぼるのだろうか。1件の重大事故の背景に30件の軽微な事故があり、その背景には約300件のヒヤリ・ハット事象があるとする、有名なハインリッヒの法則が当てはまるとすると、報告義務のない事故・インシデントの件数は万をはるかに超える計算になってしまう!
人類にとって放射性物質の取り扱い経験がせいぜい100年の歴史しかないという危うさばかりではなく、原子力発電所の「安全」を担保するためには、1基あたり120キロにも上る長大な配管の劣化やメンテナンス不良をすべて発見・対処しなければならない。
伊方原発で発見された低レベル廃棄物の廃液の析出物が示しているのは、原子力発電所が宿命として持っている困難に他ならない。
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