東日本大震災・復興支援リポート 「進む石巻線再開工事」

iRyota25

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地盤沈下で海に洗われる線路を復活させる

「仮設住宅に入っていると買い物が不便でね」 女川町でよく耳にする言葉だ。海近くの平地が津波によって壊滅的な被害を受けた女川では、仮設住宅が建っているのは山間部がほとんど。もちろん町の中心部には店舗などない。仮設商店街も石巻へ向かう街道沿いの高台だ。買い物しようと思ったら石巻の町まで行くか、途中の万石浦駅近くのショッピングセンターを利用するか、高台の仮設商店街に行くか。しかし、バスの便数は少なく料金も高いから気軽に出かけることはできない。

かつて生活の足として利用されてきたJR石巻線。女川の中心部に位置していた女川駅から、万石浦(まんごくうら)の北側を通り、渡波、稲井を経て石巻を結んでいた。その線路と途中までほぼ並行して走る国道398号から、石巻線の復旧工事の様子を目にすることができた。

震災からしばらくの間、満潮になるたびに国道や周辺の民家まで水没していた万石浦沿岸の折立付近。道路のかさ上げに続いて、鉄道路盤のかさ上げ、線路の敷設作業が行われている。キャタピラーでも線路上でも走行可能な特殊な重機で枕木やバラス(バラスト)を敷設。枕木に線路を設置した上で、やはり特殊な重機でバラスを転圧していく。

道路のガードレールは震災前のもの。手前のアスファルト道路が大幅にかさ上げされているのが分かる。鉄道の路盤はそこからさらに高い。

枕木やバラスの敷設、線路の設置、転圧と3つのグループが同時進行で作業は手際よく進んでいく。

鉄道技術者の真剣なまなざしの先には。

今回の再開工事の終点となる浦宿駅で、若手の現場監督に話を聞いた。

万石浦は湾口が小さくすぼまった巾着のような湾なので、津波の被害はそれほど大きくはなかったようですが、地盤沈下が大きくて満潮時に冠水する箇所が少なくありません。浸水する恐れがある部分では、万石浦に面した堤防を新設したりかさ上げしたりし、鉄道の盤そのものも場所によって50センチ~60センチ高くしています。

元々海抜の高い場所を通っていた区間は、既存の線路や施設を修復して再利用しますが、低い場所は盤を上げてから新たに線路を敷設するという作業が中心です。

線路の盤を上げるということは、駅のホームも高くしなければならないので、線路だけではなく駅も含めた改修工事になります。

てきぱきと答えてくれる監督さんは、工期についてこう語った。

「来年の春、3月の開通を目指しています」

工事に携わっている人々の真剣な面持ちは、とても好感が持てた。不通だった鉄道路線が再開することは、地元で暮らす人にとって朗報だ。しかし、女川町の中心部から浦宿駅までは2.5キロの不通区間が残される。鉄道が再開したからといって、それだけで仮設住宅に暮らす人たちの生活再建が大きく進むとは思えない。

被災地の現実は厳しい。

しかし、だからといって手をこまねいていては何も変わらない。いまできることを、できるだけ早く進める。そんな努力の積み重ねが、きっと町の復活を手前に引き寄せていく唯一の方法なのだということを、自信に満ちた鉄道技術者に教えられたような気がした。 

2012年11月21日取材●TEXT+PHOTO:井上良太(株式会社ジェーピーツーワン)

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