息子へ。被災地からのメール(2012年11月24日)

iRyota25

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2012年11月24日

◆ 石巻のきれいな夕日の日差し中で

でも、そんな重たい気持ちを経験をする中で、黒ずくめの先輩の姿が鮮やかに感じられてきたんだ。不思議なこと、おかしなことかもしれない。自分の中で感じていることを誰かに分かってもらいたい、共有したい、なんでもいいから気の利いたことを答えてもらいたい。そんな風に思うようになっていた。こんな感覚、初めてひとり暮らしを始めた大学1年の時以来だと気付いて、自分でもちょっと可笑しくなった。でも、希求している気持ちは本物だった。

23日、しかし先輩のお店を訪ねると「留守」だった。浜松からまだ帰ってきてなかったようだ。

そこで、というわけではないけど、先輩が勧めてくれていた石巻伝統のおやつ菓子「ちゃきん」の名店、佐藤ちゃきん屋を訪ねて5個入りのちゃきんを買った。1個60円という破格の値段なんだけど、5個で300円のはずが、100円玉3個出したら50円おつりが来た。「えっ?」とつぶやくと、おかみさんがにっこりわらって、右手を口の前に立てた。「しっ!」

ちゃきんの写真を撮って記事にして、という考えがすっと薄れて、逆にスイッチが入った。ミカン・ロシアンルーレットの同志、千葉からきた若者にちゃきんを届けようと思った。父さんの仕事は取材することだけど、話が記事になるかどうかわからないけど、そんなことではなく、会って話したいと思った。もちろん、会って話せば記事にできると思っていたけれど、ふだんとは違う感覚。ライター失格かもなと思いながら、ちゃきんルーレットってどうやればいいんだろうなんて考えていた。

天気は下り坂だったが、まだ何とか雨は降らず、空は明るい側に踏みとどまっていた。それでも冬間近の冷たい風の中をふれあい商店街から「石巻2.0」まで歩く。歩いていく立町通りはほぼ東西に一直線。交差する路地ごとの微妙な角度で、日が差したり、差さなかったり。一瞬でも陽光に当たるだけで体が温まる。日が当たらない場所ではとたんに体が冷える。てけてけ歩いて10分はかからない距離なんだけどね。

「2.0」に千葉からの若者はいなかった。つい先日千葉に帰って今年は戻ってこないかも、とのこと。そう説明してくれた2.0スタッフの勝さんに、話の流れで取材を申し込んだ。

お前がやってる剣道の立ち会いとほとんど一緒の世界だと感じていた。

向かい合って「はじめ!」ではなく、相手がいないから仕方なくと思われないようにと考えても、状況はまさにそれそのまんま。父さんとしては、千葉からの来ていた人の話も聞きたかったのだけど、目の前にいる人とも話したかった。したくなっていた。ぜひ、話したかった。しかし状況は最初から不利。

彼は横浜の建築事務所からやってきている建築家だった。話の内容は、すごかったよ。共感できることがたくさんあった。でも、最初の立ち会いがうまくいかなかったことが最後まで尾を引いていた。言葉のかみ合わせがうまくいかない感触が最後まで残っていた。次に会った時には、違う感じで話ができると思う。ここでのお話の内容は別の記事で紹介するね。

それでもね、彼ら外からやってきた人たちが、町の人たちとの間でいろんな摩擦熱とか溶解熱とか気化熱とかいろんな熱を発しながら、もともとは関係なかったこの町で、「何かをしよう」としている。

最初は町に溜まった泥やヘドロをかき出すことから仲間が集まって行った。体を動かす活動を続ける中で、自分たちにしかできないことで石巻の役に立つことがないかと考えた。接点を見つけて、それを仕事として、事業として動かすようになった。事業が回り始めると微妙な不協和音も出てきただろう。そこで手を引くのではなく、動き始めた事業を地元にスピンオフして、彼らは自分たちにできる別のプロジェクトを立ち上げる、立ち上げては地元と連携する事業としてスピンオフさせ、新たにまた別のプロジェクトを立ち上げるというやり方で、継続的に活動する道ができていった。繰り返すことで「閉鎖的」と言われてきた町の中に、新しい空気を流れさせることができるようになった。

すごいことをしている人なんだと実感した。

でも、建築家としての彼の言葉がどんなふうに伝わっていくのかと、少し疑問も感じた。「2.0」というネーミングは、理解できる人にはすとんと胸に落ちるような素敵な言葉だが、意味が伝わらない人に別の言葉で説明するのは難しいのではないかと思った。

取材の後、写真撮影もお願いした。聞き取りの間は真剣勝負だったから写真を撮る時間などなかった。いったん区切りをつけて、改めて撮影という段取りにして、屋内で何枚か撮った後、重たいガラス扉を開いて外に出て、さらに何枚か撮った。

ちょうどその時、細い路地から奇跡的に陽が差してきたのさ。

若き建築家である彼の片方の頬を照らす石巻の残照。オレンジ色に輝くように見えたその光は、残された光なんてものではなく、次の朝に向けての消えることのない熾火のように輝いて見えた。

ごめん、ちょっと格好つけすぎか。でも、父さんが感じた以上に熱いものを、外見はクールでスマートな彼が内側に持ち続けてきたことは間違いない事実なんだよ。でなければ、彼がここにいるわけないんだから。

 翌日の話に続く・・・

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