明日を目指すお店リポート:石巻「雄勝硯(おがつすずり)生産販売協同組合」

iRyota25

公開:

4 なるほど
3,873 VIEW
0 コメント

石巻市雄勝町は日本一の硯(すずり)の産地。その歴史は古く、およそ600年前の室町時代から続くといわれています。雄勝硯を有名にしたのは、仙台藩の伊達正宗。牡鹿半島に鹿狩り訪れた際に献上された硯を正宗はいたく賞賛し、硯の生産を保護・奨励したとされます。と、ここまでは雄勝湾の呉壺付近に津波に耐えて残された文化財の説明看板(雄勝町教育委員会・平成5年)をもとにした説明ですが、東日本大震災以降については、雄勝硯生産販売協同組合事務局長の千葉隆志さんにお話しいただきましょう。(2012年11月18日)

被災した町から発掘された奇跡の雄勝硯

雄勝は日本一の硯の産地でした。生産量は全国の9割近くにのぼります。その理由はこの地で産出する特有の石の質によるものです。粘板岩と呼ばれる石からつくられますが、中国の端渓(たんけい)と比べても、勝るとも劣らないものとして高く評価されてきました。

しかし、今回の東日本大震災で雄勝の町はすべて流されてしまいました。もともと雄勝の中心部には硯の工房が軒を並べていたのですが、いまではご覧のとおり何も残されていません。工房の建物も、製品も、特注の道具類も、石を切り出すための重機も何もかもなくなってしまったのです。震災後、雄勝に残っている工人(職人)はひとりしかいません。

工人の高齢化が進んでいたこともあり、工房単位での個人復興は無理でした。しかし、600年続いてきた伝統工芸をここで途切れさせることはできません。私たちは国の補助を受けながら、組合として雄勝硯の工房再建をはかっているのです。

養成期間「10年」をどう生き抜くか。

雄勝の町を歩けば、いまでも掘り出された硯が建物の基礎の上に並べられている。かつての持ち主を待っているように

雄勝硯の再建を目指してまず始めたことは、津波で流されて町なかに散乱した硯を拾い集めることでした。ボランティアさんの手も借りて集められた硯の中には、奇跡的に原形を残しているものもありました。それらを選別して販売し、資金をつくることから事業再開はスタートしたのです。

 組合の事務所では硯や硯石を使ったクラフトが 販売されている

組合の販売ブースに並べられている硯も、すべて拾い集められたものなんですよ。中には蓋がなくなって硯の本体だけになっているものもありますが、どの硯も大震災の前に工人たちが丹精込めて作ったものです。新しい硯をつくることが不可能に近い状況ですから、将来に向けての資金作りに残された硯を活用しているのです。

硯は山から切り出した石を、工人が手で彫ってつくるものです。一人前になるまでには長い年月がかかります。技術の習得の問題ですので一概には言えませんが、ざっと10年はかかるといわれる世界です。

こちらは硯の石を使った箸置き

震災後、組合では宮城県出身の若い人を2名、硯製造の担い手として新規に採用しました。1名は工人として、もう1名は石の切り出しなどの作業で経験を積んでもらう計画です。しかし若い彼らが一人前になるまで、どうやって組合の工房を維持していくか。それが私たちにとって大きな問題なのです。拾い集めた硯だけでは、もちろん足りません。

たとえば石皿があります。硯に使われる粘板岩は薄く割れる性質がありますので、それを料理の皿として利用しようという商品です。皿なら硯ほどの技術は必要とされませんから、現在の体制でも生産が可能です。震災前から料理の見栄えが良くなると評価されていますので、工人を養成していく期間の資金源のひとつになると期待しています。

先人たちにできて、我々にできないはずがない。

千葉さんのまなざしは鋭くてやさしい

私たちには国に指定された「伝統工芸品」というバックボーンがあります。なんとしても雄勝硯の伝統を次の世代に伝えていかなければなりません。現在は硯以外の商品として、石皿や箸置きなどを製造していますが、それだけで足りるとも思えません。事務方の職員も危機感と責任感をもって、新しい商品の開発などにあたっています。

何がそうさせるか?

信念。それだけです。

雄勝硯の歴史は600年。ということは、明治・昭和の三陸沖地震はもちろん、慶長地震や寛政地震など、幾度となく大津波による被害を経験してきたのです。きっと現在の雄勝の姿と同じような、大変な状況が繰り返されてきたのだと思います。津波被害を受けた先人たちはあきらめたでしょうか? あきらめていたら雄勝硯が今日まで伝わることはなかったでしょう。

重機もない時代の先人たちが、津波被害から何度も立ち上がってきたののです。現在の私たちにできないはずはありません。

でも、ふつうであれば、どこかで折れていたんでしょうけどね。私自身、いまは毎日1時間半かけて雄勝に通っているんですよ。でも、「仕事があるだけでも良し」、という思いもある。そして伝統を自分たちの時代で途切れさせるわけにはいかないという信念がある。

私はね、信じているんですよ。

立ち上がりさえすれば、やれると。

[リンク]

雄勝硯生産販売協同組合住所:雄勝伊勢畑84-1 おがつ店こ屋街(石巻市雄勝総合支所前)
電話:0225-57-2632三陸自動車道 河北ICより車30分

 雄勝硯 生産販売協同組合
ogatsu-suzuri.jp  

雄勝硯のほか、硯石を使ったクラフトなどを製造販売しています。

 東日本大震災・復興支援リポート「雄勝硯の伝統を守る工人・遠藤市雄さん」
potaru.com
 ▲「復興支援ベース」に戻る
potaru.com

●TEXT+PHOTO:井上良太(株式会社ジェーピーツーワン)

最終更新:

コメント(0

あなたもコメントしてみませんか?

すでにアカウントをお持ちの方はログイン