息子へ。被災地からのメール(2012年12月23日)

iRyota25

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12月23日 石巻街なか

あたりが暗くなりはじめるとともに降りだした雪が、街をうっすらと覆い始めた頃、石巻の街なかのアートスペースに元気のいい二人連れが駆け込んでくる。

「あ、やっぱりそうだ!」と一人が小さく叫ぶように言う。

「雪が降ってきたけど、私、今日、とってもハイなんです」もう一人が遮るように言う。次のお言葉はといえば、

「Facebook見たから、いるんじゃないかって思ったんですよ」だったり、「今日はいろんなことがあって充実していたなあ。初めて取材のアポも取ったんですよ」だったり。

会話のラインが2本、同時に並行して進んで行く。

彼女たちは二人とも「外」から石巻にやってきて、定住して、いろいろ活動している人たちで、ひとりは銀塩フィルムを愛する写真家。ひとりは元・教諭。なおかつ二人はルームメイトだ。日和アートセンターが取り持ってくれた不思議な縁で、二人とは知り合いになっていた。といって取材対象とか顧客とかみたいなビジネスライクな人間関係ではなくて、石巻で知り合った年の離れた友人って感じ。「住んでみなければ分からないことって、あるんですよ」とアドバイスしてくれたりもする。貴重な先輩でもある。

彼女たちのうちのひとり、元・先生が言ったとおりなんだが、ほとんどユニットと言ってもいいようなふたりが、写真を撮ったりおしゃべりしたり(人を勇気づけたり、人と人を結びつけたりする重要なミッションだ)に加えて、街を元気にする小冊子のインタビュアー兼ライターの仕事をすることになったというんだ。

で、ふたりが声を揃えて言ったのは、「インタビューの心得、これだけはってのを教えてください」ってこと。まだ二人には取材したことはないし、誰か他の人をインタビューしているところを見られたわけでもないのに、まっすぐな眼差しで聞いてくるんだ。

まいったなあと思いながら頭に浮かんだのは、ずっとこのページで書いてきた「共感する力」ということ。でもそんなこと、大真面目に言うようなことじゃない。説明するのもおしょすい(宮城の言葉で気恥ずかしいといったところ)なあと思った次の瞬間、ほとんど条件反射のように頭に上ってきた言葉、というか出来事があった。

それは、彼女たちとは別の、だけど彼女たちもよく知っている、石巻でがっつり活動している写真家、ケースケさんとのやり取り。前回の石巻行きの最終日、ダイビングによる街おこし、観光振興のための海中調査に同行して、イケメン漁師のカンノさんの船に乗せてもらっていたときのことだ。

ダイバーのタカハシさんたちが海に入っている間、船上組は浜のこと、海のこと、漁業のこと、牡蠣養殖のことなど、ゆらゆら揺れる小舟の上でのんびり話し込んでいたんだけれど、ひょんなきっかけから写真の撮り方に話が進んだ。ケースケさんの写真って、なんていうか、人間味が濃厚に表に出ているというか、とにかく温かいんだ。どうしたら、あんな写真が撮れるの? と尋ねたところ、ケースケさん曰く。

「ただ、ふつうにその人と会って、その人と話して、写真を撮るだけで、難しいことなんか考えてないですって(笑)」

タバコを一服するくらいの間をおいてケースケさんは続けた。

「ただ少なくとも、写真を撮る相手に対する愛情は必要ですね」

ゆらりゆらり揺れる小舟の上で、ケースケさんのその言葉が胸からお腹にかけてジワンとしみた。そうだよな、と思った。同感だった。人に話を聞くときも、インタビューの記事を書くときも同じだと思った。でも、自分は「愛情」とは思っていなかった。ていねいな聞き取りとか、しっかりした表現とか。「共感する力」というふうに思っていたそのことそのままだと感じたんだ。

んでね、インタビューの心得なんて気恥ずかしいことを聞いてきてくれた後輩兼先輩に、そのときのこと、小舟の上でのことをそのまま話したんだ。

「ふーん、なるほど、愛情なんですね」

どこまで伝わったか、わからない。でもたぶん伝わったと思う。

共感するということは、できるだけ近づこうとすること。でも人はそれぞれだから、考え方が異なるいろんな人に共感していたら、わけがわからないことになりかねない。

たとえば、津波がくる可能性がある海岸沿いに住んじゃいけないのかどうか。たとえば、海岸線に新たにつくる防潮堤の高さ5メートルは高過ぎるか低すぎるか。復興に向けての都市計画では住民のコンセンサスとスピードとどちらが大切か。

どっちの肩を持つ?

どっちかを選ぶなんてできないだろう。

人間だもの、考え方や意見は違う。だけど、違う考えの人だからっていちいち敵対していたら、なにも前に進まない。

そっか、愛か。

いや、愛はそんなもんじゃね。

ぐるぐるまわる頭がすっと収まりどころに収まって行く。だって、日和アートセンターから外に出ると、雪は街を包み込むように、角という角をふんわり白くまあるく変貌させていたから。

石巻のクリスマスイブイブ。道につもった粉雪を踏みながら、そんなこと考えながら父さんはライブ会場へと戻っていったんだぜ。

暗い空から落ちて来て、街の街頭に照らされてふわふわ舞う白い雪の破片を眺めながら。石巻と女川の人たちへの愛をガーッと猛烈な声量で歌う徳田さんのライブへとね。

愛、なんだな。

むずかしいけど。

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