明日を目指すお店リポート:女川「ニューこのりの活穴子天丼」

iRyota25

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石巻あたりで地元の人に美味しいお店を尋ねると、必ずといっていいくらいオススメされるのが女川町の「ニューこのり」。震災前からの人気店でしたが、お店があった小乗(このり)浜は津波で民家がほぼ全壊。それでも小乗浜の人たちがまとまって入居している仮設団地のお隣に2011年11月末、仮設店舗で再オープン。地元の人たちはもちろん、ボランティアや外部からやってきた人たちにも大人気の看板メニュー、「活穴子天丼」をいただいてきました。(2012年11月18日)

ころもはサクサク。身はふんわり。たれの味はやや薄め。だから穴子のうま味が引き立ちます。たれが多すぎないのもうれしい。食べても食べても「サクサク、ふんわり」な食感が続くのです。それにしても穴子の盛りのいいこと。柔らかめのご飯との相性のいいこと。食べているうちに顔の筋肉がゆるんでくるのがよくわかります。

「穴子がふわっとしているのは活〆だから。地元の万石浦産の穴子を1本半くらいかな、ふんだんに使っているんです。揚げ方もお母さんが手間をかけて調理しているからサクサクしているんですよ」

お店の木村由佳さんが笑顔で解説してくれました。穴子を仕入れている万石浦は女川と石巻の間にある巾着のような形をした入り江です。お母さんの出身地でもあるのだとか。いっぽう、柔らかくて穴子天によく合うご飯は由佳さんの実家がある松島産。女川名物「ニューこのりの活穴子天丼」は、お母さんの出身地の名産とお嫁さんの実家の名産がひとつになってできているのでした。

メインとなる穴子とお米だけではありません。野菜の天ぷらも味噌汁のカニも、できるだけ地元の食材を使っているそうです。それにしても、地元のものだけでこんなに美味しい料理ができるというのは、とても幸せなことだと思います。女川は津波で町のほとんどが無くなってしまうほどの大変な被害を受けましたが、それでもこの海と山は今でもこんな豊かな恵みを人々にプレゼントしてくれるのです。

だけどやっぱり震災の時は大変でした。「忘れるってことなんかなくて」と木村さんは言います。被災してから1年半以上たった今でも、毎日ご飯を食べる時には、あの時の話題になるのだそうです。

「地震の時はこわかったですよ。揺れがあんまりひどいから、お客さんも従業員もすぐに駐車場に飛び出していって。揺れが収まるのを待って、急いで帰ってもらいました。私は子どもを迎えに高台にある女川第一小学校に向かったんですが、余震の揺れもひどくて、途中で運転できなくなりました。見ると道路まで割れていました」

お店にいた人たちを「とにかく早く!」と帰ってもらったので、仮設店舗で営業を再開した後、「あの時お金を払っていなかったから」とやってきたお客さんもいたのだと、木村さんはニコニコしながら話してくれるんです。

美味しい料理の話と、津波地震の怖さの話。ふたつの話をどう書き分けたらいいのか悩みましたが、考え過ぎるのはやめにしました。どちらも現実。こわかったこと、大変だったこと、美味しいものをつくろうと頑張ってること、お客さんの笑顔をうれしく思うこと。いろいろな気持ちがひとつになっていまがあるのでしょうから。

プレハブでの仮営業を初めて約1年ですが、仮設ではないお店の建設計画も着々と進んでいるそうです。本店舗で営業を再開したら、女川で被災したエリアのお店として、たぶんトップバッターになることでしょう。

「被災はしたけれど、できる範囲でがんばらなきゃ。食べて笑顔になってもらうためにね」

◆香りまで美味しかった活穴子天丼ですが、ネットじゃ伝わりませんね。せめて料理のアップ画像をどうぞ!

野菜天はサツマイモ、カボチャ、シシトウ、ナス。「サクサク、ふんわり、ほくほく、しっとり」。いろんな食感を楽しめます。

はい、どうぞ、めしあがれ! カニ汁がまた美味しいんです。

木村さん、こんなことも言ってましたよ。

「外から来た人たちは、もう時間が経っているから震災の時のことを聞くのは気が引けると感じてるかもしれませんね。でも、聞いてくれたらお話ししますよ。料理のことも、震災のことも」

素材を吟味して提供するニューこのりの料理は、海のものについては基本的にすべて限定品。良いものがないときはお出しできないそうです。残念ながら冬場の穴子も同様で1月から4月頃まではオフシーズンになるそうです。でも、冬には冬の限定メニューも。それが「カキ天丼」と「白子天丼」。女川に行って、被災地のいまを目の当たりにして、ニューこのりで美味しい料理を楽しみましょう。ぜひ!

活魚ニューこのり宮城県牡鹿郡女川町小乗浜字小乗87-2

電話 0225-53-2134営業時間 11:00~19:00 (火曜日定休)

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TEXT+PHOTO:井上良太(株式会社ジェーピーツーワン)

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