進むかさ上げ工事で残されていくもの

iRyota25

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東北の沿岸部に行くとほとんどの場所で目にするのがかさ上げ工事です。建物の基礎部分などが取り除かれた敷地には、驚くほどの土砂が運び込まれ、大型の重機を使ってきれいに均す作業が進められています。

写真は今年の正月の気仙沼市の様子。場所はかつてJR南気仙沼駅があった近くです。

比較対象がないので分かりにくいのですが、左の電柱と比べてみてください。運び込まれる土砂の山は想像以上のスケールです。

運び込まれた土砂は上の写真のように均されていきます。
その様子を見ていると、かさ上げが進むのはまさに「復興のつち音」を象徴するようにも思えますが……。

町が変わってしまう

震災の後、日常的に冠水被害が発生するようになった場所では、震災直後から道路のかさ上げ工事が進められました。下の写真は気仙沼市仲町の特徴的な仮設コンビニがあった前の交差点です。

手前に側溝が見えるので、もとの地面はその高さだったのでしょう。かさ上げされた高さを測ってみると、目通しで1m近く。近所の方の話では80cmくらいとのこと。

「道路のかさ上げは緊急なんだもの。もっと高くなるらしいのよ。そしたら工事の間、お店はどこに持っていけばいい?」
コンビニのお店の人は少なからず工事に困惑している様子でした。

災害に対して強い町にするために、かさ上げ工事も必要かつ重要な施策のひとつでしょう。しかし、その過程では生活の基盤が失われてしまうケースがあること。そのことをぼくたちは認識する必要があるでしょう。

道路が1m近く高くなり、そこからさらに宅地や商業地の地面が高くなり、追いかけるように再び道路のかさ上げが行われる。

復興のつち音の象徴のように見えるかさ上げ工事ですが、前途にはまだまだたいへんな状況が待っているのです。

手がかりも記憶も埋められてしまうということ

被災地にはいまだに行方不明の方がたが数多くいらっしゃいます。一日も早く、と大切な人が還ってくるのを待ち続けている方がいます。

かさ上げは、そこにあった町を土で埋めるということです。

もしかしたら、津波で流された町のどこかに、たいせつな人の手がかりや遺骨がまだ残されているのではないか。

そんな切実な思いから、かさ上げ工事の前に捜索を行う活動が続けられています。

「たとえ指の骨ひとつでもいいから」

そんな話を聞くとたまらない気持になります。

私たちは、ものごとのほんの一部を見ただけで、勝手な思い込みを作り上げているのではないか。かさ上げ――。そこにも、現実を見つめる気もちの入り口があるような気がします。

写真と文●井上良太

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