東京電力福島第一原発1号機では、10月22日から原子炉建屋を覆っているカバーの屋根の部分に穴をあけて、そこから「飛散防止剤」を散布しています。昨日10月28日には、散布用のノズル部分が突風に煽られて、屋根に大穴を開けてしまう事件も発生しました。
ところで気になるのが飛散防止剤という薬品のこと。爆発で破壊された建物や装置の部品や部材が今も大量に残っている原子炉建屋で、ガレキ撤去作業を行う時に放射性物質が付着したチリや埃などが飛散しないようにするクスリだということですが、その正体はいったい何なのでしょう…。
2011年春、事故原発をブルーに染めた飛散防止剤
飛散防止剤は2011年の春、原発が爆発した数週間後から福島第一原発の構内に登場しています。上の左の写真で、防護服を着た人が持つホースの先端から出ている青緑色の液体が飛散防止剤です。この写真は2011年4月1日に撮影されたとのこと。おそらく極めて危険な作業だったと考えられます。真ん中は5月6日、右の写真が撮影されたのは5月28日。地面だけではなく建屋の外壁にも飛散防止剤が散布されています。
2) 大気への放出抑制対策
①飛散防止剤の散布
平成23年4月より人による散布を開始し、その後、クローラーダンプ、同年5月より屈折放水塔車(高圧放水車)とコンクリートポンプ車を用いて、発電所構内(平地・法面)および建物周り合計約56万m2に対して飛散防止剤を散布し、同年6月末時点に予定範囲への散布を完了しました。
上の写真のキャプションは「コンクリートポンプ車による4号機使用済燃料への放水」ですが、4号機周辺に散布された飛散防止剤の様子がよくわかります。おそらく廃棄されたと思われるトラックまでが青緑色に染まっています。
同じく写真のキャプションは「福島第一原子力発電所1・2号機主排気筒底部 非常用ガス処理系配管接合部付近」となっていますが、線量が高い部分が発見されたので、作業員が長い竿のようなものを使って計測している現場状況です。青緑色の飛散防止剤が見えますが色が着いていない部分も多く見られます。ノズルでスプレーするように散布する以上、撒きムラが出るのは避けられないようです。
飛散防止剤はアスベスト(石綿)処理剤だった
さて一番の疑問、飛散防止剤が一体何なのか。東京電力の資料には注釈として「【飛散防止剤】アスベストを含む建物解体作業等で一般的に使用されており、ダストの飛散抑制に実績があります」と小さく記されていますが、どんな製品なのかはよく分かりません。ネットで検索すると(株)AGUA JAPANという会社が開発したアスベスト処理剤だと分かりました。(ただし、実績が確認できたのは2011年に散布された飛散防止剤についてで、現在1号機の建屋カバー内に散布されているのが同じものかどうかは不明です)
リンクした日刊工業新聞の記事によると、AGUA JAPANのアスベスト処理剤は、船舶用のアスベスト処理剤として開発されたものとのこと。船舶用ということで、火災の危険や人体への影響が懸念される揮発性有機化合物(樹脂系)ではなく、無機系素材にこだわって開発されたものだとか。これが廃アスベスト処分に使われるようになり、さらに2011年の原発事故後に放射性物質の飛散防止剤として採用されたのだそうです。採用の決め手となったのは「飛散防止効果はもちろん、火災や爆発や、飛散防止剤が他の物質と化学反応を起こさないなど、二次災害を引き起こさないこと(日刊工業新聞の記事より引用)」。当時の東京電力の資料にも、飛散防止剤の採用に当たって様々な確認試験が行われたことが記されています。
固化状態の試験画像を見ると、コンクリートの薄片と思われる物質の表面を、飛散防止剤がカバーするように固化している様子がうかがえます。
しかし、塗料を散布するのと同じような方法で撒かれるせいか、深部まで固めることができているようには見えません。1号機建屋のガレキに屋根の上から散布しても、細かい破片やチリ、埃を固定することができるのは表面だけで、実際にガレキ撤去作業が始まって重機のシャベルのような機械で表面がはぎ取られてしまったら、ガレキの内側にある破片やチリなどが飛散する危険性は十分考えられます。
東京電力が発表している作業計画によると、天井からの散布に続き、壁面カバーを撤去する際には壁面に穴をあけて横からも飛散防止剤を散布、さらにガレキ撤去作業では、原則月に1回飛散防止剤を散布するほか、作業開始前と作業開始直前にも散布、作業中は局所排風機でチリなどを吸い取りながら、ガレキ撤去場所には飛散を抑えるために散水を行い、その日の作業終了後にも飛散防止剤を散布する、と念入りなプランが示されています。
とはいえ、アスベスト処理剤を利用した飛散防止の弱点は、上のブロックの写真で示した排気塔のように複雑な形状をした物には一様に散布することが難しいこと、そして表面は固化できても深部まで浸透して固化できるかどうか疑問があることです。
飛散防止剤がアスベスト処理剤だったということは分かりましたが、廃炉に向けての作業が果たして安全に進められるのかどうかは疑問符付きです。
高い線量下でのガレキ撤去作業は無人重機の遠隔操縦で行われるそうです。難易度が極めて高い作業になると考えられます。だからこそ、なおのこと、放射性物質を含む塵埃などを絶対に飛散させないという覚悟と責任を持って、安全第一に作業が行われることを強く期待します。そしてもちろん、応援もしています。
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