2015年11月15日9時45分頃、パトロール員がRO2-5ブースターポンプ出口配管の継手部からの漏洩を発見。装置を停止し漏洩を止めた。
まず前提として説明させていただく。淡水化装置という名称が付けられているが汚染水を淡水に変えてしまうような装置ではない。汚染水を逆浸透膜でろ過することで、濃縮された汚染水と、汚染度のきわめて低い水(これを東電は淡水と呼んでいる)に分離するのが淡水化装置の実態だ。汚染度を下げた水は原子炉の冷却水として再利用されている。つまり、事故原発での水処理のサイクルを構成する設備だと理解してもらえばいいだろう。
さて、今回のトラブルについて、東京電力が11月16日に発表したプレスリリースから紹介させていただこう。
漏洩はジャバラハウスと呼ばれる建物の堰の中に、細長く溜まった。漏洩水の分析結果は以下のとおり。
セシウム134:310Bq/L
セシウム137:1,300Bq/L
全ベータ:25,000Bq/L
逆浸透膜でのろ過前の水としては中程度の汚染水といえそうだ。
資料の2ページ目は系統図。素人が尻込みしてしまうような複雑な図がポンと投げ出されている。東京電力の得意技といえるかもしれない。要するに、黒い線は逆浸透膜を使うRO濃縮装置のライン、茶色はそこで出た濃縮汚染水を蒸発によってさらに濃縮するライン。こちらは停止中となっている。青いラインは最終的に残った濃縮汚染水をタンクで貯蔵するラインということだろう。
注目すべきは、処理の流れの大本にある「SPT」という略語だ。
SPTはSuppression Pool surge Tankの略と考えられる。サプレッションプールとは格納容器下部の圧力抑制室のこと。圧力容器の底が抜けた現状では、融け落ちた核燃料の冷却のために循環している水が溜まっている場所ということだ。この高濃度の溜まり水は隣接するタービン建屋からパイプラインで種々の処理装置に送られる。つまり、汚染水処理のメインルートに淡水化装置が位置していることを示しているわけだ。
3ページ目は漏洩が起きた場所の詳細だ。エネルギー回収装置とは、RO(逆浸透膜)装置からRO濃縮廃液(放射性物質が濃縮された汚染水)が吐出される際のエネルギーを回収して、入口水に圧を掛けるもの。図ではブースターポンプとエネルギー回収装置は別のものとして描かれているが、一体のものかもしれない。
いずれにしろ高圧ポンプで掛けられた圧をさらに高めてRO装置に送る配管の途中で、今回の漏洩が発生したという説明だ。
4ページ目は漏洩状況の説明だ。漏洩検知器は2箇所に設置されていたが、漏れた汚染水が堰の端の方にたまったため、パトロールで発見されるまで検知できなかったと説明したいらしい。
核燃料が融け落ちた原子炉を冷却するために、1日約400トンの水が原子炉に注がれている。この水は原子炉内で汚染され、また1日約300トン流れこむ地下水と一緒になって建屋の地下に溜まっている。事故原発では毎日欠かすことなく、この大量の汚染された水の処理が続けられているのである。トラブルは起きないに越したことがないのはもちろんだが、長期に渡る連続運転では避けがたい事故もあり得るだろう。
いわんや、建屋外側のサブドレンから地下水の汲み上げが実施されている現在、建屋内の溜り水の水位上昇は、汚染水の地下水への流出という最悪の状況を招きかねない。東京電力はずいぶん以前から、建屋内での循環冷却を行う計画を示しているが、万一の時のためのバックアップとしても、処理系のさらなる多重化が求められる。
余談ながら
今回漏洩が発生した継手は、ゴムリングでパッキングした上にステンレス製のハウジングで固定するというかなり頑丈な継手だった。しかし、資料に掲載された写真の中を数えただけでも12カ所の接合部がある。冒頭の写真をもう一度掲載しよう。
朱色のテープが巻きつけられている箇所はすべて、90度に曲がっているエルボーと呼ばれる配管や、T継手の接合部分と思わる。しかし、それらは今回漏洩が発生した継手のようなゴツいものではない。パスカルの法則を思い浮かべるまでもなく、管路の内部のすべての部分に同じ圧力がかかるわけだから、頑丈そうな継手からは水が漏れ、その他の場所は大丈夫だったというのは不思議な感じがする。ましてこの配管は、高圧ポンプでかけられた圧をさらにブースターで高めるものだ。当初からそうとう堅牢に造られていたと考えるのが自然なのだが。
もしかしたら、この継手はエネルギー回収装置と管路の接合部で、ネジ式の継手が使えないなど止むに止まれぬ理由があったのかもしれない。しかし、それならより安全性の高いフランジ継手(写真の後ろに写っている)にするという選択は考えなかったのだろうか。東京電力の説明は言葉の上では理解できなくもないが、写真を見ていると釈然としないものが残ってしまうのだ。
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