漫才素人がM-1グランプリに出てしまった話(前編)

ockn1006

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友人Kとの再会

●2005年6月。大学1年生になったボクは完全に行き詰っていた。

うぅ、昨日と同じ服だから堂々と歩きにくい……。
お金貯めて新しい服買いたい……。

----------------------------------------------------------------------------------------■登場人物

【 ボク 】付属高校から進学した大学1年生。日々ジャージ暮らしだった男子校時代から一転、オシャレで華やかな大学生活に順応できず、ダサいファッションと金欠の二重苦に襲われる。ダサい服ばかりなので、ディスプレイそのままマネキン買いした「マシな服」を2日連続で着たりしていた。典型的な大学デビューの失敗作。
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おー、ボクやん!久しぶりやな!

K!!

----------------------------------------------------------------------------------------■登場人物

【 友人K 】高校時代の同級生。同じく付属高校から大学へ進学した。高身長イケメンなのにゲスな性格が災いしてモテない残念な男。大学入学後、本格的にパチンコにハマってしまい、20万近い貯金を3日で溶かしてしまうという荒業を見せた。
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久しぶりやん~ちょっとメシ行こうぜ

……ごめん、お金貸して?

はぁ!?

●食堂に誘っておいてお金を借りてくる友人K、さすがゲスである。しかし、彼の
 財布の中にはリアルに1円玉が数枚しか入っていなかったので、30円のブラック
 サンダーを恵んでやったら美味しそうに食べていた。

なんか急に、M-1グランプリに誘われる

いやー、しかしあれやな。一発当てたいな。

当てたいねー。お金ホシイヨ。

人並みの服装になりたい。

じゃあ、M-1出ようぜ。賞金1,000万。

はぁ!?

●Kが手に持っていたのは「M-1グランプリ」のチラシ。ボクとKはお笑いファン
 として意気投合し、高校時代は2人で劇場まで観に行くほどの仲だった。

   ■M-1グランプリとは
   2001年~2010年にかけて開催されていた、若手漫才師日本一を決める大会。
   毎年年末になると、決勝大会がテレビ放送され、ここで名前を残したコンビの
   多くが、のちに売れっ子になっていった。

   最大の特徴は「プロ・アマ問わずに参加可能」という点。参加費を払えば、素人
   でも参加できるシステムで、全国から多数のアマチュアコンビも参加していた。
   正式名称は「オートバックスM-1グランプリ」。

 オートバックスM-1グランプリ 公式サイト
www.m-1gp.com  

じぶんお笑い好きやろ?出ようぜ。

いやいやありえへん。

あれ?お笑い好きなクセに、じぶんは全然おもんないな。

いや、意味わからん。

よく今のお笑い業界を語るクセに、じぶんは舞台にも立たんねや。

…………、

まぁ、別にしゃーないか。

……………………、

素人がお笑いを評論するのは自由やもんな。

……………………デルワ、

まぁ、でもがっかりやわ。

……………………出るわぁぁぁあああ!!!

(ニヤリ)

●こうして半ば強引に、M-1グランプリに出るハメに……。
 ボクらは優勝賞金1,000万円を目指し、ネタを考えることになった。

コンビ名を考えよう

●漫才を行う上で必ず必要な「コンビ名」。
 しかし、ボクらは「コンビ名」を考えるだけのことに2時間以上費やしていた。

カメルーン代表

すねかじり

ショートオーバーツーベース

貯金男子

●奇をてらったコンビ名にしたがるKと、コンビ名に意味を持たせたいボクで意見は
 真っ二つ。Kはコンビ名からウケ狙いでいきたいと言う。しかし、どんな名前を
 付けてもどこかスベっているし、そもそも頑張るところはそこじゃない。

 とりあえず、このままでは進まない。

じゃあもう、お互いの好きな言葉を組み合わせた名前にしよ!
決まらんわ。

……せやな。

●お互いそれなりに案を出していたので、お互いの案をくっつけたコンビ名にする
 ことで落ち着いた。

……せ~~~の!!

――――――――!?

●コンビ名は「スネ夫てんこもり」になってしまった。

「はいどーもー」のあとに続く言葉を考えよう

●漫才が素人ならネタ作りも素人な2人。
 何ひとつ知識もないまま、ネタ作りが始まった。

まずは「はいどーもー」やな。

せやな。

「はいどーもー、 “スネ夫てんこもり” です」

「よろしくお願いしますー」

……んで、このあとなんて言うたらえぇんや?

そこはベタに「ボクら2人で漫才やってるんですけど……」やろ。

いや、2人で漫才やってんのなんか見たらわかるやろ。

じゃあ「名前だけでも覚えて帰って下さいね」か?

俺ら素人やぞ。

1日100組以上出るのに、「名前覚えてくれ」とか言うても無駄やろ。

それやったら
「頑張っていかなアカンなぁ言うてますけど……」
とか?

ネタ時間2分やのに、そんなありきたりな台詞ばっかり喋るんか?

ほな、どないしたいねん?

……………………、

無いんかい!

……てか、このやりとり漫才っぽくない?

もうえぇわ!!

(2人だけ爆笑)

●ネタ作りは進まなかった。

会場の下見をしよう

●ボクらは会場の雰囲気を確かめるため、すでに行われている1回戦の予選会場へ行く
 ことにした。

笑いの殿堂「なんばグランド花月」
笑いの殿堂「なんばグランド花月」
……に併設された「NGKスタジオ」がその会場(※現・よしもと∞ホール大阪)
……に併設された「NGKスタジオ」がその会場(※現・よしもと∞ホール大阪)

■ビビるポイント その1
 年末には高視聴率を記録するお笑い大会も、夏の1回戦は観客がまばら。その観客も
 ほとんどが出場者らしい。テレビでよく見るようなプロはほとんどが2回戦からの
 出場のため、1回戦はデビューしたてのプロかアマチュアが大半。もちろん、【ウケ
 るコンビはごくわずかで、会場内はカオスな空気が漂っていた】。

これはアカン……

この冷えた空気はやりづらいぞ……

せやな……

■ビビるポイント その2
 しかし、どれだけ会場が凍りついていても、一発で空気を変えてしまうコンビも
 いるから凄い。数年後にはテレビの賞レース争いの常連になる「銀シャリ」もいた。
 よく、本当にウケたときは爆発音のようにドッ!!と笑い声が響くと言われるが、
 まさにその通り。ウケるコンビは何か違うものを持っていた。しかし、【そのあとの
 コンビにとってはプレッシャーでしかない】だろう。

めっちゃウケてるやん……

これだけウケたコンビのあとはやりづらいぞ……

せやな……

■ビビるポイント その3
 ごくたまに、TVで放送できないようなアブないネタをぶちまけるアマチュア
 コンビも。(国民的アニメキャラに扮してグロ漫才など)

 また、2分間放送禁止用語(エロ)をひたすら連呼するだけのコンビもいて、
 【明らかに変な空気になっていた】。ほとんどのお客さんがドン引きしていたが、
 しかし、やっている本人たちは清々しい表情をしていたから謎。そういう癖が
 あったのだろうか。

めっちゃ放送禁止やん……

これだけドン引きなコンビのあとはやりづらいぞ……

もはや、やりやすい場面ゼロやんけ。

●こうしてボクらは漫才の怖さを散々思い知った。
 本番は翌週―――。



(つづく)

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