いわき市久之浜の諏訪神社から海を望むと、そこはかさ上げの土の山。かつてコバルトブルーの太平洋が見えた場所から海の景色が消えた。
震災の翌日、3月12日の朝、赤い赤い日の出が見えたという、海に続く路地からも海は見えなくなった。当時諏訪神社の禰宜だった高木優美さんが写真に収めたのもたしかこの場所だったと聞いている。
久之浜の海沿いではかさ上げ工事がどんどん進む。辛うじて残されていた旧道沿いの建物の姿も今はほぼなくなった。早朝から日没まで大型の重機やダンプが走り回る。建物の中にいても振動が伝わってくるほど。
その一方、旧道沿いや旧道から西側では、新しい動きも始まっている。
旧道は従来の2倍以上に拡幅されるそうだ。津波とその後の火災の被害の跡を残すかつての道路と、新設される工事途中の道路を縫うように仮の通路がつくられている。
市役所支所の建設現場近くでは、路盤整備に先立って小河川の暗渠化工事も進められている。ここでも道路はぐるっと迂回。日々工事現場が変わっていく久之浜の町中を走るのはちょっと緊張する。
国道や県道・市道を走り回る工事用車両の台数を数えるまでもなく、復興工事が最盛期に入りつつあることが分かる。駅前からの景色が変化するスピードも加速されてきたように感じられる。
先ほどの道路や河川の工事もそうだが、大規模なかさ上げ工事と並行して、人手がかかる工事も各所で始まっている。
かさ上げされた土の向こうで護岸工事もラストスパートに入ったようだ。旧来の防潮堤を覆うように盛土をした上に、護岸用のブロックを敷き詰めてコンクリートやモルタルで固定する。そんな工法で建造されてきた新しい堤防が、河口まで到達していた。
震災で流された後、神社の場所を特定するのさえ困難だったといわれる久之浜北町地域の星廻宮神社(ほしのみやじんじゃ)。支援によって建てられた仮宮の鈴は、海から直接吹き付ける風に割れている。それでも星廻宮神社がこの町の復活を見守り続けていることは、地元の人たちと話しているとよく分かる。
かさ上げ工事の後、本設の星廻宮神社の姿を見るまでは死ねない。地域にはそんなふうに語るお年寄りもいる。いまはまだ仮宮の姿だが、最近追加された工事用フェンスの向こうでは、今日も何台もの重機が忙しそうに動きまわっている。
星廻宮神社の北側では橋の架け替え工事も進められている。工事現場を迂回するように高く盛られた仮設道路は、復興工事が新たな段階を迎えたことの象徴のように見える。これから町は大きく変化していく。アップダウンの大きなこの仮の道を走るたびに、町の人たちもそんな思いを強くしていくのだろう。
復興事業の中心がかさ上げ工事だった頃(ほんの数カ月前までのことだ)、工事現場で動いているのは、大型のパワーショベルなどの重機と、土を運ぶ大型ダンプばかりだった。大規模なかさ上げ工事ではGPSを利用した施工も多かったので、人の姿を目にすることは少なかった。オペレーターが1人乗り込んだだけの重機が黙々と動き回る。音として聞こえてくるのは大型ディーゼルエンジン特有のエンジン音と風の音、そして時折やってくるダンプに合図する「ピッ」というクラクションの音。そんな単調な光景と音の世界が広がっていた。
ところが今は同じパワーショベルが土を掘る以外の仕事に活躍している。上の写真は新設する道路の側溝を吊り上げているところ。道路工事は側溝や上下水道などの構造物と道路の基礎となる路床の工事が並行して進められた後、電柱を立てたりアスファルト舗装の仕上げ工程へと進んでいく。当然、かさ上げ工事のようにオペレーター1人でできる作業ではないから、まわりには必ず作業員がいる。吊り上げや設置作業を指示する監督さんの声や作業員達の話し声も聞こえてくる。
上の写真も宅地の擁壁と道路を並行して工事している場面だ。人の姿が見える、声が聞こえる、作業員が働いているということだけで現場から伝わってくる雰囲気がガラリと変わった。重機だけが黙々と動き回っていた頃には、どうかすると別の惑星のようにすら見えたものが、いまでは確かに人間の土地。それだけであたたかみすら感じられるから不思議だ。
こちらは下水道の工事。最低でも4人くらいのチーム作業で進めているとのこと。現場からは時折笑い声まで聞こえてくる。作業員たちの笑顔が工事現場だけでなく町まで明るくする。町を歩く人と作業員があいさつを交わす。知り合いじゃなくても「ごくろうさま」と声をかける。知り合いじゃなくても「急いで工事進めてっからね」と返事が返ってくる。
宅地の整地、宅地造成、道路拡幅、防災緑地工事と多種多様な看板が並ぶのも、たくさんの人がこの土地で働いていることの証。
復興に向けての工事が新たな段階に入っているのは、被災した多くの町に共通する。盛土の高さに驚愕するばかりだった頃から、人の姿が見える工事へと進展し、この先はどんどん新しい町の姿が見えてくるようになる。
しかし、新しい町の姿が現れてくることは復興のゴールではない。工事が進む中で、被災した町が抱える課題や問題がますます見えにくくなっているのを忘れてはならない。
変化し続ける被災地。いまここにしかない風景がある。たくさんの課題や問題が辛うじて、まだ目に見えるかたちでここにある。
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