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彩さんとメールをした翌日、それだけでフワフワしている自分がいました。女性とメールをした程度でこれですから、なんともまぁ幸せなもんです。ただ、友人の中には架空の女の子の名前をアドレス帳に登録し、「女友達が2~3人いる体を装っている」悪質なヤツもいました。それに比べれば、僕なんてかわいいもんです。きっと。
しかし、「また、なんかあったらメールするね!」と言っていた彩さんですが、正直、向こうから間違いメールが勝手に送信されただけの関係です。「なんかあったら」なんて言いますが、そんなものあるわけないのです。
浮かれながらも、その辺は冷静に考えていた僕。そもそもメールが可愛らしいだけで、彼女の顔もわかりません。好みとはかけ離れた容姿をしているかもしれませんし、最悪、ネカマの可能性も捨てきれないでしょう。いくらバカな男子高生だって、そんな得体のしれない人に想いを馳せるほど暇ではありません。
僕は自分にそう言い聞かせつつ授業をこなし、部活で汗を流しました。
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1週間ほど経ったある日のこと、部活を終えて携帯を見てみると、あの番号からメールが来ていました。そう、彩さんです。
「また、なんかあったらメールするね!」から約1週間、自分からメールすることはありませんでしたが、彩さんに「なんかあった」ようです。
彩「ひさしぶり~、元気?(笑顔)」
それほどひさしぶりでもないですし、なんだか昔からの友達みたいなノリです。そもそも、メールを誤送信した男相手によくまたメールを送れたもんです。15歳の僕の拙い人生経験ではちょっと理解できません。
……と、いろいろツッコミどころを感じたのですが、なんやかんやでちょっと嬉しい自分がいました。男子高校生なんてチョロいモンですね。今の僕がネカマをやっても釣れそうな気がします。
僕「元気ですよ~。どうしたんですか?」
彩「仕事終わって暇だからさ、ちょっと連絡してみた(目がハートのやつ)」
何ということでしょう。「用事もないのに連絡する」なんて、“お互い多少の気があるけど、まだ付き合ってはいない男女の関係”になって初めて許される所業です(……と、恋愛テク指南の雑誌に書いてありました)。
それこそ、一歩間違えれば“ウザいのに絡んでくる空気の読めないヤツ”になる可能性もあります。「用事もないのに連絡する」なんて、それくらい難しいのです。
ただ、悪い気はしなかったですけどね!
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さて、僕は数日にわたりそんな彩さんとメールを重ねました。
中学の時、1年にも満たない短い恋愛を1度経験しただけの僕。そんな僕にとって、年上女性とのメールなんて、未知の世界です。しかし、彩さんは年上らしく、色々と話題を振りながら僕をリードしてくれました。僕も最初は緊張していましたが、徐々に心を許せるようになり、気が付けば年上女性の魅力を感じられるようになっていました。あくまでメールの話です。
彩さんは新卒OLの22歳。なんと7歳も年上でした。慣れない仕事、慣れない一人暮らし、なにかと大変なようですが、高校生当時の僕には気の利いたことも言えません。ただ、「そうなんですね~(汗)」と相槌を打ちながら、時々自分の話をするだけで精いっぱいです。
とは言え、こうしてメールを交わしていると、世間話だけで終始するやりとりが、なんだかもどかしくなってくるもの。彩さんもそれを感じていたのか、急に改まったノリのメールを送ってきました。
彩「ところでさ、“僕くん”は彼女いるの?(笑顔)」
……日常会話の中でこんな質問をされれば、「いや、いないっすね~」と即答できるものです。しかし、メールでこんな風に聞かれると、なんだか色々勘ぐってしまいます。「これはどう答えるべきなんだ……」と。しかし、そんな不意打ちに対応できる能力もない僕は、あれこれ考えた挙句、
僕「いやー、いないっすよ」
と、普通に答えつつ、
僕「彩さんはいるんですか~?」
と、逆質問を添えました。彩さんに彼氏の有無を聞いたところで、何がしたいわけでもなかったのですが、とりあえずノリに合わせます。すると、彩さんは
彩「あたしも、大学卒業してからいないんだぁー(涙)だから寂しくって……」
寂しいからって、メールを誤送信(?)した相手の男子高校生とメールをするのか……と、今なら思います。しかし、当時の僕には年上女性が垣間見せた“甘え”が可愛く見えてしまいました。もうなんていうか、色々とアレですね!
僕「あちゃ~、そうなんですね。でもすぐにできますよ!」
という、何の根拠もない無責任な返信をする僕。「すぐにできますよ!」と言いながら、「その相手が自分だったりして」とか、正直思いました。そんな過去の自分を殺したいです。そもそも、顔も知らない相手を可愛いと思ってしまう時点でヤバいですね。男子高校生だからと言い訳していますが、根本的に自分に問題がある気がしてきました。
(後編へ続く)
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