復活!石巻名物「揚げチーズたい焼き」

iRyota25

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空まで揚がれ! 大成苑のたい焼きくん
空まで揚がれ! 大成苑のたい焼きくん

またしても電器屋さんの佐藤さんのお薦め。石巻駅からゆっくり歩いて徒歩5分の立町ふれあい商店街に新店舗がオープン。新店といっても元々石巻では知らない人のいないほど(50歳以下限定)の名店「大成苑」。

「石巻に来たらこれを食べなきゃ」「これ大好き!」と電器屋さんも靴屋さんもみんなが薦めてくれたのは「揚げチーズたい焼き」。

さっそく実食。

初めて食べたのにずっと昔から知っていたような気がする懐かしさ。あ~、これだよと声が漏れてしまう。揚げた・たい焼き・中身はチーズという取り合わせをあたまの中で想像したそのまんまの美味しさ。サクサクふんわり、そしてとろ~り。

高校生たちの懐かしの味

かつて石巻の町が賑わっていた頃、大成苑さんはコーヒーショップだった。お店は石巻駅のすぐ近く。当時は平日でも朝から大変な人出で、喫茶店には午前中だけで3回くらいピークタイム(満員になるくらい忙しい時間)があったらしい。ところが高度経済成長が一段落し、オイルショックの不況に見舞われた頃から商売の様子が変わってきた。道行く人の数まで少なくなって、以前のような勤め人のお客さんはめっきり減ってしまった。

これまでと同じような商売ではダメだ、と大成苑さんは高校生たちが立ち寄れるような店への変身を決意した。さいわい石巻の中心部には高校が5つも集まっている。電車通学の子が多い。高校生が喜びそうなメニューを揃えれば、別のかたちで商売を続けられるのではないか。

フライドポテトや石巻焼きそばなど、学校帰りの高校生たちが立ち寄りたくなるメニューに加えて、大成苑さんが発明したのが「揚げたい焼き」だ。子どもは揚げ物が好きだからたい焼きも揚げてみたら、というシンプルな発想だったのかもしれない。しかし開発は試行錯誤の連続だったという。

お店の人曰く「真似しようやってみた所もあったみたいだけど、うまく行かなかったみたいですね。生地が違うんですよ」。

特別に食べさせてもらった揚げる前のたい焼きの生地
特別に食べさせてもらった揚げる前のたい焼きの生地

もちろん普通のたい焼きの生地ではない。油で揚げるところはドーナツにも似ているけれどドーナツの生地とも違う。その上、揚げる前の焼いただけの状態で食してもまるでケーキのような味がする。

揚げたたい焼きの外側はサクサク。とくに生地が薄くはみ出したあたりはパリパリして最高。たい焼き本体の生地はふわっとした食感。生地の中からは融けたチーズがあふれるようにとろけて出てくる。

揚げたい焼きの発売はいまから30年くらい前のことだそうだ。電車通学していた石巻圏の高校生たちはほぼ全員が、大成苑さんのたい焼きの絶妙な味わいを知っている。

型からはみ出したパリパリが格別
型からはみ出したパリパリが格別

震災から3年3カ月の再オープン

それを食べると青春の思い出がよみがえってくるような特別な味。だが震災の後、石巻の人たちが揚げたいやきを再び味わえるようになったのは2014年7月、今年の川開き祭り直前のことだった。

駅近くにあった大成苑さんは震災の津波で腰のあたりまで浸水した。調理器具は全滅、建物も被害を受けた。お店を再開するためには資金稼ぎしなければならない。そこでチーフ(店長)は別の仕事に働きに出た。ところがそっちの仕事が忙しくなって、なかなかお店再建のための時間を割くことができない。そんな時、立町ふれあい商店街に入らないかと誘われた。平日は忙しいチーフの代わりに、揚げチーズたい焼きの開発者であるチーフのお父さんが店に立つことになった。

町では再開発の計画が少し進んだり足踏みしたりしているが、いろいろな場所で漏れ聞こえてくるのは入居に係る費用がバカ高いという話。計画だけ進んでも入居するお店がどれだけあるのかは分からない。

店舗再建のために別の仕事で資金稼ぎをする。いい話だと思う反面、そのためにお店に立てないというのは寂しいことだとも思う。

「お店を再建する時のことを考えると、調理器具も二重投資にならないようにしなければならないから、むかしのようにたくさんのメニューを揃えることはできません。お客さんが喜んでくれるいちばんの目玉ということで、揚げたい焼きをやってるんだけど、本当はもっといろいろ出したいんですよ」

「自分は店長じゃないんでね」と笑うチーフのお父さん
「自分は店長じゃないんでね」と笑うチーフのお父さん

話を聞いていくと、いろいろなことが見えてくるように感じる。個人経営のお店を建て直すことの大変さが漠然とだが伝わってくる。

だけど、大成苑さんの揚げチーズたい焼きはホントに美味い。ありそうでなかった初めての食感。こんなにおいしい食べ物を学校帰りに食べ続けてきた石巻人が羨ましい。その歴史が30年も続いているなんて、妬ましくさえ思えるほどだ。だって、初対面の人とでも「揚げチーズたい焼き」を通して仲良くなれるんだから。「あれ、おいしかったよね~」「うんうん。また食べに行きたいね~」って。

サクサクふんわり、とろ~りな体験を石巻で♪

大成苑さんが復活したいま、石巻の人じゃなくても揚げチーズたい焼きのファンにはなれる。石巻の知り合いんちを訪ねる時に2つ買って持って行って一緒に食べれば、思い出話を聞きながらプチ石巻人くらいにはなれるかもしれない。

地元の人たちが懐かしんで食べたり、旅行でやってきた人がうわさを聞いて買い求めたり、そんな口コミでお店が繁盛していくことで、仮設ではない店舗の再建につながっていってほしいと思う。

石巻に行かなきゃ経験できない「揚げチーズたい焼き」を食べに、石巻へGo!

大成苑

石巻立町ふれあい商店街の南奥

写真と文●井上良太

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