1月14日付で東京電力が「福島第一原子力発電所港湾内外・地下水のモニタリング状況 ~サンプリング試料の分析~」という動画を公開した。
サンプル分析に関する動画は昨年(2015年)8月20日に続いてのもの。今回の動画は分析のプロセスをクローズアップしたものだが、東京電力が繰り返しサンプル分析に関して、文字ではなく映像でアピールするのにはどんな背景があるのだろうか。毎日公開される分析データの信頼性を強調するためであることは間違いないだろう。
動画の冒頭、サンプル採取の映像には昨年夏に公開されたものも流用されていた。
この動画では構内に3カ所ある分析施設「5・6号機ホットラボ」「環境管理棟」「化学分析棟」の内部で行われている作業がテーマとして扱われている。
分析を紹介する映像で、容器の洗浄方法が繰り返し紹介される。真水(精製水)で洗った後、現場からサンプリングしてきた試料水でも洗うという手順についてだ。洗浄に使った真水が容器内に残って、資料を薄めることにならないように慎重に分析していることのアピールだ。
分析室内部の映像もある。作業員の足元が生々しい。年間8,700件の分析を行う割には室内に並ぶ測定器(ゲルマニウム半導体検出器)の数は少なく思える。
ストロンチウム-90やトリチウム(H3)などのベータ核種の分析については、前処理の大変さを強調したつくりになっている。
核種ごとの分析に時間がかかるのを補うために行われる全ベータの測定では、金属製の小さなシャーレに資料を入れて、白熱電灯で水を蒸発させ、残った析出物をガスフロー型計数装置で分析するという手法がとられる。
ストロンチウムの分析については、前処理・測定ともに時間がかかることを強調している。カルシウムに置き換わる性質のあるストロンチウムは、魚類の骨などに濃縮されているのではないかとの懸念が根強い。しかし、ストロンチウムの測定には時間がかかるため、サブドレンや地下水バイパス等で汲み上げられ、海に排出されている資料でも、排出された後になってストロンチウムのデータを含む詳細分析結果が公表されるという状況だ。
また、ストロンチウムの分析時間を圧倒的に短縮する技術や装置もすでに開発されている。もっと迅速なストロンチウム分析が、漁業関係者や市民の間から強く求められているのだろうか。動画ではストロンチウム-90と89を分離して計測できる上、測定時間が1日で済む新たなベータ核種分析装置(ピコβ)や、福島大学などが開発した約30分で測定可能なICP-MSといった装置も紹介される。
ただしどちらも、測定時間は短くて済むが精度は従来の方法に劣るとの見立て。
ICP-MSは堰内の溜り水(東京電力はここでも「雨水」と表記しているが)の分析に使われていて、他のサンプルへで利用しても大丈夫かどうか、妥当性を検証しているのだとか。現在でも採取のほぼ翌日に速報として発表される全ベータと、1カ月後の詳細分析結果という2段階で発表を行っているのだから、同様に、ICP-MSによる速報と1カ月後の詳細分析結果というやり方でいいのではないか。導入して1年以上になるのに、いまだに妥当性の検証中というのは腑に落ちない。
トリチウム(三重水素)の多くは酸素と結びついて水の形で存在する。そのままでは測定できないので、蒸留してトリチウムを含む水を取り出す。
蒸留装置の洗浄は大変そうだ。
蒸留水に液体状のシンチレーター(蛍光体によって放射線を光らせる)を混ぜた上で、微弱な発光を計数して放射線量を測定するという手法がとられている。計測には2時間~12時間ほどを要するようだ。
動画を通してみることで、測定する核種によってデータ発表までの所要時間が異なることは理解できた。しかし残念ながら、分析結果の信頼性につながる内容にはなっているとは言いがたい。
海側遮水壁の閉合以降、4メートル盤の地下水位が上昇している。サブドレンや地下水ドレンはフル稼働の状態だ。そんな時だからこそ、より迅速かつ正確、そして信頼性の高いデータを発表できる体制の整備が求められる。
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