漫才素人がM-1グランプリに出てしまった話(後編)

ockn1006

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 (前記事)漫才素人がM-1グランプリに出てしまった話(前編) のつづき
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オートバックスM-1グランプリ 公式サイト
 オートバックスM-1グランプリ 公式サイト
www.m-1gp.com  

2001年~2010年にかけて開催されていた、若手漫才師日本一を決める大会。毎年年末になると、決勝大会がテレビ放送され、ここで名前を残したコンビの多くが、のちに売れっ子になっていった。最大の特徴は「プロ・アマ問わずに参加可能」という点。参加費を払えば、素人でも参加できるシステムで、全国から多数のアマチュアコンビも参加していた。正式名称は「オートバックスM-1グランプリ」。

●ひょんなことからM-1グランプリに出場することになった漫才素人のボクら。

M-1出場は誰にも言わない

●漫才の大会に出るクセに、ボクらはその事実を誰にも伝えていなかった。
 ヘタに誰かに応援されて、恥をさらすのが怖かったのだ。
 この時点で、なんだかいろいろ負けていた。

「はいどーもー、スネ夫てんこもりです」

「よろしくおねがいします」

●そんなボクらはもっぱらカラオケで練習していた。
 誰にも聞かれず練習できるからだ。

 ネタは「根暗な(設定の)Kがボクの指導で明るく(キ●ガイに)なっていく」
 というもの。

(中略)

「うわぁ!味の素がいっぱい~」

「味の素まだまだあるよ~」

(ガチャ)

「すみません、ドリンクお持ちしました!」

(ビクッ!)

「あ、あ、ありがとうございます(小声)」

●見られて恥ずかしいクセに、それでも漫才に挑む2人。
 優勝なんてできるはずもなく、誰かに見せたいわけでもなく。

 行きつく先はどこなのか……

そして本番当日……

●予選当日。
 M-1グランプリの1回戦には1日あたり100組以上のコンビが出場する。
 予選は1日がかりで行われるため、

 「エントリーNO.××~×× は14時集合」

 と、サイトに掲示されるのだ。ボクらは14時集合だった。

10時。大阪・なんば
10時。大阪・なんば

あと4時間か……

はやいね……

吐きそう……

ヤバイね……

●近くの路地裏でネタ合わせをしたボクらは、そのまま会場のNGKスタジオへ。

 案の定、会場の空気は重く凍てついていた。

すまん、ちょっとノート見せて

お前……さすがにもうネタは覚えとけよ!!

…………、

(嫌な予感しかしない……)

●そして、いよいよ順番が近づいてきた。

さぁ、続いては6組です。
いきまっしょー!

エントリーナンバーXX!●●●!
エントリーナンバーXX!●●●!……

…………、

エントリーナンバーXX!スネ夫てんこもり!

……なんやこの名前。

(クスクス……)
(クスクス……)

(名前でウケた!?)

●ボクらの運命は……!?

出番待ち

●持ち時間は1組2分。
 漫才は5~6組ずつ連続で行われ、ボクらはグループの6番目だった。

 舞台そでからは、アマチュア勢のテンパリや嗚咽が伝わってきてカオスそのもの。

(周りが何も見えない……。)
(人生最大の緊張だ……。)

●しかし、ここで事件が起こる。

あ……、えーー……

(パクパク)

●手前で演じていたコンビはどうもネタが飛んでしまったらしく、
 顔面蒼白で黙ってしまった!

ネタ飛んだ?

あれ、ネタ飛んでるな……

●一気に伝播する緊張感!

 そして……

●強制暗転。(ルール上、2分を越えて続けてはいけない)

ちょwwwwwww

マジかwwwwwwwwwwwwwww

こwwれwwwはwwww

こwwwわwwwwwいwwwwwwwwwww

●恐怖を越えて笑いが出てきた2人!どうなる!?

出番!

「やめさしてもらうわ!」

「ありがとうございましたー」

デケデンデケデンデンデンデンデケ
デケデンデケデンデンデンデンデケ(出囃子)

「―――――――!」

「―――――――!」

「どうもー、スネ夫てんこもりです」

「お願いします(小声)」

「声ちっさ!」

(中略)

「じぶんホンマ暗いねん。
 もっと明るくないと、社会出たとき通用せんぞ」

「そうですか……」

「せやで。明るくて楽しい人間ならんと!

 例えば、場を盛り上げるために、
 “すべらない話”のひとつでもできひんとあかんねん」

「あぁ。僕この前ね、友達とスノボ行ったんですけど、
 僕だけちょっと体調崩して、結局ずっと部屋で寝てたんですよ」

「…………」

「…………」

「……いや、その “すべらない” ちゃうねん!」

(アハハハ……)
(クスクス……)

(―――――――ちょっとウケた!?)

●完全に想定外。
 人前で一度もネタ見せせず、ぶっつげ本番で挑んだボクらだったが、
 少しウケてしまったのだ。

 本来、漫才はウケてナンボなのだが、
 正直ウケるなんて思っていなかったため、逆に舞い上がってしまった!

(あわあわ……)
(あわあわ……)

その後、完全に舞い上がったボクらは

「噛む」「ネタを一部飛ばす」「残りをスベる」

の三重殺を犯してしまった!!

ツカミでウケたことをピークにスベり出したネタは、そのまま二度とウケることなく終了した。

優勝はブラックマヨネーズ!

●月日は流れ、2005年12月。

 年末の風物詩、「M-1グランプリ2005」の決勝戦が行われ、優勝は大阪で活躍中
 だったブラックマヨネーズに決定した。

●ボクらは、いち漫才ファンとしてM-1グランプリを楽しみ、
 それぞれの冬を過ごした。

いやー、やっぱりお金欲しいなー

(地道にこつこつバイトするしかないな……)

たしかに。大学生は大学生なりにいろいろ必要やわ

(地道にこつこつパチンコするしかないな……)

あ、そろそろ用事(バイト)やし、ちょっと行くわ

あ、俺も(パチンコ)行かなあかんわ……

ほな、またな。

●漫才をかじった青春でした。

                   完

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