東日本大震災・復興支援リポート 「雄勝硯の伝統を継承していく若い力」

iRyota25

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雄勝硯の伝統を受け継ぎ、町の再生を目指す、雄勝硯生産販売協同組合のお二人に話を聞きました。

1人目は小木曽誠さん。硯づくりの工人を目指す若手です。2人目は高橋頼雄さん。雄勝石の工芸アーティストであり、かつ組合の事業を引っ張るスタッフであり、さらに町の復活を目指す活動にも多数参加。雄勝の未来に欠かすことのできにないお二人です。

◆小木曽誠さん「石を見る。硯という字がそう書くように硯づくりはそれに尽きる」

「いまここで作業している「磨き」もそうですが、採石から整形、磨きまで、硯づくりの一連の流れを経験させてもらっています。磨きというのは、砂摺りという荒く研磨した状態の製品を、耐水ペーパーを使って磨き上げ「鏡面仕上げ」する工程です」

荒く研磨した状態では、どうしても研磨に使った砂によって傷のようなものが残ってしまう。それを滑らかに仕上げるのが磨きの仕事なのだとか。小さな傷を平らになるまで磨くのだから、そうとう時間がかかる作業と思いきや、「かかる時間は1枚あたり3分とか5分ですね」と小木曽さんはあっさりと言う。

「時間をかけて磨けばいいというものではないんです。石を磨く作業は包丁を研ぐのと似ているかもしれません。経験とともに研ぎ澄まされていくのが耳です。水を付けて磨くので、どれくらい磨けているかは見ただけでは分かりにくいのです。とくに初心者の頃はそうですね。でも、経験を積むな中で、磨き加減が音で判断できるようになってくるんです」

なるほど耳かと唸ってしまった。まじめな表情でさらっと言われると説得力が違う。工人ならではの空気のようなものまで感じさせられる。小木曽さんはまだ硯を彫る工程はほとんど経験してないそうだが、ここ雄勝の地でさまざまなものを習得しているようだ。

「硯と言う字は、石を見ると書きます。その通りなんです。山で採石する時には、岩に走る目に沿って杭を打ち込んで母材を切り出すんですが、その目っていうのが素人にはよく分からない。試しに叩いてみると、目に沿って入ればバキバキバキと音がしてパカッと割れるんですが、うまく目に入らないと鈍い音がして大ハンマーが弾き飛ばされるだけ。でも、採石のベテランともなると、石の目が分かるだけではなく、石を切り出す前から、中がどうなっているかまで見えている。奥が深い世界なんです」

石を見ることの深さは採石だけではなく、硯生産のすべての工程に言えることだという。それは雄勝石が持つ石そのものの魅力を見出すことでもそうだ。

「石には表情があります。こんな風に言っても理解してもらいにくいかもしれませんが、石にもやっぱり顔があるんです。それは模様だったり、色合いだったり。まだうまく表現できませんが、たしかにあるんですね」

小木曽さんは震災の前年に雄勝硯生産販売協同組合に就職し、今日まで修行の中で経験を積んできた。震災で職場環境は大きく変わってしまった。小木曽さん自身の生活や将来も大きな影響を受けた。

「雄勝硯の伝統を継承していくのが、協同組合しかないことは間違いありません。大きな役割があると思います。その一員として、自分には一翼を担いたいという意思があります。伝統を正しい形で伝えていきたい。まだ今後について語れる段階に至っていませんが、伝統を正しく伝えたいという思いは強いです」

小木曽さんは石を磨く腕に力を入れてそう話してくれた。

◆高橋頼雄さん「町の復活も、硯の伝統継承も大丈夫。できます。やります」

以前、事務局長の千葉隆志さんに話を伺ったとき、

「スタッフもひとつの仕事だけでなく、いろんな業務を掛け持ちでやっていかないと。営業もやる、事務もやる、企画もやるし生産に関することもやる。背水の陣の気持ちで伝統工芸の継承に取り組んでいる」

そんなこと話してくれた。高橋頼雄さんはまさに千葉さんが言うとおりの人。

協同組合のプレハブ事務所の展示コーナーに「頼」の一文字があしらわれた石皿があったので、もしやと思って聞いてみたら、やはり高橋さんの作品だった。伝統工芸品である雄勝硯の復活のため、協同組合の事業推進に力を注ぐ一方、雄勝石を使った工芸アーティストとして、高橋さんは被災硯やスレートを用いた作品を制作している。

協同組合のスタッフであり、職人でもある高橋さんだが、彼の顔はそれだけではない。石巻エリアの参加型・魅力発見プロジェクト「石巻に恋しちゃった」では、2月10日に開催された「雄勝石アートと海鮮丼」に、雄勝石のスレートにペイントするアートプログラムの達人として登場した。さらに、雄勝まちづくり復興プロジェクト委員会の委員長も務めている。

雄勝硯の復活のため、そして雄勝の町の元気のために奔走している高橋頼雄さんだ。

取材に伺った日にも急用が次から次へと入ってきて、立ち話ほどの時間しかなかったが、高橋さんに聞きたかったことはズバリこのことだ。

「硯以外の商品など、いわばニュービジネスで資金を稼ぎながら、若手の職人を育てていくプランの目算は?」

職人が一人前になるためには10年という時間がかかると言われる。それだけの時間が必要とされる長い事業を続けていくための手応えを聞きたかったのだ。高橋さんの答えはこうだ。

「材料の供給から生産、販売のサイクルがうまく回りさえすれば、問題ないでしょう。いまはまだ震災から立ち直れていない面もあって、とくに材料不足の状態。しかし、すでに見込みは立っています」

短く歯切れ良い高橋さんの言葉には、自信と自負と使命感が感じられた。

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●TEXT+PHOTO:井上良太(株式会社ジェーピーツーワン)

最終更新:

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  • H

    habihabi64

    小木曽さんが手でお持ちになっている石をじっと見ていると、確かに顔があって音(=声)があるように思いました。600年の歴史と硯への思いを伝えていってほしいです。