1号機圧力抑制室で水漏れ箇所がはじめて特定される

iRyota25

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格納容器からの漏洩箇所のひとつは、圧力抑制室への配管だった

TVA Timeline:Construction begins on Browns Ferry Nuclear Plant より
TVA Timeline:Construction begins on Browns Ferry Nuclear Plant より

www.tva.gov

写真は建設中の原子力発電所。据え付けられた格納容器がむき出しになっている。ただしこれは東電の事故原発のものではなく、米国TVA(歴史の教科書に登場するあのTVAです)が運営するブラウンズフェリー原発(アラバマ州)の工事風景だが、事故原発と同じマークI型の原子炉だ。フラスコ型の格納容器の中には、燃料を装荷する圧力容器が入っているはず。手前には圧力容器の蓋も写っている。

そして、フラスコの下部をぐるりと取り囲むドーナツ型が「圧力抑制室」だ。圧力抑制室は「サプレッションチャンバ―」と英語で呼ばれたり「S/C」と略記で示されたり、その形状から「トーラス」と呼ばれたり、さまざまな呼ばれ方をする。ただし「トーラス室」という時は、鋼鉄の中空ドーナツである「トーラス」を納めるようにトーラスの外に造られる部屋のことなので注意が必要だ。上の写真では、トーラスを取り囲むように鉄筋コンクリートの型枠工事が進められているように見える。

さて、圧力抑制室・トーラスの内部には水が溜められていて、原発事故で圧力容器内の圧が高まった時には、蒸気を圧力抑制室の水の中に通して、蒸気の温度と圧力を下げる役割を果たす。フラスコ型とトーラスをつなぐ短いタコの足のような配管はベント管と呼ばれる。

東京電力の事故でもベントという言葉は重要なキーワードになったが、原子炉内の気体を大気中に放出し、格納容器内の圧力を下げる操作をいう。タコ足状のベント管は、トーラス・S/C内の水を潜ることで、主に放射性ヨウ素の濃度を下げたうえでベントする「ウェットベント」の際に主要な役割を果たすからこう呼ばれるのだろう。(圧力抑制室を示す言葉をワザと織り交ぜて書きましたが、慣れていただけましたでしょうか)

ずいぶん長い前置きになってしまったが、今回事故原発の1号機で発見された格納容器からの漏洩箇所は、フラスコとトーラスをつなぐタコ足周辺の配管で発生していた。

ロボットを使った調査で発見

昨年11月13日、無線操縦のボートにカメラを搭載して1号機原子炉建屋地下のトーラス室(こちらは「室」なので要注意。S/Cの内部ではなく、トーラスの外側)に溜まった水の上を調査。ドーナツの内側にダダ漏れ状態の水の流れが見つかったニュースを覚えているだろうか。

 東京電力 写真・動画集| 【11/14動画追加】福島第一原子力発電所1号機ベント管下部周辺の調査結果について(1日目)
photo.tepco.co.jp  

ページ下部に動画へのリンクが設定されており、遠隔操作のPCモニタに映し出されるダダ漏れの水漏れが確認できる。

昨年11月の調査の概要(http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2013/images/handouts_131114_06-j.pdf)
昨年11月の調査の概要(http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2013/images/handouts_131114_06-j.pdf)
 福島第一原子力発電所 1号機ベント管下部周辺の調査結果 について|東京電力 平成25年11月13日
www.tepco.co.jp  

この時は、水が流れている状況はカメラに収めることができたが、漏洩箇所を特定することはできなかった。そこで今度は水上ではなく陸上からロボットを使った調査が行われることになったわけだ。

リモコンボートやロボットを使う理由、それはもちろん現場の高線量だ。ボートが航行した水面での線量は約0.9~約1.8Sv/hという。これは1時間その場所にいるだけで多くの人にガンが発生し、2時間から3時間で死者が出るほどの高い線量だ。

そこで今回は、トーラス室に設置されたキャットウォーク(工場内などに設置された狭い作業用通路。日本語では犬走り)に「日立GEテレランナー」というロボットを入れて、半年前の調査で水が流れていた上の方がどうなっているのかが調べられた。

今回の調査概要(http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2014/images/handouts_140527_06-j.pdf)
今回の調査概要(http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2014/images/handouts_140527_06-j.pdf)
 福島第一原子力発電所1号機 S/C(圧力抑制室)上部調査結果について|東京電力 平成26年5月27日
www.tepco.co.jp  

その結果、ベント管と圧力抑制室をつなぐ真空破壊ラインの配管にある伸縮継手の両端で、水の漏洩が発見された。

ここでまた新しい言葉。真空破壊ラインというのは、配管内の蒸気が急冷されると容積が急激に減少して真空に近い状態になって機器にダメージを与えかねない。そうならないように真空状態をブレイクするための弁ということらしい。伸縮継手はパイプの一部をジャバラ化して、熱膨張や地震動による配管の破壊を回避するための継手。継手に被せられたスリーブの両端から漏えいが確認されたとしている。

調査結果(http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2014/images/handouts_140527_06-j.pdf)
調査結果(http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2014/images/handouts_140527_06-j.pdf)

廃炉に直結する具体的な行動は始まったばかり

1つとは言え漏水箇所が特定されたのは大きな進歩だろう。しかし、水漏れの場所が分かったからといって、それを止める手立てはない。人が入っていくことが可能になるレベルまで線量が下がるのは、まだ遠い先のことだろう。ロボットはトーラス室外側のキャットウォークから、内側寄りの伸縮継手をズームして撮影しただけだ。

さらに、格納容器内での水の流れがどうなっているのかは、まだまったく分からない。トーラスの上部に設置された真空破壊ラインから漏れているということは、少なくとも格納容器内部の水位がその高さ以上ある可能性は十分考えられる。またトーラスの内部が満水ということもありうるだろう。しかしトーラスの外側・トーラス室はそこまで高い水位があるわけではない。トーラス室から外部(たとえばタービン建屋など)への漏出ルートがあるはずだが、それはまだ分からない。

人間が立ち入ることができない現場で漏洩箇所を特定できたということは、極めて大きな成果と言えるかもしれない。しかし、廃炉への長い道程の中では小さな小さな一歩でしかない。この一歩が前進につながっていくことを、期待して応援したい。

調査は5月28日も引き続き行われる予定という。

福島第一原子力発電所1号機S/C(圧力抑制室)上部調査結果「キャットウォーク」
福島第一原子力発電所1号機S/C(圧力抑制室)上部調査結果「キャットウォーク」

photo.tepco.co.jp

 東京電力 写真・動画集| 福島第一原子力発電所1号機S/C(圧力抑制室)上部調査結果
photo.tepco.co.jp  

日立ニュークリアエナジー(株) 提供のトーラス上部の調査画像と動画。動画はページ下部にリンクが設定されている

今日の東電プレスリリース「ここがポイント」
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文●井上良太

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